町の撮影と滞在制作における人・土地との向き合い方 映像作家としてのVIDEOTAPEMUSIC 後編

VIDEOTAPEMUSICの映像作家としての一面にフォーカスを絞ったロングインタヴューの後編。活動開始当初の話から代表的作品を振り返った前編に対し、今回は近作を中心に話を聞いた。近年力を入れている日本各地での滞在制作プロジェクトの話からは、彼の映像制作のスタンスがはっきりとうかがえた。日本の風景をどう切り取ることができるのか。そして、そこからどのような表現を立ち上げることができるのか。映像作家としてのVIDEOTAPEMUSICの本質に迫る。

最小の主語を意識したミュージックビデオ

――VIDEOさんは町の風景をどう切り取ってきたのか、後編ではディレクションを務めた作品を観ながら考えてみたいと思うんですが、まずVIDEOさんの最新作『The Secret Life Of VIDEOTAPEMUSIC』の収録曲「ilmol」を観てみましょうか。この曲では韓国のキム・ナウンがフィーチャーされていて、ミュージックビデオもソウルで撮影されていますね。

VIDEOTAPEMUSIC「ilmol (feat. Kim Na Eun) 」

VIDEOTAPEMUSIC:ナウンには「自分の住んでいる町の景色について歌ってくれ」とお願いしまして、彼女はそれに応えて(ソウル中心部を流れる河川である)漢江のことを歌ってくれたんです。なので答え合わせをするつもりでソウルにビデオカメラを持っていって、1日中漢江の周りを歩き回って撮影しました。どんな風景が切り取れるかわからなかったので、とりあえず撮ってみて、あとで編集しました。韓国で買ったVHSの映像もところどころサンプリングしてます。

――花火のシーンが印象的ですね。

VIDEOTAPEMUSIC:これはたまたま撮れたんです。夕方になったら河原に人が集まってきて、みんな思い思いに座ってお酒とか飲みだして、毎日こんな風に集まってるのかな? と思ったら、実はその日が花火大会だったんですよ。都市の中に漢江みたいな空が広くてチルアウトできる場所があるのもソウルという町の良さだなと思いました。ただ、「ソウルはこういう場所ですよ」という作品にはしたくなかった。あくまでも個人的な、ナウンという友人を訪ねる旅をつづったものというか。

――だからなのか、作品の作りもプライベートビデオ的ですよね。

VIDEOTAPEMUSIC:このアルバムではソウルのナウンであったり、マニラのメロウ・フェロウであったり、海外のアーティストにも歌を頼んでますけど、彼等が住んでいる町のことと、できるだけプライベートなことを歌ってもらおうと考えていました。ナウンとの曲も日本と韓国という関係性ではなくて、あくまでも友人とのプライベートなやりとりの中で作られたものだったんです。できるだけ主語を大きくしない、最小の主語で作る。そのことは映像でも意識してましたし、だからこそプライベートビデオみたいな作りになってるんですよね。

――ceroの「街の報せ」のミュージックビデオでも東京など関東近郊のいろんな場所で撮影していますが、「東京」という大きな主語ではなく、1人ひとりの景色をつなぎ合わせていますよね。町の記号に頼らない作りという意味では、「ilmol」と共通するものを感じます。

VIDEOTAPEMUSIC:確かにあれを作っているときも「大きな主語で語られにくい風景を撮っていこう」と考えていました。ま、記号的な風景は他の誰かが撮るだろうし、僕がやらなくてもいいかなと思ってましたね。

cero「街の報せ」

滞在制作ではどのように各土地と向き合うか?

――最近は特定の地域に滞在し、音楽や映像を制作するプロジェクトに関わることも多いですよね。こうした制作方法に関心を持つきっかけはなんだったのでしょうか?

VIDEOTAPEMUSIC:ここ数年、全国いろんな場所でライヴをやらせてもらえるようになったんですけど、通常はライヴと打ち上げの連続で、その町のことを知っているようで知らなくて。それで、ライヴのあとに延泊して町を歩いたりするようになったんです。そうする中で東京以外の場所で生活したり作品を作ったりすることへの興味が増してきました。僕は生まれてからずっと東京の郊外で育って、だからこそ国道沿いのレンタルビデオ屋やリサイクルショップで手に入る身近なものだけを使って作品を作ってきたのですが、東京以外の場所で音楽を作るとしたら、どういった形のものを作れるだろう? と考えるようになったんです。

――「人と地域をアートでつなぐプロジェクト」をうたう「ANA meets ART “COM”」では、長野県塩尻市に滞在して映像作品を制作しましたね。

VIDEOTAPEMUSIC「Shiojiri Dub」

VIDEOTAPEMUSIC:塩尻には2020年の11月に初めて行きまして、延べ12日ぐらい滞在しました。塩尻にはそれまで行ったこともなかったし、まったく縁がなかったんですよ。なので、最初はあまり深く考えず、町中をとりあえず回ってみようと。まずはネットで気になる場所をチェックして、車で片っ端から回りながら、その道中で目についた場所や興味が湧いた場所を訪れました。飲食店からリサイクルショップ、あとは川や山とか。

――リサイクルショップでは何か手がかりはありましたか?

VIDEOTAPEMUSIC:1970年代の塩尻の広報誌を見つけたんですよ。それが一番大きかった。町おこしのために地元の人達が自分達だけで作った民謡のことも書いてあって、町の伝統とされているものもどこかのタイミングで誰かが新しく作ったものだし、それが最新の音楽だった時代もあったわけで。そうやって伝統も現在進行形で地層みたいに積み重ねられてきているものだと思ったらいろいろと考えさせられる部分がありました。塩尻はキヤノンの工場があるので、案外外国人が多いんですよ。以前はブラジル人が多かったそうなんですけど、今はベトナム人が多いみたいで。リサイクルショップには中国語のカラオケのレーザーディスクもありましたね。そのほこりまみれのレーザーディスクからも、何かまた別の町の歴史が見えてくるような気がしましたね。

――塩尻市の夏の風物詩「塩尻玄蕃まつり」で踊られている玄蕃おどりの曲と、そのモデルになったキツネの民話をモチーフにしているそうですね。

VIDEOTAPEMUSIC:玄蕃之丞という化け狐の民話を題材にした玄蕃おどりのメロディーを引用しながら、塩尻の高ボッチ山に登って山頂で受信したラジオのノイズでビートを作りました。高ボッチ山の山頂には町にラジオの電波を届けるための電波塔があって、山頂は電波環境が良いのか外国語のラジオもたくさん受信しましたね。そうやって外部から届くラジオの電波と、その町に根付いた民謡や環境音を組み合わせて自分なりに町の歴史をダブ化したというか。塩尻は農家も多いんで、野焼きの風景をよく目にするんです。夕方になる遠くのほうに煙が立ち上るのが見えて、よそから来た僕からすると、その風景がすごく幻想的で。それで映像面では野焼きのカットを入れました。

――キツネのアニメーションは自分で描いているんですか?

VIDEOTAPEMUSIC:そうですね。最初は野焼きの映像だけだったんですけど、どうも人様の景色を勝手に持ってきただけな感じがして。自分の身体を使って野焼きの煙とキツネを描くことで、自分なりの落とし前をつけたいなと思って。

――自分と縁のない場所をどう切り取るか。そこに映像作家としての態度が現れますよね。群馬県館林市で制作した「Our Music:Tatebayashi」(LINE NEWS 「VISION」で公開)制作ノートで、VIDEOさんはこんなことも書いています。「館林の魅力を紹介するみたいなのはさすがにおこがましすぎるし、自分はあくまで教えてもらう側というのは忘れないようには意識しましたね。決して楽しい観光ビデオをつくりたいわけでもなければ、ましてやダークツーリズムをしたいわけでもないし、でもあまりに客観的になりすぎてもつまらないから実際に自分が驚いたり新鮮に感じた部分にはあくまで素直でいたいというか」。

VIDEOTAPEMUSIC:きっと土地によって対象との距離の取り方は変わってくると思うんですよ。自分の中でルールを決めるというより、その土地を訪れた時、その場その場でいかに誠実に反応できるか。毎回そこが試されている気がします。今、「長崎アートプロジェクト」という企画でも長崎や野母崎を題材にした作品を作っていて※、それは現地の方から映像を送ってもらいながらワークショップ的な方法で作ってるんですね。相手とのコミュニケーションの中から作品が立ち上がってくるので、やりやすいといえばやりやすいんです。ただ、塩尻の場合は(時勢的に)できるだけ人と会わないで作ろうと決めていたので、なかなか難しかった。東京から数日やってきただけで「これが塩尻ですよ」と断言するのは、すごく不誠実だと思ったんですよ。

※新型コロナウイルスの影響により展示が中止。

――先ほど話に出たソウルの切り取り方とも通じる話ですね。

VIDEOTAPEMUSIC:そうですね。滞在制作っていざやってみたら悩むことや大変なことも多くて。でも、そういったプロセスも必要なことだと思うんですよね。画家の田中一村は日本画家でありながら奄美大島という場所に移り住み、「日本」の景色を拡張していったわけですよね。日本画の技法で描かれることのなかった風景を奄美に見出した。自分でもそういうことができないかなと考えているんですよ。自分の技法で描ける景色を広げていきたい。ナウンと作った曲もその1つと言えるんじゃないかなと思ってます。手の届く身近な範囲のものしかなかなか誠実に描けないし、その一方で今まで縁がなかったり遠く離れた土地についてどのように想像力を働かせたら良いのかはすごく悩みます。そのためには丁寧に近しい場所を1つずつ増やしていくしかないのかなと思っています。

――先日は佐賀県の嬉野温泉に滞在して楽曲制作をしたそうですね。

VIDEOTAPEMUSIC:老舗旅館の「大村屋」と、ギャラリーとコーヒースタンドと古本屋を兼ねたお店の「おひるね諸島」による企画だったのですが、しばらく滞在して嬉野温泉を題材にした曲を2曲作ってきました。ダメ元で地元の方々に「楽曲制作のために嬉野が映っている古いホームビデオを貸してください」と募集をかけたら、予想以上に持ってきてくださって。大村屋やおひるね諸島による地元のネットワークのおかげで、かなり充実したものになりましたね。

他にも芸者さんに教えてもらった地元の民謡の太鼓のリズムだったり、佐賀の伝統芸能の面浮立で使われる楽器の音などを録音させてもらって、曲に取り入れました。最初は温泉地なのでリラックスムードのアンビエントっぽい曲を作る予定が、いろいろな方と交流するうちにみんなに夏祭りで踊ってもらいたいという気持ちが湧いてきてラテンっぽい「嬉野チャチャチャ」という曲もできました。夏頃には作った曲を含め、滞在がどんな感じだったかをしっかりとアウトプットする予定です。

「On The Air 2020(April 10)」の制作背景

――そういえば、4月に新曲「On The Air 2020 (April 10)」が出ましたね

「On The Air 2020 (April 10)」

VIDEOTAPEMUSIC:2020年は作品作りのためにいろんな土地に行こうと思ってたんですけど、4月のタイミングではコロナでそれもできなくなってしまったので、どうしようかなと思って。家を出たいけど、出られない。どうやって外部の要素を取り入れるか、悩んでいた時にふと思い立って、ラジオのノイズだけを使って曲を作ってみたんですよ。それこそ今自分の置かれた環境の中で目の前にあるものだけで音楽を作ってみようと思い。それを発展させました。

VIDEOTAPEMUSIC
東京都生まれ。地方都市のリサイクルショップや閉店したレンタルビデオショップなどで収集したVHS、実家の片隅に忘れられたホームビデオなど、古今東西のビデオテープをサンプリングして映像と音楽を同時に制作している。近年ではさまざまな土地を題材にしたフィールドワークを行いながらの楽曲制作や、国内外のアーティストとの共作なども行っている。VHSの映像とピアニカを使ってライブをするほか、ミュージックビデオの制作、VJ、DJなど幅広く活動。映像作家としてはceroやCRAZY KEN BAND、坂本慎太郎らアーティストの映像も手掛ける。
kakubarhythm.com/artists/videotapemusic

2021年6月9日には配信シングル「Funny Meal」をリリースする。

■VIDEOTAPEMUSIC One Man Show“アマルコルド”
会期:2021年8月6日
会場:日本橋三井ホール
住所:東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町 5階
時間:OPEN 18:00/START 19:00
入場料:¥4,500

Photography Tetsuya Yamakawa

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author:

大石始

世界各地の音楽・地域文化を追いかけるライター。著書・編著書に『奥東京人に会いに行く』(晶文社)、『ニッポンのマツリズム』(アルテスパプリッシング)、『ニッポン大音頭時代』(河出書房新社)、『大韓ロック探訪記』(DU BOOKS)、『GLOCAL BEATS』(音楽出版社)他。最新刊は2020年12月の『盆踊りの戦後史~「ふるさと」の喪失と創造』(筑摩書房)。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」主宰。 http://bonproduction.net

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