テクノの過去と未来を現在に繋げる若き才能 マッティア・トラーニが崇拝するレジェンド

2012年に自身のレーベル「Pushmaster Disc」を設立し、それから10年以上にわたり、確固たるキャリアを築き続けているイタリア拠点のDJ/プロデューサーのマッティア・トラーニ。彼が創り出すサウンドは、1990年代のデトロイトを彷彿させるオールドスクールにフューチャリスティックなテクスチャーが折り重なったモダン・テクノだ。

マッティアはデトロイトにテクノが誕生した1990年代初期の黎明期にはまだ幼い子どもだっただろう。しかし、ジェフ・ミルズ、ホアン・アトキンス、デリック・メイといった生粋のレジェンドと共演し、支持され、URことアンダーグラウンド・レジスタンスの公式ラジオではポッドキャストを公開した実績を誇る。

そんなマッティアは、今年6月30日、ロバート・フッド、ルーク・スレーター、マルセル・デットマン、テオ・ナサをはじめとする14組のアーティストがリミックス参加したアルバム『Scenery The Remixes』を3枚のヴァイナルとデジタルでリリース。同作は、2021年にリリースされた自身のアルバム『Scenery』に収録されている楽曲をマッティアが厳選したハードテク界のレジェンド達がそれぞれ1曲ずつリミックスし、コンパイルした永久保存盤だ。2年の月日をかけて完成させた渾身作でもある。

マッティアは、間違いなく世界のテクノレジェンドから特権を与えられた唯一無二の存在であり、イタリアのテクノシーンの未来を担っていると言えるだろう。一体、マッティア・トラーニとはどんな人物なのだろうか? 本インタビューでは、さまざまな質問を投げかけてみた。そして、リミックスを提供し、マッティアが崇拝してやまない日本のテクノ界を代表するケン・イシイもスペシャルゲストとして登場する。

世界のテクノレジェンドが集結したリミックスアルバムの最高峰

−−2021年にリリースしたアルバム『Scenery』を14組のテクノアーティストをゲストに迎え、3枚組のリミックスアルバムとしてリリースすることになった経緯を教えてください。

マッティア・トラーニ(以下、マッティア):このリミックスアルバムは、自分にとって重要な作品となりました。エレクトロニック・ミュージックシーンにおける世界のスペシャリスト達に自分のトラックをリワークしてもらいたいと思ったのがきっかけですが、自分が尊敬していて、かつ、これまでリミックスを依頼したことのないハードテクノのレジェンドに依頼しました。

−−まさに誰もが知っているレジェンドが名を連ねていますが、どのように抜擢したのでしょうか?

マッティア:私のサウンドは常にデトロイト・テクノ・ミュージックに結びついています。これまで、ホアン・アトキンス、DJスティングレイ、ロス・エルマノス、クロード・ヤングをはじめとする多くの偉大なるアーティストと仕事をしてきました。でも、今回のリミックスアルバムでは、まず、ロバート・フッドに依頼したいと思いました……キングですからね! 彼のリミックスを自分のアルバムに収録できたら完璧だと思ったんです。ロバート以外にも世界各地からレジェンドを選びました。例えば、ルーク・スレーターは、自分のテクノヒーローの1人、一緒に仕事ができたら光栄だと思いましたしね。マルセル・デットマンも尊敬する偉大なアーティストの1人であり、リワークはとても素晴らしかった。

−−さまざまなDJが自身の楽曲をリミックスすることについて、どんな考えを持っていますか?

マッティア:尊敬するアーティストとコラボレーションすることは非常に重要なことであり、素晴らしいことだと思っています。アーティストはそれぞれ自分のスタイルとサウンドを持っています。そのサウンドをリミックスとして1つのトラックと組み合わせることによって楽曲が生まれます。自分自身もプロデューサーとしてキャリアをスタートした時、アーティストのリミックスから始めました。そういった背景もあり、自分以外のアーティストの楽曲のリミックスは気に入っています。

−−これまで特に印象に残っているリミックスはありますか?

マッティア:私は常に新しいスタイルの音楽に影響を受けています。例えば、Dax Jが主宰するベルリンのレーベル「Monnom Black」です。レーベルのファンだし、未来的なサウンドが大好きですね。「LDS」の作品も素晴らしいですし、ニーナ・クラヴィッツが手掛ける「Trip Recordings」のファンでもあります。さまざまなスタイルのテクノが好きなんですが、それは自分にとって重要なことだと思っています。

−−サウンドは、ベースミュージックなどを織り交ぜた前衛的で未来的なハードテクノでありつつ、1990年代のデトロイトテクノを彷彿させるオールドスクールも感じさせます。新旧ミックスさせたような楽曲を制作する中で、常にこだわっている点はなんですか?

マッティア:そう言ってもらえるのは本当に嬉しいですし、自分のテクノに対するヴィジョンを明確に表していますね。

楽曲を制作する上で心掛けていることは、スタジオセッションによると思いますが、キーボードで曲を作り始めることもあれば、ハーモニーからアレンジを始めることもあるので、常に適切なパッド・コードを探して、ハーモニーを作成するようにしていることです。1から作ることもありますが、その場合はベースラインやリズムを加えてサウンドをパワフルにするようにしています。

今年の夏はツアーで忙しかったのですが、自由な時間ができたらスタジオにこもって新しいドラムンベースやテクノの方向性に関するパワーダブに焦点を当てた新しいサウンドを作りたいと思っています。

−−以前から敬愛し、リミックスにも参加しているケン・イシイはあなたにとってどんな存在ですか?

マッティア:ケン・イシイは一番好きな1990年代のプロデューサーであり、テクノ界の真のヒーローです。名曲「EXTRA」は一番好きなテクノトラックです。彼のトラックとレコードをすべて持っていますが、R&Sで彼の伝説的なアルバムを初めて聴いた時「これは現実ではない。この男は間違いなく他のすべてのテクノミュージックのプロデューサーよりも何光年も先を行っていて、とても未来的だ」と感じました。ビデオゲームやSF映画の中にいるような感覚になったんです。今もまだ別次元にある感覚ですね。

2000年初頭に彼とジェフ・ミルズが共演したビデオを観ていましたが、ケン・イシイのDJプレイは、未来的で時代を超越したスタイルなので、アルバムタイトルと同名の「Scenery」をリミックスしてくれたことは本当に嬉しいですし、長年の夢がついに実現しました。

−−ケン・イシイだけでなく、DJ Shufflemaster等、他の日本のDJとも親交がありますね。注目している若手DJやプロデューサーはいますか? また、日本のテクノアーティストやシーンについての印象は何ですか?

マッティア:私は日本のプロデューサーやDJをとても尊敬していますが、残念ながらまだ日本に行ったことがないのでリアルなシーンについてはあまり知りません。ただ、自分の目で実際に見ることが好きなので、日本に行くとしたら間違いなく東京が初めての都市になるでしょうし、自分の目で実際に確かめたいと思っています。音楽だけでなく、日本のカルチャーも大好きなんです。音楽を始める前は漫画を描いていましたし、ビデオゲームも大好きで、アニメも毎日のように見ています。かなりの日本アディクトです(笑)。

来年こそ日本に行こうと思っています。もちろん、チャンスがあればDJプレイもしたいです。それが私の夢です!

ケン・イシイが見たマッティア・トラーニとは

−−アルバムと同名タイトルの楽曲「Scenery」のリミックスを手掛けていますが、特にこだわった点はどこですか?

ケン・イシイ(以下、KI) : 彼のオリジナル曲の印象的な部分をしっかり使いつつ、自分ならではの要素を加え、それらがいいバランスで調和しているようなリミックスを心掛けました。

−−マッティアと出会ったきっかけはなんですか?彼のDJプレイや楽曲についてどんな印象を持っていますか?

KI:彼とは実際に会ったことはなく、メールやSNSでのコミュニケーションがメインですが、最初のコンタクトは彼が私の2020年リリースの曲「Landslide」をリミックスしたことです。世代的にはテクノの新しいジェネレーションに属していますが、作品を聴くと随所にテクノなり他のダンスミュージックなりの歴史を感じさせる部分があり、その点が作品に深みを与えていると思います。

−−長年にわたり、シーンの最前線に立ち、世界で活躍し続けていますが、トップアーティスト達と肩を並べてプレイする中で一番心掛けていることはなんですか?

KI: 常に変わり続けるシーンの状況を見つめつつ、自分の音楽スタイルやアーティストとしてのアティチュードを失わずに音楽を作り、プレイし続けることです。

「Scenery The Remixes」
Tracklist

1.One More Step (Robert Hood Re-Plant)
2.Scenery (Ken Ishii Remix)
3.One More Step (Planetary Assault Systems Remix) 04. Videogame (Marcel Dettmann Remix)
4.No Future (Indira Paganotto Remix)
5.Biologic Horror (Paul Ritch Remix)
6.Inner Hardships (Luigi Madonna Acid Mix)
7.End Of Days? (Alignment Remix)
8.Biologic Horror (Lee Ann Roberts Remix)
9.Endless Optimism (K91 Remix)
10.Scenery (Fedele Re-Shape)
11.Endless Optimism (MatGroove Remix)
12.Inner Hardships (Luigi Madonna Remix)
13.Endless Optimism (Gianma Bln Remix)

Special Thanks Studio De Meyer

author:

宮沢香奈

2012年からライターとして執筆活動を開始し、ヨーロッパの音楽フェスティバルやローカルカルチャーを取材するなど活動の幅を海外へと広げる。2014年に東京からベルリンへと活動拠点を移し、現在、Qetic,VOGUE,繊研新聞,WWD Beauty,ELEMINIST, mixmagといった多くのファッション誌やカルチャー誌にて執筆中。また、2019年よりPR業を完全復帰させ、国内外のファッションブランドや音楽レーベルなどを手掛けている。その他、J-WAVEの番組『SONAR MUSIC』にも不定期にて出演している。 Blog   Instagram:@kanamiyazawa

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