日本の古き良きものを次世代へ リビセン代表・東野唯史が考える理想の未来とは

程よく朽ちた木の温もり、時代を物語るようなアンティークの家具、一見不揃いの風合いが混じり合ってできあがった空間は不思議な居心地の良さを感じさせる。これらは、長野県諏訪市に多数点在する店舗の特徴だ。仕掛け人は、同じく諏訪市に拠点を置く「ReBuilding Center JAPAN」ことリビセン。古民家リノベーションの先駆け的存在として知っている人も多いことだろう。

誰も住まなくなった空き家や長年放置されて手つかずとなってしまった蔵から古材や古道具を引き取り、販売するリユースショップとして、2016年9月に設立。古材を廃棄せずに再利用することは環境負荷を減らすことへも繋がることから、これらの活動を“レスキュー”と呼んでいる。そこには、“ReBuild New Culture”という理念のもと、時代の変化とともに忘れられてしまった古き良きものに新たな価値を与え、次世代に繋いでいきたいという思いが込められている。

世界中を旅する中で、ポートランドに根付くDIY精神とサステナブルな環境にも共感を得たという。そこで、いったいどんなインスピレーションを得たのだろうか?

世界を知った上で日本に目を向け、未来のために活動し続ける「ReBuilding Center JAPAN」代表・東野唯史にさまざまな視点からインタヴューを行った。

東野唯史
1984年生まれ。「ReBuilding Center JAPAN」代表。2014年より妻の華南子さんと空間デザイナーユニットmedicalaとして活動開始。「Nui.」「萩ゲストハウスruco」「マスヤゲストハウス」「Osteria e Bar RecaD」など、全国に居心地のいい空間づくりを行う。2016年、ReBuilding Center JAPANを設立。「ReBuild New Culture」という理念のもと、古材を再活用する文化を広めている。

長野県諏訪市で新たなカルチャーを構築し、拡大し、発信し続ける。

−−長野県諏訪市に移住を決めた理由を教えてください。

東野唯史(以下、東野):移住先を決める条件として大前提にあったのが、年々人口が減ってきてしまい、空き家が増えている地域という点です。空き家が多いということは、レスキューできる場所も多いということになり、古材や古道具がその地域の大事な資源となるからです。古材や古道具を求めている人は諏訪市界隈だけでなく、東京や名古屋などの都会も多いのですが、諏訪市はそういった大都市圏からも比較的アクセスが良いことも決めての1つになっています。

−−2014年に移住されたとのことですが、実際に住んでみてどうですか? 諏訪市の魅力を教えてください。

東野:諏訪市は日本屈指の日照率を誇ります。だから、本当に良く晴れますし、近隣には温泉も多数あります。街中に自然が豊富にあるわけではないですが、山も多く、自然に囲まれた場所へのアクセスがとても良いです。最寄りのスキー場まで車で20分くらいで行けますし、30分ぐらい行ったところには牧場があって乗馬もできます。その牧場に保育園が併設されているんですが、現在息子をそこに通わせています。自然に囲まれた環境で保育ができるって魅力的ですよね。

−−レスキューする場所はどのように選んでいますか? また、レスキューが必要な空き家の情報はどのように得ていますか?

東野:基本的には、リビセンの拠点である諏訪市から車で1時間以内で行ける場所というエリアだけ決めています。車で1時間といっても諏訪市からであれば松本市や伊那市、山梨県北杜市の辺りまで範囲内なので、かなり遠い地域までレスキューに行くことが可能です。1時間以上かかる場所でも行くことは可能ですが、その際には出張料金を頂いています。料金は距離に応じて変わりますが、目安として¥3,000から¥50,000程度になります。

レスキューに行く空き家に関しては、先方から依頼を頂いてこちらが出向くといったスタイルが9割以上を占めています。自分達でレスキューする場所を探して行くといったことはほとんどありません。依頼される方の理由はさまざまですが、ずっと捨てられなくて蔵の中に溜め込んでしまっていた物を引き取ってほしいといった依頼も多いです。もし、そこで僕達のような引き取り手がいなかったらゴミとして廃棄処分されてしまうわけです。

−−廃棄処分によって発生するゴミを減らすだけでなく、価値のある資源として再利用できるように販売したり、リノベーションに活用したり、まさに“レスキュー”ですね。リサイクルショップは多数ありますが、リビセンの活動はどんなことが違うのでしょうか?

東野:リビセンもリサイクルショップなどと同じ古物商という民具を扱う古道具屋として事業登録をしていますが、従来の古物商の人達は古物専門の市場で仕入れを行い、そこで仕入れたものを店舗やオンラインで販売するといった事業をされている方が多いです。その市場には古物商の認可証がないと入れないので、市場で出店している人達も古物商で、買い付けに行くのも古物商の人達になります。

僕達の場合は、市場には行かず、空き家や蔵などから不要となった古材や古道具を買い取って販売をしているので、従来の古物商の事業とは異なります。レスキューすることによって、市場で買い付けを行うより安く仕入れることができ、その分店頭でも安い値段で売ることができるといったメリットがあります。ただ、その分時間や手間が掛かります。欲しいと思っていたものがレスキューできなかったり、同じものが欲しいと思っていても同じもの自体がなかったりするのが古材や古道具ですよね。レスキューの現場では買取金額を決めなければいけませんし、持ち帰ってきてから1つひとつに値段を付けるといった作業もあります。レスキューしてきたものはだいたい埃がかぶっていたり、汚れていたりするので、店頭で販売できる状態になるまでキレイに洗ったり、掃除したりするプロセスも発生します。

−−古材や古道具に関する知識はどこで得たのでしょうか?

東野:もともとアンティークが好きだったので、リビセンを始める前から個人的にオンラインサイトでリサーチしたり、古道具屋や蚤の市にもよく見に行ってました。そうしているうちに相場がわかってくるようになりましたが、趣味の延長で得た知識ではありますよね。今は自分で商品の値付けは行わずに、売り場のスタッフに一任していますが、スタッフ自身が値付けすることによって、この値段ではすぐに売れてしまうとか、逆に、高くて売れないとか、そういったトライ&エラーを繰り返すことによって相場を覚えていくことが大事だと思っています。

−−具体的にはどのように値段を付けてるのでしょうか?

東野:廃棄処分するにも少なからず費用が発生してしまうことやレスキューするための片付けや運搬作業も必要になることも踏まえて、販売金額の5%で買い取らせていただいています。例えば、店頭で¥10,000で販売しているものなら¥500で買い取って、差額の¥9,500が粗利となります。そこから人件費やオンラインショッピングの手数料などの経費を差し引いた分が利益となる仕組みです。粗利が高く見えるかもしれませんが、値付けや清掃、在庫管理やレスキューに時間と手間が掛かります。手間が掛かるということは、その分地域の雇用を生みやすくなると思っています。

DIY精神とサステナビリティが根付く街ポートランドの魅力

−−アメリカでもトップのDIY精神が根付いているポートランドに感銘を受けたとのことですが、具体的にはどういったことでしょうか?

東野:当時はアメリカのインダストリアルなアンティーク家具が好きだったのでポートランドには行きたいと思っていました。現地に住んでいる友人の家に10日間ぐらい滞在させてもらいながら、いろんな場所を巡りましたが、雑誌「ソトコト」に出てくるようなSDGsやサステナブルな文化が自然と根付いている街という印象を受けました。日本でも最近はさまざまな取り組みが行われていますが、当時はまだ自分の持つサステナブルな思想や活動はマイノリティーなのだと感じることが多かったです。でも、ポートランドの人達にとっては、DIYの精神やサステナブルな思想はごくあたりまえに持っているマインドで、自分がマイノリティーであることを全く感じませんでした。

友人も大工とか専門職とかではないのに自宅には当然のように工具が揃っているんです。古いボルボに乗っていましたが、もし、壊れたとしても自分で直せるレベルに工具を持っていましたね。他にもNPO団体が行っている「ツールライブラリー」という地域サービスがあるんですが、街の教会などでDIY用の工具を無料で借りられる仕組みになっています。サービスを提供する側も素晴らしいと思いましたが、草刈機を借りていった人がそれを返す時に次に使う人のために刃を新しく替えて返したというエピソードもあります。DIY精神だけでなく、お互いを思いやる精神も自然と根付いているのがポートランドなんです。

−−ファッション誌ではオシャレな街として取り上げられている印象ですが、実際の街はどうですか?

東野:代官山に近い雰囲気があると思いました。でも、横断歩道で待っていたら1台目の車がほぼ止まってくれるといった人の温かさや街の温度感も感じました。ポートランドができた当初の市長が高速道路を誘致せず、その代わりにトラム(路面電車)を普及させて公共交通機関を発達させたおかげで住みやすくなったと言われています。消費税がないことでも有名ですよね。

−−ポートランド以外で行かれた国で影響を受けた場所や人はいますか?

東野:きちんと訪れる機会がなかった先進国もありますが、実は僕は世界一周してるんです。その中で特に印象に残ったのは、イエメンとエチオピアとキューバですね。イエメンには全く整備されていない世界遺産の島があって、そこを目的に行きました。旅先を選ぶ基準として、資本主義でないことやキリスト教や仏教といった宗教色が強くない国というのがありました。

ウガンダの孤児院でボランティア活動をしたことがありますが、そこでの経験はDIYスキルを身に付けようと決意するきっかけの1つになっています。

リビセンが理想とする未来の形

−−国内ではどこかありますか?

東野:栃木県那須塩原市の黒磯ですね。30年以上前に「1988 CAFE SHOZO」をオープンさせた菊地省三さんという古民家カフェの先駆け的存在の方がいる場所ですが、シャッター通りになってしまっていた商店街の空き家をリノベーションしてカフェを作り、人が集まる場所に変えたんです。人気カフェとしてお客さんが増えただけでなく、省三さんに憧れて弟子入りする人が増えて、独立した人が近隣に店舗を作っていくという連鎖が生まれたんです。黒磯は今となってはカフェ好きが訪れる人気観光地として、とても楽しいスポットになっています。

省三さんは行政の力を借りずにご自身で何店舗も手掛けています。それだけでなく、近隣に大きめの建築物件があったらそこを購入して、次世代を担う若者達に貸し出しているんです。まさに、省三さんというカリスマで成り立っている場所ですが、省三さんのことが大好きな人達が自然と集まってきて、自然と街ができあがっていくってすごく良いですよね。

−−ステキなエピソードですね! すでにリビセンも同じようにカリスマ的存在になっていると思いますが、東野さんの理想とする形とは違うのでしょうか?

東野:店舗や施設は増えていますが、僕達自身が手掛けていますからね。そうではなく、同じことをやりたいという志を持つ人達が自然と集まってきて、その人達自ら店舗や施設を作っていくという形が理想的ですし、目指していきたいところです。でも、最近は求人を出すと、リビセンの理念に賛同して活動に関わりたいと言ってきてくれる人も多くなりました。これまでは県外からが多かったですが、地元の人達も増えてきたのは嬉しいです。

リビセンが手掛けた各店舗には“上諏訪リビセンご近所まっぷ”が置かれており、諏訪市周辺に点在するカフェ、レストラン、雑貨店、パン屋、レコードショップ、フラワーショップ、ヴィンテージショップなど、どこに何があるか一目でわかるようにイラストで丁寧に描かれている。マップに載っているのはリビセンが手掛けた店舗だけに限らず、長い歴史を持つ地元の老舗やおすすめの飲食店に至るまでさまざま。古民家のリノベーションやレスキューだけでなく、こういった近隣地域への貢献も未来の姿を作っていくきっかけになっていくのではないだろうか。

■ReBuilding Center JAPAN
住所:長野県諏訪市小和田3-8
営業時間:11:00~18:00
休日:水曜、木曜
公式サイト:https://rebuildingcenter.jp/
Instagram:@rebuildingcenterjp

Photography Shiho Furumaya

author:

宮沢香奈

2012年からライターとして執筆活動を開始し、ヨーロッパの音楽フェスティバルやローカルカルチャーを取材するなど活動の幅を海外へと広げる。2014年に東京からベルリンへと活動拠点を移し、現在、Qetic,VOGUE,繊研新聞,WWD Beauty,ELEMINIST, mixmagといった多くのファッション誌やカルチャー誌にて執筆中。また、2019年よりPR業を完全復帰させ、国内外のファッションブランドや音楽レーベルなどを手掛けている。その他、J-WAVEの番組『SONAR MUSIC』にも不定期にて出演している。 Blog   Instagram:@kanamiyazawa

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