西森路代, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/michiyo-nishimori/ Mon, 04 Dec 2023 04:54:52 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 西森路代, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/michiyo-nishimori/ 32 32 俳優・伊藤万理華の演者としての強い想い 「作る側の熱量を受けて、同じ想いで作品を一緒に生み出したい」 https://tokion.jp/2023/11/30/interview-marika-ito/ Thu, 30 Nov 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=217638 映画『女優は泣かない』でドラマ部志望の若手ディレクター・咲を演じる伊藤万理華。本作で「撮る側」を演じて感じたこと。

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伊藤万理華

伊藤万理華(いとう・まりか)
1996年生まれ、大阪府出身。2011~17年、乃木坂46一期生メンバーとして活動。現在は俳優としてドラマ・映画・舞台に出演する一方、PARCO展「伊藤万理華の脳内博覧会」(2017)、「HOMESICK」(2020)、「MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA」(2022)を開催するなど、クリエイターとしての才能を発揮。主な出演作品に舞台『宝飾時計』、2021年に地上波連続ドラマ初主演を務めた『お耳に合いましたら。』(TX)、『日常の絶景』(TX)、映画『そばかす』(2022 / 玉田真也監督)、映画『もっと超越した所へ。』(2022 / 山岸聖太監督)など。初主演映画『サマーフィルムにのって』(2021 / 松本壮史監督)ではTAMA映画賞にて最優秀新進女優賞を受賞、第31回日本映画批評家大賞にて新人女優賞を受賞。
https://itomarika.com/s/m03/

初主演映画『サマーフィルムにのって』(2021 / 松本壮史監督)でTAMA映画賞の最優秀新進女優賞を、第31回日本映画批評家大賞で新人女優賞を受賞するなど、俳優としての存在感が高まる伊藤万理華。一方で映画やドラマ、舞台といった俳優業だけではなく、自身で個展を開催するなどクリエイターとしての一面を持つ。

最新作『女優は泣かない』では、スキャンダルで女優の仕事を失った蓮佛美沙子演じる主人公・梨枝の密着ドキュメンタリー撮影に渋々挑むドラマ部志望の若手ディレクター・咲を演じる。普段は「撮られる側」の伊藤が、本作で「撮る側」を演じて感じた「作り手」への想いを聞いた。

やりたいことを見つける

——台本を初めて読んだ時、どのような印象を受けましたか?

伊藤万理華(以下、伊藤):掛け合いの部分がすごく面白いと思いました。今回演じたADの瀬野咲は、若くて経験不足だから制御されていることに対し反抗心を持っていて、過去の自分とも重なる部分があるなと思いながら台本を読みました。

——「制御されていることに対しての反抗心」というのは、伊藤さんにとってはどのようなものだったんでしょうか?

伊藤:自分の好きなものや、目指すものがまだ曖昧な段階でグループに加入しアイドルになったので、グループを卒業してからいろいろ模索しました。その頃には、梨枝のように「自分はこんなもんじゃない」と焦りを感じたり、本当はこういったことがやりたいのにできない、それをするためにやらないといけないことがあるけれどどうしたらいいんだろうという思いとの狭間で、葛藤がありました。ただ、私の場合は個展(「伊藤万理華の脳内博覧会」、2017年)をやることで乗り越えてきました。

——何を目指すのかを明確にする前は大変でしたか?

伊藤:グループを卒業する直前の時期に、パルコさんから「何かやりませんか」と声をかけていただいて。そこで初めて自由にやりたいことができたし、改めてやりたいことが明確になりました。その時に、いろんな人の力を借りて、コラボすることによって乗り越えられました。

——声がかかるということは、それまでに何かやりたいという気持ちがにじみ出ていたのかもしれないですね。

伊藤:逆になんで声をかけてもらえたんだろう、なんで私の気持ちを知ってるんだろうと不思議で。ただ、その頃もデザイン誌で連載のお仕事をしていて、クリエイターさんのアトリエを訪問して対談したりと、作り手の方に近いところのお仕事もいただいていました。ただ、その頃はそれ以上のものはありませんでした。もちろん、ゼロから何かを生み出している作り手の方の話を間近で聞いていると、気持ちは自然と変わっていたところはあったのかもしれません。そんな卒業の手前の時期に偶然、声をかけていただいたというか……。

「ものづくりにはずっと寄り添っていきたい」

——今回、映画の中では、実際のカメラを持って映像を撮られていたそうですね。

伊藤:実際にカメラをまわしていたら、エンドロールで初めて撮影として名前も載せていただいて。監督からは「もしかしたら映画の中で実際に使うかもしれないから」と言われていたんですけど、大スクリーンで自分が撮影したものが流れるかもしれないと思うとけっこう緊張して。カメラの画角とか撮り方を意識しながら、夢中で撮っていました。

——お芝居をしながら撮るということで大変さを感じることはありましたか?

伊藤:演じながら撮影をしなければという意識はありませんでした。自分がカメラをまわしているというよりも、咲というADが撮影している感覚だったので。

——作ることに興味があって、カメラを持ったら、何か映像作品を撮ってみたいという思いが生まれたりすることもありそうですね。

伊藤:今は映像や写真を撮るとしても、思い出を撮っているという感じです。だから咲のように、いいものを撮るという意識でカメラを触ったことはなかったから、今回がそういう意味では初めてのことでした。ただ、本作の取材の中でもありがたいことに「いずれ映画を撮るんじゃないですか」と聞いていただけるようになりました。

——何か表現したいことがありそうだなと思うから、期待して言っている人が多いのかもしれないですね。

伊藤:そう言っていただけるのはうれしいです。自分が撮るかどうかはわからないですけど、ものづくりにはずっと寄り添っていきたいと思っているので、映画に限らず続けていきたいと思っていますし、ゆくゆくはそういう企画を自分でゼロから始められるようになりたいです。

現場でのコミュニケーション

——「撮ること」と「撮られること」の違いに関してはいかがでしたか?

伊藤:撮られること・演じることを目指してきたので、演じるほうがやりやすいです。撮る側のことは、すべて理解できるかというとなかなか難しいし。ただ、演じる時はどんな職業でも、その人の持っている情熱を理解すれば近づけると思っています。

——今回の映画では、演じる側である園⽥梨枝(蓮佛美沙子)が、ADの咲と最初はぶつかったりしながらも、徐々に近づいていく内容でしたが、そういう感覚を経験したことはありますか?

伊藤:そういうことは、みなさん経験したことがあるんじゃないでしょうか。人とわかりあうまでどこかでぶつかることもあるだろうし、自分の思いをお互いにぶつけあうことは作品を作る上で必要なことだと思います。誰かと一緒にものを作るということは人とのコミュニケーションなので、今回のように女優とADという関係性に限らずどこにでもあることだと思うし、演じていても理解できることだと。そういう感情を作品の中で演じられてうれしかったです。

——いろんな現場でも、そうやって伝えるってことは大事にしてきたんでしょうか?

伊藤:バトルをするということではなく、自分がどういう思いで取り組んでいるのか、それを伝えることも仕事だと思っています。作る側の熱量を受けて、同じ想いでものを一緒に生み出せたらいいなと思っていますし、そういう制作過程にずっと憧れていました。

——今回の映画に関してはいかがでしたか?

伊藤:この作品に合流したのが少し遅かったので、最初のうちは密なコミュニケーションをとるのは難しいのかなと思っていたのですが、有働監督との波長も合いましたし、疑問があった時にはすぐに伝えられる環境でした。

——蓮佛さんとの共演はいかがでしたか?

伊藤:以前から、いろんなお仕事を拝見していたので、最初は緊張しましたが、撮影の最後に蓮佛さんから「咲をやってくれてよかった」と言っていただけて、「これがすべてだな」と報われた気持ちになりました。お互いに梨枝と咲という役として向き合えたし、蓮佛さんには私を咲として受け止めてもらう包容力を感じました。

——伊藤さんが、俳優という仕事として、スタッフの方達と、お互いに理解しあってお仕事ができた、と感じた作品としてきっかけになったものはありますか?

伊藤:今演じているような役をいただけているのは、やっぱり『サマーフィルムにのって』という作品があったからだと思いますし、自分の転機になった作品です。そのあとから「作る」という楽しさを追求するような役、例えばドラマ『お耳に合いましたら。』の高村美園など、そういう役を演じる機会が増えてきました。自分では気付かなかったけれど、自分が大切にしてきたことが役として投影された瞬間がそこだったんだなと。この仕事を続けてきてよかったなと思いました。

——私も『お耳に合いましたら。』を毎週楽しみに見ていました。こうした、好きなことに情熱を傾ける役は、今の伊藤さんとぴったり合っていてすごくいいと思うんですが、それ以外にやってみたい役はありますか?

伊藤:今までは、作ることと演じることを分けて考えていましたが、最近はそれを分ける感覚が少なくなってきていて、チームの一員として「作る」ということに関わっていれば、どんな役にも同じ気持ちで向き合えるという段階に入ってきたのかなと思っています。だから、もっと役の幅を広げていけたらいいなと思っているところです。

——最後に。『女優は泣かない』の中で気に入っているところを教えてください。

伊藤:作り手の葛藤や演者との向き合い方など、監督の思いが投影されまくっているところです。それは撮る側だけに投影されているわけでもなく、蓮佛さんが演じた梨枝にも表れていると思います。そんないろんな登場人物の感情のぶつかりあいややりとりが、ちゃんと面白く描かれていて、最後に心がギュっとなるような部分もあって、お気に入りです。

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)
Stylist Miri Wada
Hair & Makeup Yuka Toyama
シャツ¥94,600/baziszt(Diptrics 03-5464-8736)、スカート¥71,500/VOLTAGE CONTROL FILTER(Sakas PR)、ネックレス¥18,500/Marland Backus、シューズ¥29,700/ALM.

■『女優は泣かない』
2023年12月1日から「ヒューマントラスト シネマ渋谷」ほか全国順次公開
出演:蓮佛美沙子 伊藤万理華
上川周作 三倉茉奈 吉田仁人 ⻘木ラブ 幸田尚子
福山翔大 緋田康人 浜野謙太 宮崎美子 升毅
監督・脚本:有働佳史
制作プロダクション:有働映像制作室 
制作協力・配給:マグネタイズ
主題歌:在日ファンク「注意 feat.橋本絵莉子」
2023年 / 日本 / 117 分 / カラー
©2023「女優は泣かない」製作委員会
https://joyuwanakanai.com

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舞台『ねじまき鳥クロニクル』主演・成河と渡辺大知が語る「クリエイションへの探求心」 https://tokion.jp/2023/11/02/songha-x-daichi-watanabe/ Thu, 02 Nov 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=214871 舞台『ねじまき鳥クロニクル』の主人公の岡田トオル役を務める成河と渡辺大知に本作への思いを聞いた。

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成河(そんは)
1981年3月26日生まれ。東京都出身。2008年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞、2011年第18回読売演劇大賞 優秀男優賞受賞、2022年第57回紀伊國屋演劇賞 個人賞受賞。大学時代から演劇を始め、北区つかこうへい劇団などを経て舞台を中心に活動。古典からミュージカルまで幅広く出演している。近年の主な出演作品に、舞台:『髑髏城の七人』Season花、『エリザベート』、『子午線の祀り』、『スリル・ミー』、『建築家とアッシリア皇帝』、木ノ下歌舞伎『桜姫東文章』、『ラビット・ホール』、『ある馬の物語』、『桜の園』など、TV:大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、映画:『カツベン!』など。
https://www.bluejupiter.co.jp/profile_songha.php

渡辺大知(わたなべ・だいち)
ミュージシャン・俳優。1990年8月8日生まれ。兵庫県神戸市育ち。高校在学中の2007年にロックバンド「黒猫チェルシー」を結成。ボーカルを務める。以降、音楽活動と並行して俳優としても活動を拡げ、デビュー作となる映画『色即ぜねれいしょん』(2009年公開)では日本アカデミー賞新人俳優賞授賞を受賞。2010年にミニアルバム『猫Pack』にてメジャーデビュー。また、初映画監督作品『モーターズ』(2014)で”PFFアワード・審査員特別賞”を授賞するなど多彩な才能を開花させている。
https://daichiwatanabe.com

2020年2月に初演が行われた舞台『ねじまき鳥クロニクル』が11月7日から再演される。本作は村上春樹の長編『ねじまき鳥クロニクル』をインバル・ピントとアミール・クリガーが演出、アミールと藤田貴大が脚本を担当、音楽を大友良英が手掛けた創造性豊かな舞台作品だ。

今回も初演から引き続き、主人公の岡田トオル役は成河(そんは)と渡辺大知が2人で1人の人間の多面性を演じる。村上春樹の独特な世界観を舞台ではどう表現するのか。主演の成河と渡辺に再演に向けての思いを聞いた。

——舞台『ねじまき鳥クロニクル』は2020年に初演があったものの、コロナ禍で公演が途中で中止になり、今回は再演となります。今現在、どのような稽古をしているところですか?

成河:僕ら2人でやるのは、「コンタクト」というコンテンポラリーの1つの型に従って、2人で体重をかけあったりする動きの稽古などですね。そこにはお互いの感覚も重要だし、技術的な知識も必要なんです。2人で1人の人物を演じるということは、とてもおおまかにいうと、1人の人物の内面と外面を表しているんですけど、その中で、2人で1人の人物に見えるような絡み方ができたらなと思いながら練習しているところです。

渡辺大知(以下、渡辺):「コンタクト」をやることで、精神のありようも変わってきますからね。

成河:やってもやっても終わりがないんですよ。その上、体の動きで見せるだけでなく、そこに村上春樹特有の言葉も入ってくるので、稽古を突き詰めていけば10年でもやっていられるくらいの内容です。毎日毎日、追及している日々です。

渡辺:今は自主的に実験をやっているような感じですね。前回は、全体像が見えたところで終わってしまった感じで、あらためて「ああしたい、こうしたい」ということが見えてきているので。

成河:前回は、初演でひとまず形を作ること、つまりフォーマリズムの段階で精いっぱいだったので、そこからどうやったら息づくかという稽古をしているところなんです。

——台本も読ませていただきましたが、ここからどのように舞台として形作られていくのだろう?とワクワクするような内容でした。

成河:それこそ、この舞台は文字に書かれていないことをどう描くかということが重要で、文字情報だけでは舞台の半分でしかなく、もう半分は演出家のインバル・ピントが作っていると言っても過言じゃないんですよ。言葉で描き切れないことを、どう動きで埋めていくのかを、みんなでアイデアを出しながら作っていくので、稽古の中でもまたそぎ落とされていくと思います。

渡辺:シーンごとに稽古をしている時には、これがどう成立するのかがまだ僕等にもわからないところもあったりしたんですけど、いざ通しでやってみると、ここはこんな表現になるのかと気付くこともありました。インバルのアイデアで、最初にすごいなと思ったのは、机をはさんで岡田トオルとその妻が会話している時に、心の距離が離れていくというシーンでした。例えば役者がそのようなシーンを演じる時には、声や体で距離が離れて行っていることを表現しようとするんです。

でもインバルは、「机が伸びちゃえばいいじゃん」と。その言葉を聞いた時に、まるで魔法使いのような発想力だなと思いました。そこから大道具さんや美術さん達でアイデアを出して、伸びる机を作ったわけなんですけど、そうなると役者としても、声色は変えないほうが効果的なのかもしれないとか、そんな風に考えることができるんです。僕は、そんなクリエイションが好きなので、今も楽しみながら稽古をしているところです。

成河:それだけのために数日間かかっていて、当たり前のように時間をかけてやってるんですけど、こんなモノづくりができるって貴重なことなんです。前回の動きを思い出すための2週間と、通常の稽古のための5週間、計7週間とってくれて、それでも長いとはいえないけれど、日本のやり方の中では贅沢な時間の使い方をしてくれています。渡辺:その期間の中で、細部まで突き詰めていきたいですね。この舞台は、終わりなき過程を見せて、お客さんの脳内で完成してもらうようなものになればいいと思っているんです。

——去年のダイジェスト映像を見ても、想像がふくらみました。

成河:ワクワクしますよね。初演には、原作者の村上春樹さんもいらしていて、この舞台を見てお墨付きをいただいたということで、インバルも喜んでいたし、カンパニーにとっても強力な自信になりました。

インバル・ピント、アミール・クリガー、藤田貴大、3人の役割分担

——この舞台、インバル・ピントさんが演出・振付・美術を担当して、アミール・クリガーさんが演出と脚本で、藤田貴大さんが脚本・作詞ということでしたが、その3人の役割というのはどうなっていたのでしょうか?

成河:藤田さんは日本語の部分の脚本を担っていて、インバルは、身体的な、振り付けや視覚的なイメージでの演出を中心に手掛けています。それ以外の言葉による演出をアミールが担当するという感じです。ただ、日本語と言う部分では、村上春樹の特有のしゃべり方というのがありますよね。例えば「やれやれ」というところや「なんてことかしら」みたいな部分。

渡辺:口語的にしてもいいところや、でもこれは村上春樹の言葉として残したほうがいいところもあったりするんですけど、そういう時に藤田さんの役割でしたね。

成河:そこの部分は、複雑なところなので、たくさんやりとりがありましたね。それこそ初演の時は、表現の仕方に関してアミールと衝突することもありました。

渡辺:僕は、よりよいクリエイションのために、そうやってお互いが発言をすることが良いことだと信じているところがあります。特に日本のクリエイションの場では、気を使って言わないことも多いので、それではものつくりが活性化しないなと思うこともありますし。

成河:大知のそういう姿勢のおかげでいい影響があったと思います。

渡辺:でも、そうやって議論に火をつけるからには、それなりに勉強が必要だとも思います。あらゆるパターンをイメージしたうえで、それでも難しそうだと思った時だけ疑問を呈するようにしています。

成河:それでハッとさせられたこともありましたね。それが当たり前だと思ってなんの疑問も持たなかったところに、大知の発言があったおかげで、気付くことができたり。

渡辺:僕は、面白いなと思うものや、ワクワクするものを見たくて生きているところがあるんです。表現の世界でも、ワクワクしたものを作りたいのに、人との間で忖度をしてしまったり、変に気を使ったりすることで、ワクワクするものを作れないとしたら、もったいないし、つまんないものになってしまうと思っちゃうんです。

高校生にも観てほしい舞台

——改めて、2人で1人の役をするということについてはどう思われますか?

成河:実は、2人が1つの役をやるということは、古典芸能なんかでもよくあって、そこまで不思議なことではないんですね。だから、当たり前のように観てもらえるのではないかと思います。だって、井戸の中に入ったら違う自分が出てくるっていうだけで。そういう存在って、自分の中にもありますよね。

渡辺:もっと言えば、1人の人物を2人が演じるだけじゃなくて、もっとたくさんの自分が出てきますから。そういう表と裏だけではなく、多面性を、グレーゾーンを見せられたらいいなと思っています。

成河:その表現、いいね。外側に見えていることだけではない。ある時は1人の人間が10人になっているかもしれないし、それを見ている1000人の観客と1人の人間になることだってあるかもしれないし。

——舞台でできる表現って、すごく幅が広いんだなと思いました。

成河:舞台というのが無限すぎて整理しないといけないくらいですね。そういう特別な体験をするために、ぜひ皆さんにも観に来てほしいです。特に高校生以下は1000円で観られるチケットもある(東京公演のみ)ので。

渡辺:すべての意味がわからなくても、その衝撃を記憶に残してほしいですね。僕自身もこういう仕事を始めたのが高校生の時で、あの頃って表現に飢えていたし、わからないものを知りたいって思っていました。だから、そういう人に観てほしいです。『ねじまき鳥クロニクル』を観て、思考する楽しさ、何かを受け取る楽しさを味わってもらいたいです。自分も高校時代に観ておきたかったとすら思います。

成河:人生変えちゃうかもしれないしね。

Photography Yuri Manabe

■舞台『ねじまき鳥クロニクル』
原作:村上春樹
演出・振付・美術:インバル・ピント
脚本・演出:アミール・クリガー
脚本・作詞:藤田貴大
音楽:大友良英
出演
演じる・歌う・踊る:成河 / 渡辺大知、門脇麦
大貫勇輔 / 首藤康之(W キャスト)、 音くり寿、松岡広大、成田亜佑美、さとうこうじ
吹越満、銀粉蝶
特に踊る:加賀谷一肇、川合ロン、東海林靖志、鈴木美奈子、藤村港平、皆川まゆむ、陸、渡辺はるか
演奏:大友良英、イトケン、江川良子
主催:ホリプロ、TOKYO FM
企画制作:ホリプロ
https://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2023/
https://twitter.com/nejimakistage

【東京公演】
公演日程:2023年11月7〜26日【全24回公演】
会場:東京芸術劇場プレイハウス 

【大阪公演】
公演日程:2023年12月1〜3日
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催:梅田芸術劇場 / ABCテレビ / ホリプロ
https://www.umegei.com/schedule/1149/

【愛知公演】
公演日程:2023年12月16〜17日
会場:愛知県刈谷市総合文化センター大ホール
主催:メ~テレ / メ~テレ事業 / 刈谷市・刈谷市教育委員会・刈谷市総合文化センター(KCSN 共同事業体)/ ホリプロ
https://www.nagoyatv.com/event/entry-36088.html

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初の長編映画『はこぶね』はいかにして作られたのか 映画監督・大西諒を支えた同級生と俳優・木村知貴の存在 https://tokion.jp/2023/09/08/interview-ryo-onishi-hakobune/ Fri, 08 Sep 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=207110 初の長編映画『はこぶね』が話題の大西諒監督に、これまでの歩みとともに、同作の制作背景を聞いた。

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大西諒

大西諒
1989年兵庫県出身。映画美学校フィクションコース修了生。IT企業の営業から映画配給会社への転職を模索して映画関連のワークショップに参加した際、制作に魅力を感じて30歳で映画美学校に入学。映画制作未経験で一から学び、在学中に複数の短編作品を制作。『はこぶね』は卒業後に制作した初長編作。
Twitter:@cap_mora

初の長編映画『はこぶね』が、若手作家の登竜門となる田辺・弁慶映画祭、TAMA NEW WAVEでのグランプリなど、6冠を獲得した映画監督の大西諒。同作は、とある小さな港町で生きる、視力を失った男・西村芳則(木村和貴)が、さびれても美しいこの町で、感性を失わず生きようとする姿が、周囲の人々の心を振るわせていく様子を描く。障害や介護、地方の疲弊といった厳しい現実を題材としながら、西村の知覚と感情を追うような、観賞者自身が感覚を研ぎ澄ませる独特な観賞体験が、観るものの心を惹きつける。

8月4から10日まで「テアトル新宿」で上映され、多くの賞賛のコメントがSNSに投稿されるなど話題となり、9月9日からは「ポレポレ東中野」で公開されるほか、今後は他の都市でも順次公開される予定だ。

数年前までIT系の会社で営業をしていたという大西監督がいかにして、『はこぶね』を完成させたのか。これまでの歩みとともに、その制作背景を聞いた。

ITの営業から映画監督へ

——大西さんは、もともとは映画とはまったく関係ない仕事をしていたところから、映画を撮りたいと思って学校に行かれたそうですね。

大西諒(以下、大西):もともとIT企業で営業をしてたんです。最初は仕事で得た知識が役に立つんじゃないかと思って、映画の買い付けや配給のワークショップに行ったんです。その後に制作系のワークショップに行ってみようと思って、映画美学校の1年間の講座に通うことになったんです。

——どのような授業だったんですか?

大西:映画と言うのは、映画が始まる時と終わる時で登場人物の関係性が変わっていくものだという考えで授業が行われていました。基本的には町に出てとりあえず「撮ってこい」という感じだったのですが、僕の場合は、本当に未経験だったので、1分間のシーンにどのくらいの撮影時間がかかるのかということも知らなくて、1分のシーンなら準備も含めて10分くらいで撮れると思ってたくらいだったんです。受講生の中には経験者もいたので、むしろ撮影現場で同級生から学ぶという感じもありました。

——そんな状態から、実際にこの映画を撮るまでは、どれくらいだったんでしょうか?

大西:2019年に学校に入って、コロナもあったので仕上がりに時間がかかったんですが、2020年と2021年に撮影をして2022年に映画ができあがりました。

——その学校に行ってた時からすると、長編1作目とは思えない仕上がりで、けっこうなスピード感ですよね。

大西:映画にとってルック(映像のスタイル)は大事だと思うんですけど、そこは学校の同級生で今回撮影を担当してくれた寺西(涼)くんのおかげというところはありますね。学校には本気で映画を撮りたい人が多くて、みんな監督をしたくて学校に来ていて、お互いの作品を手伝いあってるんです。そんな気心の知れた同級生が関わってくれているというのは大きいんです。

——この映画の脚本をまず、ネットで公開されたと聞きました。

大西:自主製作映画の募集をかけられる「シネマプランナーズ」というサイトがあるんですが、そこにまずは脚本をアップしてみました。1日に何十件も脚本が上がっているので、その中から自分の企画を見てくれる人がいるとも思ってなかったんですけど、その脚本を見て、(主演をすることになった)木村知貴さんが直接コンタクトを取ってくれました。

——映画を製作するのに、金銭面はどうされたんですか?

大西:そこは10年間、会社員をしていたので、これまでの貯金を使いました。もともと木村さんが主演に決まった段階では、短編の脚本だったんですけど、木村さんと話していて「作るんだったら長編で評価されたほうがお互いにいいのではないか」ということになり、そこから一緒に長編化をすすめていきました。

——『はこぶね』の脚本を書く上で何か参考にしたものはあったんですか?

大西:『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(伊藤亜紗・著、光文社新書)という、視覚障がい者やその関係者のインタビューをまとめた本の影響が大きいです。「あなたの体は世界をどう見ているんですか?」という好奇心で書かれた本なんです。映画美学校が終わったタイミングで時間ができて、図書館でいろんな本を読んでいたら、その本が1番面白かったんです。ある評論家の方が、『はこぶね』についての感想を書いてくれていたんですが、僕がその本を読んだ時の感想とすごく近くかったんです。もちろん、この本のことは評論家の方は知らずに映画だけを見て感想を言ってくれたんだと思うんですけど。それは、すごく興味深いなと思いました。

——実際、映画を作る中で大変なことはありましたか?

大西:そもそも撮影現場に、僕は10回も行ったことがなかったんですよ。なので、映画を作っている作業が大変すぎて、途中は自分がもともと何をやりたかったのかが、かすれていく感じはありましたね。観終わって編集して映像を繋ぐ過程で何をやりたかったのかを思い出すこともありました。映画撮影に関わってくれた映画美学校の同級生って、本来ならお互いはライバルで、好みも違っているものなんですよ。そんないろんな考えの人がいる現場で、統率ができているわけじゃないから、いかに乗ってやってもらうかということが重要でした。その中でも、撮影や音楽をやってくれた寺西くんとは、脚本の段階から適宜コミュニケーションをしていました。

——音楽がシーンとタイミングがあっているところは多かったですね。終盤で車を運転しているシーンとか。

大西:あそこは粗編集をする時に、ヘンリー・フリントのエレクトリックヴァイオリンを使った音楽をかぶせていたので、その要素が入っているかなとは思います。そのイメージをベースに木村さん演じる主人公の西村芳則が運転をするシーンで、隣にいる大畑碧(高見こころ)がハンドルをつかんで西村が感じているものをつかみ取ろうとしていることが、より強調できる劇伴をつけてくれました。既成の音楽ではできないところだったと思います。ほかでいうと、船の汽笛がなるシーンもそうでしたね。

——セリフとしては、釣りをしている主人公の西村が、水の中が見えるんだっていうシーンが印象的でした。

大西:僕も釣りをするんですけど、目をつぶって水の中を想像しながらやってたんですね。目の見えない方がそうするとは限らないんですけど、そういう感覚を取り入れてみた場面です。

衝突することでしか得られないものを描く

——物語の舞台が、閉塞感のある街であるというのは、どのような意図があったんでしょうか?

大西:僕もそうですけど、今って都会に住んでると人と衝突しないじゃないですか。それって、コミュニケーションを避けようと思えば避けようがあるからだと思うんです。でも、都会ではない田舎の狭いコミュニティの中であったりとか、選択の余地のない家族という関係になると、コミュニケーションを避けようがない状況っていうのんがあるんじゃないかと思いました。僕自身、いろんな映画を見ていて、本当は避けられるものを無理やり避けられない問題にしているように映しているものはあまり好きではなかったので、どうにも避けられない状況というのを考えた結果、そうなりました。

——ご自身的には、コミュニケーションに対して、どのように思っていますか?

大西:自分の家族の問題だったりすると、もちろん避けられないところはあります。でも衝突することは必ずしも嫌なことではないし、避けられない状況を通ってみないと得られないものもあると思います。今回の映画でも、衝突がネガティブなものとも描いていないんですよね。

——内田春菊さんが演じる主人公のおばさんなんかも、衝突が起こるキャラクターではあったけれど、一方で、西村にとって、おばさんからのケアというのもかなり大きいわけですよね。同級生の女性との距離感にしても、人間関係の不思議なバランスが描かれていましたね。

大西:映画を撮っている最中には、「こんなに何も起こらない作品を、人は最後まで見てくれるんだろうか」という不安もありました。でも最終的には「とはいえ、何か変わった感覚が残るものになればいいのかな」と思いました。

——『はこぶね』を観ていて、どうにもならない問題をどうにもならないままに描いている感覚が、イ・チャンドン監督を思い出したりもしたんです。

大西:確かに、イ・チャンドン監督は好きですね。そうかもしれないですね。どうにもならない問題への興味がすごくあるので。

——映画のワークショップに行く前は、どのような映画を見てきたんでしょうか?

大西:僕自身は映画はそこまで観ていなくて、どちらかというと音楽からの影響が大きいですね。音楽については幅広く聞いてきましたね。僕は撮影予定地に行きながら脚本を書いていくんですが、その時にプレイリストを作って、物語に流れているであろう曲を聞きながら書いていました。映画の文法とかはあまり意識していなくて、むしろその時に聞いている音楽のリズムや文法の方からの影響があると思います。あと、映画として成立しているとすれば、撮影の技術とお芝居の強度によるところは大きいと思いますね。通常の映画的な感覚だと、バス停で2人が会話をするまでの尺とか、歩いている時間の尺が長いとか、そういう指摘もありました。そのあたりは当時聞いていたプレイリストのタイム感が反映されていると思います。

脚本を書いている時に聞いていたプレイリスト

——映画よりも音楽に関心があった大西さんが映画を撮るようになった理由はなんですか?

大西:僕はあらゆるものの反復練習が苦手で。楽器も反復練習がまったくできなくて、やりたくても上手くできなかったんですよね。ただ映画の脚本は、歩きながらとか、シャワー浴びながらとか、どのタイミングで考えてもいいし、机の前とか、1箇所に止まってずっと考えなくてもいいというのはあったかもしれません。それと人間への興味があって、相手が何を考えているのかということに関心があり、それを表現しやすいのが映画だったのではないのかなと思います。

「西村の役は木村さん以外には考えられない」

——シーンとしていいなと思ったのが、木村さん演じる西村が空を見上げているところでした。あのシーンは、言葉とかでは説明できないものがあると思いました。あそこは脚本や演出はどのようにしましたか?

大西:脚本にも書いていたんですが、人って、落ち込んでいる時に太陽を浴びれば何かちょっと気が晴れたりすることってあると思うんです。僕自身、いろんなことにとらわれているなと思っていた時に、太陽の光を浴びて、何か気分が変わったことがありました。演技に関しては、目をこうしてほしいなんてことは言ってないし、そういうことを意識もしてほしくないという気持ちがあったので、何も言ってないんですけど、そこは木村さんがばっちりやってくださいましたね。

——脚本を書いた時は西村という役を誰かイメージして書いたりはしていなかったんですか?

大西:どのキャラクターに関しても脚本を書く時には実在の人物は想定していなかったですね。変化したというと、短編ではおじいちゃんは出てこなかったんですけど、長編になっておじいちゃんが出てきました。人の身体の変容による、五感や感性の感じ方の変化というものに興味があったので、認知症のおじいちゃんというキャラクターが増えました。

——木村さんと西村のイメージがぴったり重なっているように見えましたが、大西さんの中ではどうでしたか?

大西:西村の役は木村さん以外には考えられないですね。すごいなと思うのは、脚本を長編化して適宜確認してもらっている時に、俳優であれば、自分がどう演じたいのかという俳優としての自意識を脚本に反映させたくなると思うんですけど、それを彼自身が極力、排除しようとしていたところです。たぶん、木村さんがどんな役を演じたいか以前に、西村というキャラクターに対しての強い興味があったのだと思います。途中からは、プロデューサー目線で、物語としてどうなのか、この人物像が自然な動きをとっているかという目線もあったと思います。

——閉塞した街で、人と人がどうケアしあうかというところも、関心の持てるテーマだと思いました。

大西:いろんな興味が重なってるんですけど、1つは僕のおばあちゃんが認知症で、何度も同じ話を繰り返していて、でもそれに反応してくれることで、うれしく思ったり、また反対に面倒くさいと思ったりする感覚があったんです。もう1つは仕事で僕が人に頼るのが得意じゃないので、人にいかに頼れるようになるかというのが個人的な課題でもありました。あるお医者さんの本に、障がい者にとっての自立とは、いかに依存先をふやすかということが重要で、それこそが自立だと書いていたのを読んで、そういうさまざまな関心が重なって今のような話になりました。話の推進力としてこのようなテーマを選んだということもあるにはあると思いますが、この問題とこの問題を無理にくっつけようというわけではなかったですね。現実の多くの問題が複合的だと思っているので、現実の単純化はしないように意識してました。

Photography Masashi Ura

■『はこぶね』
9月9日〜最終日未定@ポレポレ東中野
10月27日〜11月2日@京都シネマ
11月4〜10日@元町映画館
※福岡・kino cinéma天神、大阪・シネ・ヌーヴォ、東京・CINEMA Chupki TABATAは近日公開予定、その他全国順次公開

出演:木村知貴、高見こころ、内田春菊、外波山文明、五十嵐美紀、愛田天麻、森海斗、範多美樹 ほか
監督・脚本:大西諒
撮影・音楽:寺西涼
配給:空架 -soraca- film
https://hakobune-movie.com

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脚本家・野木亜紀子が沖縄を舞台にしたドラマ『連続ドラマW フェンス』に込めた想い 社会における正しさとは? https://tokion.jp/2023/04/21/interview-akiko-nogi/ Fri, 21 Apr 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=181753 『連続ドラマW フェンス』(WOWOW)の脚本を手掛けた野木亜紀子が同作に込めた想いを語る。

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小松綺絵(キー)役の松岡茉優(左)と大嶺桜役の宮本エリアナ(右)

ドラマ『アンナチュラル』や『MIU404』、映画『罪の声(塩田武士原作)』など、社会派エンターテインメント作品を数多く手がける脚本家・野木亜紀子の新作オリジナルドラマ『連続ドラマW フェンス』(WOWOW、全5回)の放送が3月19日から開始された。

本作では2022年に本土復帰50年を迎え、今も世界最大規模の米軍基地を抱える沖縄の現在を描く。主演を務めるのは松岡茉優と、アフリカ系アメリカ人の父親を持ち、差別や偏見を無くすための活動を続ける宮本エリアナ。松岡演じる東京から来た雑誌ライター“キー”と宮本演じる沖縄で生まれ育ったブラックミックス“桜”がバディとなり、ある性的暴行事件の真相を追う連続ドラマとなっている。

かつて報道記者として沖縄に住んでいたという北野拓プロデューサーから「沖縄が舞台のクライムサスペンスを作りませんか」と言われたのが今作の脚本を手がけたきっかけだという野木。北野プロデューサー同席のもと、作品に込めた想いを聞いた。

野木亜紀子(のぎ・あきこ)
脚本家。テレビドラマのオリジナル作品に『アンナチュラル』『獣になれない私たち』(2018年)、『コタキ兄弟と四苦八苦』『MIU404』(2020年)など。映画『アイアムアヒーロー』(2016年)、『罪の声』(2020年)、『犬王』(2022年)など。待機作に映画『カラオケ行こ!』(2023年公開予定)がある。
Twitter:@nog_ak

——『フェンス』を観させてもらって、すごく取材を重ねた上で、それを凝縮してセリフにしているなと感じました。取材も相当されたんじゃないですか?

野木亜紀子(以下、野木):沖縄の勉強をするために、日米地位協定に詳しい教授にはじまり、沖縄の警察の方、米軍側の捜査機関、米兵事件を扱う弁護士、女性支援団体、精神科医や産婦人科の先生、基地従業員の方、ミックスルーツの方、その友達の友達……と広がっていって、トータル100人以上に話を聞いていきました。沖縄での取材は1回10日間の滞在を3回と、個人的に数日プラスして行きました。そのほかにも東京でも話を聞いたし、ここの取材が足りないという時には、プロデューサーの北野さんが沖縄でのロケハンの合間に取材してきてくれたり。正直、近年まれにみるコスパの悪い執筆作業でした(笑)。

——そのくらい、しっかり取材をしてできあがった作品ということですね。見ていてもそれが感じられました。

野木:そうですね。尺も限られているので、短いセリフや状況からにじみ出るものを感じていただけたらうれしいです。

北野拓(以下、北野):WOWOWに高江洲(義貴)さんというプロデューサーがいて、彼が普天間の出身なので、僕と野木さんと、実際に沖縄当事者の高江洲さんがチームにいたということはベストな座組だと思いました。

野木:沖縄での撮影中、高江洲さんが実家でコーヒーを入れて、現場に毎日ポットで持ってきていたそうです。そんな現場初めて聞きました(笑)。北野さんが報道時代に培った人脈や知識と、高江洲さんの地元の伝手をたどった取材もできて、本当にこの座組でしか実現し得ない作品だったと思います。台本を作っている時も、沖縄の人としてこの台詞はどう思うって聞いたりしましたし。

——それを聞くと、ドラマの中には、いろんな考えの人がいることで、今、存在している問題点を整理して共有できるようになっているなと思いました。

野木:沖縄の人の中でも考え方はさまざまで、住んでる地域によっても違うし、基地との関わり方によっても違うし、年齢でも違うし、ミックスルーツの人の中でもかなり違うし、家庭環境もそれぞれ違うし……。ミックスルーツの中でも、自分達のことをハーフと呼びたい人と、そうじゃない人といたり。

——劇中でも、いろんな呼び方が出てきましたね。

野木:自分は、なるべくハーフという言葉を使わないほうがいいんじゃないかと思っていたんですけど、ドラマの中ではどうしたらいいんだろうと悩みました。本人が好きで自称しているケースまで、こちらが勝手に変えてしまってもどうかと思って。だから作品の中では、バイレイシャル、ミックス、ハーフといろいろな言い方をしていこうと。

キャスティングについて

——物語の中心となる大嶺桜(宮本エリアナ)がミックスルーツのキャラクターとなったのは、最初から考えていたのでしょうか?

野木:北野さんが以前、沖縄のアメラジアンスクールを取材していたんですね。アメラジアンというのは、アメリカ人とアジア人との間に生まれた人のことを言うんですけど、アメラジアンのことを、5話の中の1つのエピソードとしてやりたいという話があったんです。それを聞いて、だったら全体の中の1話ではなく、メインに据えたほうがいいんじゃないかと思ったんです。全体の中の1話だと、ワンエピソードで終わってしまう感じがあって、メインキャラクターが当事者のほうがど真ん中をいける。それに、アメリカと日本をつなぐ存在として芯を食った話ができるかなと。

ただ、そう簡単なことではなかったんですよね。日本では、ブラック系のミックスの役者が少ないし、今の日本の番組制作においては、主役はみんなに知られている人であるということが大前提なので。

——それは、よく耳にする話ですね。

野木:ただ、このドラマは東京から来たライターの小松綺絵(キー)という役と桜の2人が主人公なので、そのキーを松岡茉優さんが演じるということもあって、実現できたんです。

——宮本エリアナさんや松岡茉優さんのキャスティングはどのように決まったんですか?

野木:桜役のエリアナさんは、もともとモデルでミス・ユニバースの日本代表にもなった方なんですけど、お芝居は今回初めてです。桜の役は、はじめは沖縄出身のミックスルーツの人を探したんですが、役者がいない。次に、役者経験はなくともやる気があって日本語ネイティブの人を探しましたが、条件に合う人がなかなかいなかった。それで、沖縄出身という部分は諦めて、オーディションをすることになりました。その中で勝ち抜いたのがエリアナさんです。

北野:エリアナさんはもともと、事務所に所属された時にお芝居をしたいと思っていたそうなんですけど、その頃は「日本のドラマではブラックミックスの役がありません」と言われ続けていたそうです。なので、今回オーディションを受けてみませんかとお声がけした際はすぐに挑戦したいとおっしゃってくださいました。

——それだけ日本の映像作品の登場人物に多様な役柄が出てくるものが少ないってことでもありますね。松岡さんが演じるキーの役は、松岡さんが演じるとわかって脚本を書いた部分もあったんでしょうか?

野木:プロットの段階では、まだ松岡さんが演じるとは決まってなかったです。基本設定やキャラ設定と、1話の流れが出来たところでオファーしてOKをもらったという形です。なので、実際に脚本を執筆する時は、松岡さんを想定して書きました。松岡さんなら、台詞以上に表現してくれるだろうというところだったり、なんとなくですが男性の夢を背負っているイメージもあったので、そうではない自分が見たい松岡さんを書きました。きっとハマるだろうという謎の確信を持ちながら(笑)。

——潜入して記事を書くライターなので、どんな場所にでもてらいなく入っていけるような、ちょっとやさぐれた感じがあって、思ったことをまっすぐに言えるアツさもあって、「男性の夢」にも寄り添わないし、でも実は自分自身の弱さに向き合えていないという複雑なキャラクターで、これまでにない顔だなと思いました。新垣結衣さんが性被害にあった女性に寄り添う精神科医役で、セリフもすごくよかったです。

野木:ドラマで性被害を扱うことがあったとしても、描きっぱなしになることが多いのが気になっていたんです。自分が性被害を描くのであれば、それがどれだけ大変なことなのかをドラマの中できちっと描かないといけないなと思って。沖縄での取材で、そうした分野で頑張っている女性たちに会って、今回のドラマでも必要だなと感じました。演じるのはやっぱり沖縄の人じゃないとねという中で、だったら新垣さんがいるじゃないかと連絡したらOKだったんです。

——女性キャラクターがやっぱり良いドラマですね。その中でも、キーと桜の意見の相違が生じるところがありますよね。キーはとにかく立ち向かおうとするけれど、当事者である桜には、そこまで簡単なことではないと。すごく大事な指摘をしているように思いました。

野木:あの辺の桜の心境については、実際に話を聞いたらそうだったんです。こっちにいると「Black Lives Matter」のことを当たり前のように聞いたりするけれど、沖縄で話を聞くと、「差別」という言葉を使うこと自体が差別を生んでしまうのではないかという意見もあって。それって、そこで生きていく上ではその方が生きやすいということだと思うんですね。話を聞いた中で、「Black Lives Matter」に賛同して沖縄でも活動しましたって人は1人でしたね。地域によっても違って、周りに同じミックスルーツの人がいる、いないによっても違うようでした。ただ、学生時代につらい思いをしたということは皆に共通してるんですよね。聞いていくと、全員が学生時代に髪をストレートにしていた時期があるんです。周囲と同化したいという思いからなんですけど。桜はいまだに髪をストレートにしている。そのあたりも、取材からつくった桜の人物像です。ここからは若干ネタバレになってしまうんですけど、その後の展開もそうで、みんな大人のブラックの女性に会うことで救われているんです。テレビや雑誌の中の人ではダメで、直接会って話をして初めてきっかけをもらっている。

日本だけでなく海外でも見てほしい作品

——桜にも、そうやって自分のアイデンティティを得た瞬間がありましたね。その時のやりとりも印象に残りました。沖縄のことに加え、性被害についても、今の社会に実際にある“困難な状況”を描いていると思いました。

野木:実際、性被害を訴え出た人が非難される現象が起こっているわけで、当事者がぼろぼろになるまで頑張らないとどうにもならないという状況はどう考えてもおかしい。けどその状況があるからそのままドラマで描くしかないし、それこそが問題なんじゃないの?と。かといって、#MeTooできないことで苦しんでいる人が、「私には勇気がない」「ダメなんじゃないか」と思ってしまう必要はなくて、それぞれできる範囲で、自分のタイミングでやっていけばいいと思うんです。

——このドラマの中にも、そういう台詞がありましたが、そもそもは、性加害をした人がいることが発端なのに、それによって苦しめられたり、怖くて立ち上がれない人が責められたり、分断されること自体がおかしいですもんね。そして、ドラマの最後のほうに行くと、性被害について語っていることが、沖縄の問題について語ることと重なっていっているなと感じました。それと、「この社会が正しくないから、被害者が名乗り出るのが難しい」とキーから言われたと青木崇高さん演じる伊佐の関係性も興味深かったです。青木さんは、いろんな面を引き受けられる感じですよね。荒々しいキャラクターだけど、正義感がちゃんとあるし、それが嘘っぽくなくて。

野木:ちょっとした泥臭さもあって、いいですよね。青木さんは、英語も沖縄言葉もあって大変だったと思いますが、素晴らしかったですね。

北野:青木さんは沖縄の言葉のリアリティにめちゃくちゃこだわられていましたね。過去にドラマで沖縄の人の役を沖縄の言葉で演じたことがあり、沖縄への愛も深い方なので。

——見ていて、取材したことが、ものすごくうまく繋がってできているドラマなんだろうなと思ったんですけど、最後のほう、ネタバレになるので、見た人にだけ教えてもらえると……米軍の上官の行動がアツいシーンになっていましたが、そこも取材したところなんですか?

野木:まさに、実際に似たようなエピソードがあったんですよ。本当はもっと込み入ってはいるんですが、夢物語じゃないんです。じゃないとなかなか、「そんなばかな」と思ってしまって書けないです。

——そうなんですか。私はあそこは完全にフィクションかと思っていました。でも、よくできたエピソードのほうが、返ってフィクションでは書きにくいというのもありますもんね。

野木:でもいい話にして喜んでいてもいけないっていうね。

——個人間で、骨のある話、いい話があったとしても、実際にはもっと大きなところが動かないと1つの美談で終わってしまいますもんね。この作品は、日本だけでなく、いろんなところの方にも見てほしい作品だと思いましたが、その辺はどう考えられていますか?

野木:もともと、海外でも見てもらいたいという思いもあって作ったところがあるんです。アメリカの人にも見てもらいたいですよね。興味を持って見てもらえるんじゃないかと。

北野:舞台は沖縄だけれど、今回の題材は海外の方々にも共有できるものだと思うんです。米軍の駐留先は世界中にあり、基地から染み出る同様の問題はどこの国でも多かれ少なかれ抱えていることなので。さらに、今は地域性を追求した作品が海外の人にも受け入れられる傾向があると思っています。だから、全てにおいて沖縄の地域性にこだわり、映像も本土の人がイメージする癒しの島・沖縄とは異なる沖縄本島中部のリアルな景色を撮ることにチームで力を注ぎました。映像の質感などにも注目して見て頂ければ嬉しいです。

『連続ドラマW フェンス』
WOWOWプライム・WOWOW4Kにて5月20日午前0時から全5話一挙放送
WOWOWオンデマンドにて全5話配信中【無料トライアル実施中】
脚本:野木亜紀子
出演:松岡茉優、宮本エリアナ/青木崇高、與那城奨(JO1)、 比嘉奈菜子、佐久本宝、ド・ランクザン望、松田るか、ニッキー/新垣結衣(特別出演)/ Reina、ダンテ・カーヴァー、 志ぃさー、吉田妙子、光石研ほか。
監督:松本佳奈
音楽プロデューサー:岩崎太整 
音楽:邦子、HARIKUYAMAKU、諸見里修、Leofeel
主題歌:Awich「TSUBASA feat. Yomi Jah」
プロデューサー:高江洲義貴、北野拓 
製作:WOWOW、NHKエンタープライズ
https://www.wowow.co.jp/drama/original/fence/

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「プロデューサーは、最後まで逃げてはいけない立場」 テレビ局の内幕を描くドラマ『エルピス』佐野亜裕美プロデューサーの信念 https://tokion.jp/2022/12/23/interview-drama-producer-ayumi-sano/ Fri, 23 Dec 2022 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=161545 ドラマ『エルピス』の佐野亜裕美プロデューサーが同作に込めた想いを語る。

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佐野亜裕美

佐野亜裕美
1982年生まれ。東京大学卒業後、2006年にTBSテレビ入社。『潜入探偵トカゲ』『刑事のまなざし』『ウロボロス~この愛こそ、正義。』『おかしの家』『99.9~刑事専門弁護士~』『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュース。2020年6月にカンテレへ移籍し、『大豆田とわ子と三人の元夫』やNHKで『17才の帝国』、『エルピス-希望、あるいは災い-』をプロデュースする。
Twitter:@sanoayumidesu

毎週月曜日22時から放送されているドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』(以下『エルピス』、カンテレ、フジ系)。4年半ぶり連ドラ主演となる長澤まさみや眞栄田郷敦、鈴木亮平などのキャストをはじめ、今作で初めて民放連続ドラマの執筆となる渡辺あやによる脚本、数多くの人気作を手掛けてきた大根仁による演出、音楽家・大友良英による音楽、そして『カルテット』や『大豆田とわ子と三人の元夫』の佐野亜裕美によるプロデュースと、放送前からその期待値は高かったが、放送開始後はテレビ局の内幕を描いたそのリアリティある内容も相まって、さらに話題となっている。

数々の人気作を作り出してきた佐野プロデューサーが、本作に込めた思いや信念とは。12月26日の最終回を前に話を聞いた。

——『エルピス』という作品は、脚本家の渡辺あやさんに出会って企画を立ち上げてから、6年もかかって放送に至ったということでしたが、その間に、諦めそうになった時や、光が見えた時はありましたか?

佐野亜裕美(以下、佐野):チームを集め出したりして動き出したかと思ったら、トラブルが起こって頓挫したり、そうかと思うと「これはいけるかも」ということが3回くらいあったんです。TBSを辞めてからは、テレビドラマに限らず、映画にすることも考えましたし、前後編にしようとしたり、2020年の前半くらいまでは、そんな感じでした。

具体的に光が見えたのは、カンテレに入る前のことなんですけど、(カンテレの)東京制作部の河西秀幸プロデューサーに、転職のことを相談したり、いろいろなドラマの企画書と一緒に『エルピス』の台本も読んでもらったりしていた時ですね。河西さんは、『エルピス』の次に放送される草彅剛さん主演の『罠の戦争』のプロデューサーでもあるんですけど、その河西さんが脚本を読んで、「これは面白いから、やるべきだ」と言ってくださって。その当時、河西さんに企画の決定権があったわけではないんですけど、実際に中にいて作っている方にそう言ってもらえてすごく心強かったし、その言葉が信じられたことは、自分の中で大きかったです。

——スタッフロールで、エンディングの企画のところに『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の上出遼平さんのお名前があったことも気になってました。

佐野:上出君を知ったのは、まだ私がTBSにいた頃、深夜に自分のデスクで仕事をしていて、夜中に全局モニターを見ていたら、すごく面白そうな番組をやっていて。それで、すぐに自分のデスクにある小さいテレビで見たのが『ハイパーハードボイルドグルメリポート』だったんですね。周りの人にもすごく面白いって言ってまわったり、上出君が書いた文章も読んだりしていました。

その頃はまだ上出君はテレビ東京の人だし、ドラマを作っているわけでもないので、一緒に仕事をする機会はないだろうなと思ってたんですけど、たまたま共通の友人を通じて2020年に知り合いました。直接会って話したらやはりとてもすてきな方だなと思って、『エルピス』の台本を読んでほしいなと思って送ったら、面白いと言ってくれたんです。その時はもうテレ東も辞めていたし、『エルピス』はテレビ局の話だから、テレビ局の中にいた人にしか作れないエンディングにしたいと思って、上出君に頼んだんです。

——具体的には、上出さんはどのような部分を担当されてるんですか?

佐野:エンディング部分の製作総指揮という感じで、どんな物語を紡ぐかということや、プランニングとか、そういうプロデュース全般の業務をしている感じですね。1話の完パケができた時、エンディングも含めて初めて渡辺あやさんに見てもらったら、エンディングについては制作側から何らかの説明をする機会が必要なんじゃないかと言われたことがきっかけで、上出君とあやさんが対談することになって、それが先日ウェブで公開されました。

6年を経ての放送で良かったこと、難しかったこと

——6年かけて作っているから、今、放送になったこのタイミングが逆に見る人に届けるのには良かったんじゃないかって声もありますが、そのあたりについてはどう思われますか?

佐野:今、放送して良かった部分と、企画が立ち上がった当時に放送したかった部分の両方があります。良かったことは、現実の社会で、オリンピック1つとっても、その裏でどんなことがあったのかが明らかにされようとしていて、今、この社会で生きている人達がさまざまなことを感じ始めていると思います。そのことで、このドラマに描かれていることが伝わりやすくなった部分があると思います。

一方で、村井喬一(岡部たかし)という情報バラエティのプロデューサー役のセクハラ描写を今描く難しさも感じています。このドラマの台本を書き始めたのは2017年だったんで、当初は2015年から物語が始まってから2年間を描いて、ゴールを2017年にしようと思ってたんです。ただ、放送のタイミングがずれたことで、今、放送しているドラマは、2018年に始まってからの2年間の物語にしたんですね。その間に、村井のような人の受け取られ方がかなり変わったと思います。ただ、世の中に生み出されたキャラクターや物語を、自分達の都合でいじくりまわすわけにはいかない部分もあって、そこが歯がゆいんですよね。

それは象徴的な部分なんですけど、村井に限らず、例えば陰謀論という観点もそうですが、2017年だったらそのまま受け止められていたことが、今は違う受け止められ方をしているとしたら、こちらも伝え方を変えないといけないことがあって、そこがプロデューサーとしても大変でもあり学びの多い部分でした。

主人公の浅川恵那(長澤まさみ)が後輩の岸本拓朗(眞栄田郷敦)に対してビンタをするシーンにしても、伝え方や受け取られ方は、2017年とは違うし、以前よりも切り取られて語られる部分も多くなっているので、そこは細心の注意を払わないといけなかったですね。状況が変わって向き合い方も変えないといけないという部分で6年という月日を感じます。

——以前は、現実の社会と関連することをフィクションとして描くということにも観る人も作る人も敏感だったと思うし、そこに忖度や自主規制が働くということもあったかと思うんですけど、そういう意味での向き合い方はいかがでしたか?

佐野:それは、過去に担当した自分自身のドラマの中でも、脚本にある食品の固有名詞が入っていて、スポンサーのこともあるし、そのまま使用するのは難しいと思っていたけど、いろいろ確認したら全然大丈夫だったこととかもありました。それは些末な話ですけど、内なる自主規制というのはあって、それを疑ってみると、実は大丈夫だってことはあるんですよね。

『エルピス』は、テレビ局の内幕の話だけれど、『白い巨塔』だって、大学病院の内部の権力のことを書いたりしてきたし、警察とか政治家についても書かれてきた作品はたくさんあるわけで、なぜテレビ局だと書いてはいけないのかと思うんですよ。でも、そのこと自体を疑ってみたら、意外に大丈夫だったと、今回スタートしてみて感じています。

——その話を聞いていると、東海テレビが制作した『さよならテレビ』を思い出しますね。

佐野:『さよならテレビ』の場合は、ドキュメンタリーなので、より大変だとは思うんですよね。もちろん、ドキュメンタリーでも演出は入ってはくるんですけど、本当にすごい番組で、私達も力をもらいました。あやさんにも『さよならテレビ』のDVDを送って、2人で「すごい番組だ」って言い合ってたりもしました。

登場人物の魅力について

——『エルピス』の面白いところは、そういう忖度のないリアリティの部分もあるんですけど、キャラクターの魅力もありますね。

佐野:斎藤正一役の鈴木亮平さんがされている演技の性質も影響していると思いますが、韓国ドラマに出てきそうなキャラクターでもありますよね。それに、主人公も含めて、ダメなところもたくさんあるという意味でこれまでにあまりなかったキャラクターかもしれません。よくバディって凸凹コンビが良いっていうじゃないですか。でも、『エルピス』では浅川恵那と岸本拓朗は対になってるんですよね。

セオリーとしては「バディが同じようになってはダメだろう」という考え方があるんです。そういう方法論で作ったもので面白いものもたくさんあるし、私も好きなんですけど、浅川恵那と岸本拓朗は対であって凸凹ではないので、あやさんにも、そういうバディってなかったですねって話をしたら、「この2人は、佐野さんの内面を2人に分けたので、同じなんですよ」と言われて、なるほどと思いました。

——確かに、浅川が食べられなくなったら、次は岸本が食べられなくなって、2人が同期してる感じがありますね。主人公の浅川恵那と、斎藤正一の関係性も、なかなか見逃せない緊張感がありますよね。

佐野:斎藤に関しては、斎藤みたいな人に嫌な目にあったり、斎藤みたいな人に惹かれてダメだと知っていながらそっちに行ってしまってつらい思いをした数々の友人・知人の話の集合体みたいな感じになってるんです。私が東京で20年生きてきて、周りにいる友人が、本当に大変な思いをしながら生きてきて、そんな人達から話を聞いたことを、あやさんに伝えたんです。でもそれは、キャラクター造形のために話したわけではなく、「友人からこんな相談を受けたんですけど」というような雑談でした。あやさんは島根に住んでいるので斎藤のことを「あんな人は見たことない」と言っていました。でも、私や私の友人が実際に出会ってきた人達なんです。

——鈴木さんは、斎藤に対してどんな風に思われてる様子ですか?

佐野:亮平さんからは、斎藤は、ファンタジーとリアルの間っていうか、どちらかというとファンタジーに近いんじゃないかと言われてたんですが、それは男性同士のコミュニケーションにおいて、斎藤のような男性は、浅川恵那に見せるような顔を見せないと思うんですね。斎藤というのはホモソーシャルの頂点に君臨しているような人なので、男性は彼の別の面を知りにくいと思うんです。けれども、斎藤のような人が、浅川のような聡明だけれど弱っている女性に対して、どうふるまうかということを私達は嫌というほど知っているので。コマ切れにLINEを送ってくる人っていうのは、本当にいるので。

——人を揺さぶる術を知ってるんですね。

佐野:本当に計算高くて、気になるところで止めたり……。その沼を私は通り過ぎることができたので、世に伝えたいと思って。まだ、斎藤のような人に捕まっている人に対しても。

——すごくわかります。あの斎藤の狡猾さを見て、ものすごく嫌だけど魅力を感じるところは確かにあるんですよね。そういうところを鈴木さんがうまく演じられていると思います。

佐野:普段はキャラクターに対して肩入れすることはほとんどないんですが、斎藤に関しては、好き嫌いとかを超えて、つらかったりしんどかったりという気持ちが思い出されて「ぐぬぬ……」となって。それは、亮平さんが本当に上手くて魅力的に演じてくれるからなんですよね。一方で、ああいう人が魅力的に見えてしまうことに対する怒りが個人的にはあって、浅川恵那にも「やめとけ!」となって、感情移入してしまいますね。

——見ている人達も、そういう斎藤に対するアンビバレンツな感情を共有していますよね、きっと。

佐野:そんな風に反応してくれるということは、みんな、苦しい思いをしてきてるんだなって実感しますね。

——あまり先のことを聞いてはいけないとは思うんですけど、斎藤も何かしらの着地点をきっと見つけるんだろうなとは思っているんですが、いかがでしょうか。

佐野:斎藤の最後は面白いですよ! 亮平さんも最終話があったから、この作品に出ることを受けてくださったと。もちろん、他の要素もあるんでしょうけれども、最終話の存在は大きかったと仰ってました。今まで見たことのない決着のつけ方になっているので、ぜひ見てほしいです。

——最後に、佐野さんについてのことを聞いてしまって申し訳ないんですが、佐野さんはあやさんから「さぞや自信ありげな女性なのかなと想像していたら、いつでも反省してる」と言われていたのを文春オンラインのインタビューで読みまして。こうしてお話してみて、もちろん、作品に対しての責任感を常に感じているというのも伝わってくるんですけど、良い意味での変化もあったのかなとも思ったのですが、ご自身ではいかが思われますか?

佐野:今は、チームのために自信をもっていかないといけない時期なのかなとは思っています。私が批判や数字に落ち込んでいたら、共に時間と労力をかけてくれたキャストやスタッフに申し訳がないので、個人的には落ち込むことはあるけれど、プロデューサーとしてふるまっているときは、そういう気持ちは忘れるようにしています。やっぱり、プロデューサーは、最後まで逃げてはいけない立場だと思うので、それで自分を保っているところはあります。もちろん、夜は飲みながら友人や家族に弱音を吐くこともありますけどね。

それと、あやさんが、私を人間として励ましてくれて、この先、仕事がどうなろうと、あなたのことを信頼していると言ってくれたことで自信が持てました。だから、あやさんに初めて出会った時に比べたら、自分自身も、自分の目の前にいる人のことも信じることができるようになりました。まだまだ、あやさんには怒られることもあるので、道半ばというか2合目、3合目くらいかもしれないんですけどね。

■『エルピスー希望、あるいは災いー』
毎週月曜夜10時(カンテレ・フジテレビ系全国ネット)
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
プロデュース:佐野亜裕美、稲垣護、大塚健二
音楽:大友良英
主題歌:Mirage Collective「Mirage」
制作協力:ギークピクチュアズ ギークサイト
制作著作:カンテレ
https://www.ktv.jp/elpis/

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)

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空気階段のコントに内在する“人への優しさ” 単独ライブ「anna」で見せたコアな部分 https://tokion.jp/2021/05/11/kuuki-kaidan-show-kindness/ Tue, 11 May 2021 06:00:12 +0000 https://tokion.jp/?p=31157 お笑いコンビ空気階段が語る単独コントライブ「anna」について。

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2020年の「キングオブコント」で3位になるなど、笑いの実力が高く評価されているお笑いコンビ空気階段。コントの実力はもちろんのこと、借金などのエピソードから“クズ芸人”とも呼ばれる鈴木もぐらと、女装姿が一部で人気の水川かたまりという個性が際立つ2人。彼らのコントでも少し変わった人が登場するが、その根底には“人への優しさ”がある。それは2人が影響を受けてきたザ・ブルーハーツや銀杏BOYZのように。

2021年2月に開催された第4回単独ライブ「anna」は、もともと2020年3月に開催を予定していたが、新型コロナウイルスによる影響のため延期となり、その後8月の振替公演も中止。そして、当初の開催予定から約1年後、念願の単独ライブの開催に至った。ライブチケットは即完売、オンラインチケットの販売も1万枚を超えるなど、SNSでも大きな話題となった。

彼らのラジオ番組『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)も土曜日の27時30分から月曜日の24時に移動し、30分から1時間番組になるなど、ますますその人気は高まっている。今回、「anna」が5月19日にDVD化されるのに合わせて話を聞いた。

※インタビューには「anna」のネタバレに関わる部分も含まれています。

空気階段
水川かたまり(右)
1990年7月22日生まれ、岡山県出身。趣味は、読書、散歩、フットサル、絵本を読む、totoサッカーくじ。特技はヨーロッパサッカーの知識が豊富(全選手を覚えている)、人の血液型を当てる、テトリス。NSC東京校 17期生 Twitter:@kkkatmari

鈴木もぐら(左)
1987年5月13日生まれ、千葉県出身。趣味は将棋、卓球、漫画を読むこと、公園でのんびり過ごすこと、麻雀、音楽鑑賞、居酒屋巡り。特技は将棋(アマチュア2段)、麻雀(アマチュア4段)、縄跳び(三重跳びできます)、卓球(中学時代千葉県ベスト16)。NSC東京校 17期生 Twitter:@suzuki_mogura

オフィシャルサイト「空気階段の屋上」
https://www.kukikaidan-okujo.com

YouTubeチャンネル「空気階段チャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCMdLfSBEmAHXfjzG8nNwzxA

コントにおける役割分担は固定しない

——配信後のSNSでの評判もあって「anna」の配信チケットの売り上げ枚数が最終的に1万枚を超えました。想像していたよりも売れたなっていう感じでしょうか?

鈴木もぐら(以下、もぐら):驚きましたね。そんなに観てくれるとはありがたかったです。

水川かたまり(以下、かたまり):なんかラジオで目標枚数を言う時に5万枚とか2兆枚とかふざけて言ってて、最初は自分でも冗談だったのに、だんだんそういう感覚になってきちゃって、1万枚と聞いても「なんだ1万枚か」なんて思ったりもしてしまいましたが(笑)、でもめちゃめちゃありがたいです。

——普段のコントもそうですが、もぐらさんが変わった人をやって、かたまりさんがつっこむようなネタもあれば、逆の役割になるネタもあっておもしろいですよね。特に「コインランドリー」のネタは、どちらが洗濯機の中に入るか決まってなかったそうで。

かたまり:あれは結構前に、郵便ポストに入るネタがあって、そんな感じのネタをまたやりたいということから作り始めて、洗濯機で心の洗濯もするようなものにしようと作っていったネタなんです。

もぐら:最初からどっちがやったほうがいいか決まってるネタもあるんですけど、あのコントはそれがないまま作った感じです。

かたまり:単独って1時間半から2時間くらいあるから、ずっと1人がおかしな役割をやり続けるのも難しいなというのもあります。

——リハーサルをやってみたらすごく長くなり過ぎて、本番前日に時間を削るのが大変だったとラジオで話されていましたが、どういうところを削ったんですか?

かたまり:それは単純に物理的な問題で、着替えがこの時間内では間に合わないとかそういうことだったんです。

もぐら:ネタとネタの合間が長かったんですよね。単純にテーブルはいらないなとか、洗濯機は何個もいらないなとかセッティングにかかる時間を削っていきました。

かたまり:リハーサルをやってみたら長くてびっくりしました。ほんとはリハをする前に確認をしないといけなかったんでしょうけど。逆に、笑いどころの修正みたいなものは、初日の反応を見て変えたところはありました。

——かたまりさんは、単独の前に、テレビドラマ『でっけぇ風呂場で待ってます』で脚本も手掛けられて、その経験が「anna」に役立ったと聞きました。

かたまり:確かに聞かれて「活かされた」って答えたんですけど……。

もぐら:嘘ついたってこと?

かたまり:コントに影響ありますかって言われて、そうですねって……。でも、ドラマの脚本を書いてる時に、ドラマのスタッフの人達に意見を聞いたら「ここはお芝居を深掘ったほうが全体のストーリーも見やすいし、笑いどころも映えますよ」とかそういう風に教えてもらったので、確かに活かされてますね。

ラジオ愛が詰まった「anna」

——タイトルでもあり、最後にやっていた「anna」のネタですが、このネタを軸にしようと思ったのは?

もぐら:これはけっこう早めに案が出てたんですよ。それに僕らがラジオ好きなので、最後に持っていったところもありますね。あと、展開を考えても長くなるのはわかっていたので、最後にしか持っていけないということもありました。

——いろんなネタが最後に向かってつながるように作ったことはどういう意図がありましたか?

かたまり:単純に生きていて、後で考えたら、これとこれがこうなってつながってたなってわかるってことあるじゃないですか。僕自身がそういうことが好きなので入れたいなと思いました。日常でどうしようもないこと、自分のせいじゃないことが重なってるという感じが好きなので。全体を見ると、がっつり絡んでないこともあるんですけど、やっぱりそういうのって見てる側だとしても好きなので。

もぐら:でも無理やりつながる感じは変なので、基本的には全部のコントは、つながりとかを考えないで1本ずつ完結するように作って、出来上がった時に、「こことここをつなげたらおもしろいよね」ってアイデアを出し合って、何かつなげられる部分を見つけていくという感じですかね。

——さきほど、もぐらさんも「ラジオが好きなので」と言われてましたが、コントを見ててもやっぱりそれが伝わりました。お2人にとってラジオってどういうものですか?

かたまり:ラジオって人との距離が近いなというのはありますよね。僕も『爆笑問題カーボーイ』を聴いてきて、やっぱりテレビでは話さない思いについてラジオだとがんがん話してくれる。聴いている側として考えても、すごい距離が近いなって。自分にだけしゃべってくれている感覚はありますよね。

もぐら:テレビは開かれてるから「公園」みたいな感じがあるんですよね。でもラジオは「秘密基地」的というか。「電波」っていう見えないものが飛んでいて、チューニングで合わせることでその「電波」を見つけたら、大人の人が表には出せないような話をしているということにワクワクして、そういうところからラジオに入っていったと思います。

——実際に自分がそのラジオのパーソナリティーになってからはいかがですか?

かたまり:なんとか一日でも長く続けられるようにということで必死です!

——でも、『空気階段の踊り場』は4月から月曜日24時から1時間の放送になったりと、順調ですよね。

かたまり:本当にありがたいですね。放送時間も30分から1時間になったので、いろいろと話せるようになってうれしいです。自分達の好きな曲をかけられるようにもなりましたし。

良い面は誰でも持っているはずだから見た目だけで判断しない

——「anna」のコントの中のラジオDJチャールズ宮城にしても、コントに出てくる人、みんな少し変わっているけど、その一方で、どこか憎めない愛らしいところがありますよね。

かたまり:そうですね。全く理解できないことってやってないと思うので。自分達の中で、どっか共感できたり、そうだよなっていう感覚があるからネタにしてます。まあヤバい人はヤバい人ではあるんですけど、完全に受け取る側をシャットダウンさせるような感じではないのかなと。もしも、こういう人がいたら、こういう対応をしてしまうのかなという感覚を描いてます。

——ギリギリの境界を見せるネタの中でも、空気階段さんのコントって、ハッピーエンドに向かってたりすると思うんですが。

かたまり:ギリギリをうまく見せられたらめっちゃおもしろいですけど、悪意みたいなものを、みんながおもしろいと思えるようにするのはすごく難しいので、その技術がないからというのはあるかもしれません。

——とはいえ、ギリギリの人間のせつない感じはけっこう伝わってきて、「anna」の中で、最初のほうにあった「27歳」というネタに出てくる、もぐらさんが演じる「カメちゃん」にしても、「コインランドリー」でかたまりさんが演じた「マキムラ」にしても、やっぱりどっか良いところもありますよね。空気階段の笑いの根底には人への優しさが感じられます。

かたまり:マキムラもああ見えて実は普段はちゃんと仕事してますからね(笑)。

もぐら:良い面って誰でも持ってると思うんですよね。それを見た目だけで「この人近寄っちゃだめよ」って遮断してしまったりして。もちろん、そっちのほうが危険は少ないのかもしれないけど、その人達だって本当に危険な人なわけじゃない。それは、実際に僕の地元にそういう人がいて、先生とかに「ああいう人に関わっちゃだめ」って言われたことがあるので。

かたまり:それに、自分がそっちの側じゃないとは言い切れないしね。誰しも、表面にそっちが出てきたら「関わっちゃだめ」って言われる側になるかもしれない。そういうことって絶対あると思うんで。

もぐら:うまく隠してるだけってこともありますからね。

——コント「メガトンパンチマンカフェ」の中で、「ミスターアイホープ」が言っていた「こちらから見たら正義だけど、もう一方から見たらそれは悪だ」というセリフが印象的で、空気階段さんはそういう見方を意識しているのかなって思ったんですが。

もぐら:立場と状況で変わったりするということですよね。正解はこれだって決めるほうが難しいということをミスターアイホープが……。

かたまり:教えたかったのかもしれないですね。

もぐら:世の中の人、全員が変だと言えば変ですからね。

「漫才は照れる」

——「anna」を見て、コントの良さを再認識したんですが、お2人にとって「コント」とは?

もぐら:「コント」は「コント」なんですけど、その中で1個の物語が作れるところですかね、僕が好きなのは。

かたまり:難しいんですよね。良さを語るのって。実はNSCの時に漫才をやって怒られて、それでコントをやってるところもあるので……。

——漫才をするのが照れるというのも聞きましたが。

かたまり:はい。照れます。

もぐら:それもコントばっかりやってるからなんでしょうね。ずっと醤油ラーメンでやってるのに、急に味噌ラーメン出しますというのは照れるってことなのかもしれないですね。

かたまり:それと、単純にお客さんの顔が見えている状況ってのがコントにはないので。

もぐら:技術もありますよね。最初から客席も含めての世界なので。

かたまり:漫才が、舞台に出ていく時にお客さんを惹きつけて「さあ見てください」って感じなのと、コントはひっそり始まって「よかったら見てください」という感じというか。

——それで思ったんですが、お2人って前説とかやられたりは?

もぐら:何回かあります。

かたまり:お客さんより僕らが緊張していて。

もぐら:お客さんはこの番組を楽しみにしていて、このために休み取って来てる人もいるだろうし、スタッフさんもいろんなこと考えて番組作ってて、それを照れて声が出せないなんてことじゃいけないと思ってやってました。でも、そこまで考えてやんないとできないくらい照れちゃうというのはあるかもしれません(笑)。

——最後に、「anna」のDVDが発売されるということで、DVDについても一言いただけたら。

もぐら:僕らはDVD世代だし、芸人としては、やっぱりDVDを出したいという、憧れがあるんですよね。

かたまり:僕も大学やめてからなんもしてない時にレンタルDVDを観まくって、それに救われました。今回の特典でいうと、ラジオのディレクター(越崎恭平)さんが勝手にビデオを回してくれていた記録映像が、けっこうなボリュームで特典としてつきます。

もぐら:なのでそれを楽しんでもらえたらと。あとは、DVDになると、カメラ割り、カット割りも入ってくるので、劇場で観た人も楽しめると思います。

■『空気階段 単独ライブ「anna」』
第4回単独ライブ「anna」の公演を初めてDVD化。
発売日:2021年5月19日
本体価格:¥3,850
https://www.tbsradio.jp/562457

空気階段 単独LIVE「anna」
@kuki_tandoku

『空気階段の踊り場』
Twitter:@kuki_odoriba

Photography Takahiro Otsuji(go relax E more)

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佐久間宣行 × 祖父江里奈 ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』で伝える「人生の豊かさ」 https://tokion.jp/2021/04/08/nobuyuki-sakuma-x-rina-sobue/ Thu, 08 Apr 2021 01:00:32 +0000 https://tokion.jp/?p=28050 テレビ東京で4月9日深夜0時12分から放送されるドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』のプロデューサーを務める佐久間宣行と祖父江里奈による対談。

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多くの話題作を生み出してきたテレビ東京の金曜深夜の「ドラマ24」。4月9日(深夜0時12分)からはコラムニスト、ラジオパーソナリティーとして活躍するジェーン・スー原作のエッセイ集『生きるとか死ぬとか父親とか』をドラマ化。同作は、ジェーン・スーが、自身の家族の出来事と思い出を描いたリアルな物語で、ドラマでは主人公・蒲原トキコを吉田羊が、その父の蒲原哲也を國村隼が演じる。また、メイン監督、シリーズ構成を、『溺れるナイフ』や『21世紀の女の子』など多くの映画作品を手掛ける山戸結希が務める。なお山戸は今作が初めての連ドラ監督となる。

今回、3月でテレビ東京を退社しフリーとなった佐久間宣行とテレビ東京の祖父江里奈、2人のプロデューサーにドラマ化から山戸監督の起用、キャスティング、そしてプロデューサーとしての想いを聞いた。

山戸監督ありきで始まったプロジェクト

――まず、ジェーン・スーさんのエッセイを山戸結希監督でドラマ化することになった経緯を教えてください。

佐久間宣行(以下、佐久間):もともと僕はドラマ部じゃなくて、やるとしても『SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜』のようなシチュエーション・コメディーだったんですけど、このプロジェクトの始まりは、山戸結希監督で何かを作るということが根本としてあったんです。僕は「ミスID」の審査員で山戸監督とご一緒していて面識があったので、それもあってこのプロジェクトに入ることになりました。僕と祖父江は、山戸監督の独特の才能を活かして、このドラマを成立させるために入った人間という感じです。

――そうだったんですね。この一報を聞いた時は、山戸監督とジェーン・スーさんという意外な組み合わせが新鮮でした。

佐久間:山戸監督が「生と死」についてやりたいというのがあって、いろんな原作を持っていった中で、監督自身がこの作品を選んだんです。スーさんの作品には、「老い」「家族」「親」「東京」「女性の生きづらさ」なんかがすべて書かれていたので、監督の思っていることと合ったんだと思います。

――山戸監督のこれまでの作品を見てきた者からすると、今、ドラマの宣伝などで見ているイメージはちょっとカラっとしてポップな感じがしていますが、その辺は見ていくと山戸監督のカラーというのも出てくるんでしょうか。

佐久間:1話の冒頭の6分、7分くらいで出てきますね。

祖父江里奈(以下、祖父江):やっぱりドラマをやってきた人間としては、とっつきやすさも大事にしたいところなんですけど、山戸さんだからこそ、その6〜7分の部分を活かそうということになりました。監督のカラーがにじみ出ちゃう感じです。監督もドラマに寄せた作り方も意識してくれましたけど、それでもにじみ出る「らしさ」があります。

佐久間:もともとは山戸監督の天才性をドラマに存分に活かしたいということから始まった作品なので、脚本も現場も監督の気持ちを大事にしました。とにかく冒頭を見れば「普通のドラマじゃねえな」ということがわかると思います。

――今の段階のプロモーションを見ていると、そういうことはまだ見えていなくて、ポップな部分がフィーチャーされていますね。

佐久間:まだ隠してるんですよ(笑)。楽しい親子の関係性とかを今の段階では押し出しているけれど、ドラマが始まって、後半にいけばいくほど情念とかすごい世界が見せられるんじゃないかと。

祖父江:映画とテレビを見る人の動機って違っていて、映画は監督の作風を知っていて、その上で見にいくところがあると思うんですけど、ドラマは間口が広くて、なんとなくおもしろそうだなということで見始めるものだと思うんですよ。とはいえ、ポップな部分が押し出されていることも嘘ではないんですよ。ちゃんとラジオのシーンや家族のシーンにはポップさもあって、見ていくうちにディープなところも垣間見えていくので。

佐久間:この原作ってもともと、娘と父親の日常があって、だんだん過去を描くにしたがって、それぞれの家族にある「地獄」が見えてきて、それを乗り越えて今があるという話で。そういう経験があったからこそ、今のジェーン・スーさんが出来上がったんだと思うんですね。人の心に踏み入っていい距離感があったり、どんな人にも対等に向き合うことができるような。そういうスーさんの生きてきた過程は、見事に山戸監督に合っていると思いますね。

祖父江:原作にはないオリジナルな部分もけっこうあるんです。特に、女友達のシーンを入れたことで、女性が結婚するとか働くとか子どもを産むとかということも描かれています。そのオリジナルなシーンも、監督の関心に寄せた要素になっていると思います。

――監督とスーさんが打ち合わせなどではどんなお話をされてましたか?

佐久間:スーさんには、シナリオがある程度出来上がった時に、確認してもらって。その時点で監督とディスカッションする機会がありました。スーさんは「うちの父親はこんな殊勝なことは言いません」とか「こんな申し訳なさそうな態度にはなりません」とか言ってましたね(笑)。それと、ラジオの相談のシーンも、かつてはこう答えたけれど、今なら少し違う答えをするのではということなんかもチェックしてもらいました。

ラジオ現場のキャスティングにも注目

――吉田羊さんと國村隼さんのキャスティングについても教えてください。吉田さんがここまでスーさんに寄っているビジュアルにも驚きました。

佐久間:衣装合わせに立ち会ってみて、こんなにそっくりになるんだってびっくりでしたね。スーさんと吉田羊さんは年齢的にも近いし、1人の女性として、これまでのキャリアを考えても、この役に重なるところがあるんじゃないかと思っていたので、ジャストなキャスティングになりました。

――それと、國村さんのイメージも、今までとは違う感じもあって新鮮ですよね。

祖父江:『コクソン』のイメージとかですよね。

――そうですそうです。厳かな役も多い方だと思っていたので。

祖父江:抜群の演技力で自由奔放で人たらしな父親を見事に演じてくれました。ご本人も、優しくておしゃべりでユーモアもある方なんですよ。番組のためのオフショットを撮らせてもらう時も、國村さんが一番、お茶目なポーズをしてくれて、その写真をいつも佐久間さんに送ってました(笑)。

佐久間:スタッフから「今日もかわいい写真が撮れました」ってくるから松岡茉優さんの写真かなと思ったら、國村さんの写真で(笑)。

――ラジオの場面に出られる方や、次々と発表になるゲストの方も気になります。

祖父江:そこは間違いなく佐久間さんですよね。

佐久間:ラジオの現場で働くキャラクターは、もともとはセリフがほとんどなかったんですよ。なので、トンツカタンの森本くんは、作家にいそうな顔をしてるし、ヒコロヒーも技術者にいそうだし、オカモト“MOBY”タクヤ(SCOOBIE DO)くんも、適当な感じのディレクターにいそうってなって、ビジュアル重視で選びました。芝居をしたことがない3人だったんですけど、すごく軽妙な感じで雰囲気もあっていたので、トキコのラジオの場面で、いろんなリアクションをするシーンが増えていったんです。

祖父江:特にMOBYさんは、もともとスーさんとは面識があったそうで、役作りのためにTBSにも見学に行ってました。スーさんはキャスティングにMOBYさんがいるのを見て、爆笑だったらしいです。見学についても、「出演したこともあるのに必要ないでしょ?」ってスーさんは思ったらしいんですけど、MOBYさんは「ディレクター目線で現場を見たいんだ」と。真面目な方で、演劇の分厚い本も読んで演技に挑んでくれましたね。

佐久間:田中みな実さんもいいんですよ。実際のスーさんのラジオでは、パートナーとしてTBSのアナウンサーの堀井美香さんなどが出られているんですけど、ドラマの中のトキコのパートナーも、実際にTBSのアナウンサーだった田中みな実さんだとおもしろいなと。

祖父江:2人のかけあいがめっちゃいいんですよ。

佐久間:アナウンス原稿も読めないといけないし、それ以外のところの芝居はめっちゃナチュラルだし、女性アナウンサーが年齢を重ねて感じる悩みだったり、キャリアに対する悩みだったりが、田中さんともシンクロしていて。彼女のゲスト主役回みたいなのもあって、すごくいいですね。

――ヒコロヒーさんの演技も楽しみですね。

佐久間:ヒコロヒーもいいですよ。

祖父江:佇まいがいいんですよ。音声さんの役なんですけど、いそうなんですよね。寡黙でときどきぽろっといいことを言う。ヒコロヒーさん自身が働く女性についての文章も書かれていて、そういうことからも意識して役に結びつけた感じはありますね。

佐久間:それと、岩崎う大(かもめんたる)くんもいいんですよ。トキコの元カレ役なんですけど。

祖父江:そのシーンがフランス映画みたいですごいおしゃれなんですよね。

佐久間:その元カレが、人生がなかなかうまくいかない役で、元カノのトキコの前でかっこつける感じがよくて、「これは岸田戯曲賞ノミネートされただけあるわ」って。

祖父江:後半もいいんですよね。

佐久間:松岡茉優さんがトキコの若い頃を演じていて、父親との「地獄」の部分を担ってくれています。そういう「地獄」って誰の人生にもあると思うんですけど、その部分もすごくよくて。それと、ひょんなところで現われるDJ松永(Creepy Nuts)にも注目してほしいですね。アイツ、全然セリフを覚えて来ないのに、絵力があるんですよ(笑)。この間、ラジオでその時のことを話してて、「ドラマってセリフを覚えて行くもんだってことを知らなかった」って(笑)。

祖父江:それで私が困って泣きそうになりましたからね!現場で急きょ、セリフ合わせに付き合うことになって。ステージママじゃないんだから!

佐久間:どこの子役だよ!って(笑)。でも松永の役がぴったりでね。

祖父江:すごいのが、セリフは覚えてこなかったんですけど、一度覚えちゃうとその後はとちったりしないんですよね。

佐久間:やっぱり、旬の人って輝きが違うんだなと。いいシーンになりましたよ。

生きること、死ぬこと、家族のことを通じて、自分のことを考える

――佐久間さんは、このドラマの発表があったのと同時期に、テレビ東京を退職してフリーになるということも発表されて、二重に驚きました。

佐久間:このドラマが立ち上がったのがかなり前で、その時には、フリーになることは考えてなかったので、周りのみんなもびっくりしていましたね。僕自身は変わんないですね。テレ東との契約は別の形になるけれど。

――祖父江さんはその話を聞いていかがでしたか? 寂しいとか、辞めないで、みたいなこととかは。

祖父江:まあ佐久間さんはどこにいても佐久間さんだし、テレ東という狭い世界から外に出て何をするのかのほうが楽しみということもあるので。

佐久間:みんな、それなりに寂しいとかって言ってはくれるけど、誰も引き留めてはくれなかったからね(笑)。

祖父江:「でしょうね」って感じだったんじゃないですか?

佐久間:「でしょうね」もそうだけど、3年くらい前から、会う人に「いつフリーになるの?」って言われてたし。僕自身は野心もないし、会社でやるほうがリスクもないしって思ってて、でも中年を超えると「どうやらサラリーマンのほうが大変じゃないかと」思うようになって。

――管理職になって直接番組作りに関われなくなるという立場になりますしね。

佐久間:自分としては、40半ば超えたら、管理職にモチベーションが湧くと思ってたんですよ。でも、実際にそうなってみると、やっぱり番組作りとか、その仕組みを作るほうがおもしろいと思ってしまったので仕方がないですね。

――今って「顔の見えるプロデューサーやディレクター」ってテレ東に一番多いですよね。そういう空気ってどこからきてるんですか?

祖父江:1つは、局員の発信に対する規制がテレ東はわりと緩くて、好きなこと言っても怒られないこととか、あとは素人さんにカメラを向ける番組が多くて、そこでディレクターが顔を出すことが多くて抵抗がなくなっているいうこともあるかもしれないですね。

佐久間:伊藤(隆行)さんは、一番、ちゃんと前に出る人だと思います。それがあるから、他の人が前に出ても止められないのかな。それと、テレ東って小さい局なので、制作者が説明したほうが嘘がない企画も多くて。それって映画で監督が説明するようなことと似てるのかもしれないですね。『ゴッドタン』とか『あちこちオードリー』にしても、僕以外が説明しにくいということもあるのかもしれないです。

――お2人とも、「顔の見える」プロデューサーだと思うんですけど、プロデューサーとして、これからはどんなことがしたいですか?

祖父江:一貫して、自分と似た境遇の女性が元気になるものを作りたいということがあります。今は恋愛とか仕事がテーマになっているけれど、年齢を重ねたら、そのテーマが老いとか介護とかにも変わっていくかもしれないし。それって、今、宮藤官九郎さんがやってることで、それを超えることは難しいかもしれないけれど、その時にも同年代の女性が見て元気になるものをやっていきたいですね。それと、ファーストサマーウイカさんやヒコロヒーさんとも何かやってみたい、形にしてみたいとも思ってますね。

――佐久間さんはフリーになられて今後やりたいことは?

佐久間:僕はこれまでよりも、ストーリーのあることに関わることも増えるかもしれないですね。これからは、後輩から仕事をもらっていきたいですね(笑)。僕はけっこう、全局ひっくるめて、優しい先輩だったと思うんですよ。後輩を甘やかしてきたので、今度は甘えさせてもらって、その分を回収しないと……。

祖父江:佐久間さんは私達が悩みを相談しても、深夜でも打ち返してくれる人なんですよ。昔から“ポンコツ社員再生工場”でもあって。

佐久間:他の番組でうまくいかないADを番組で引き取って、心を回復させて元の場所に帰していく。濱谷(晃一)とかね。

――佐久間さんは、いろんな人の悩みを聞いたり、再生させたりする中で、自分もしんどくなったりダメージ受けたりしないんですか?

佐久間:僕はダメージ受けないです。祖父江から見てどうだろうな?

祖父江:佐久間さんはとにかくフラットな人なので、誰かに何か言われても傷つかないし、私も佐久間さんに怒られたことは一度もないです。

――佐久間さんて、めちゃめちゃお忙しいし、それでも体力的にも元気そうだし、メンタルも丈夫なんですか?

祖父江:強靭な体力と、頭の回転の速さがこの仕事のスタイルを可能にしてますね。

佐久間:体力はまああるね。こんなこと番組の宣伝と関係ないけど、やっぱり、10代の頃はキツかったんですよ。田舎で周りにあわせて擬態して生きてきたから。今はちょっとでもいいことがあると、スタート時に比べて「ここまでよくやれたな」って思えるから、野心がないんですよ。だから怒ったりもしないんです。

――過度な期待がないから、俺はもっと評価されるべき、みたいな不満が溜まらなくて、今起きてることをありがたがれるってことなんですね。それはあるかもしれないですね。

祖父江:ちょっと話がずれるんですけど、私は佐久間さんから年齢とか外見をいじられたことが一度もないんですよ。だから、このドラマをやる上でも、絶対的な信頼があって。テレビ局ってまだまだ、セクハラ発言に気付かない人もいるので。そういう核の部分でのズレがないということでもやりやすかったですね。

佐久間:確かにね。「これってセクハラになっちゃうの?」っていうことを打ち合わせでする必要がなかった。

祖父江:そのリテラシーの部分のすり合わせから始めないといけない打ち合わせもあるので。

――佐久間さんは、ある時期からそういう人になったのか、それともずっとそういう人だったんですか?

佐久間:大学の頃から変わんないとは言われるから、変わってないのかもしれないなと。でも、そういう僕が『ゴッドタン』とかよく作ってるよなって。まあ、出た人には芸人さんにしても、女性達にしても皆に売れてほしいと思ってるんですよ。

――最後に、もう一度このドラマについておすすめいただけたらと。

佐久間:このドラマってラジオ局というメディアでの悩み相談の部分があるし、東京で生きる中年女性とその老いた父親や、その2人を囲む大人達も悩んでいて、簡単に解決しないながらもどう生きていくのかということを、一話一話やっていく究極のパーソナルな作品なんです。見ていくと、タイトル通り、生きること、死ぬこと、家族のことを通じて、自分のことを考えられるのではないかと。最後まで見ると浄化されたりするんじゃないかと思います。

祖父江:生きていく時間は長いから、時には頭ではわかっているけれど、思ったようにはできない葛藤なんかも生まれると思うんですね。女性をポジティブに応援したいという部分ももちろんあるんですけど、理屈だけではままならない部分にも注目してもらえたらと思っています。

佐久間宣行
1975年福島県いわき市生まれ。1999年に早稲田大学商学部を卒業後、テレビ東京に入社。『TVチャンピオン』などで、チーフアシスタントディレクターやロケディレクターとして経験を積みながら、入社3年目に『ナミダメ』を初めてプロデューサーとして手掛ける。現在は『ゴッドタン』『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』などのバラエティ番組でプロデューサーを務める他、ニッポン放送『オールナイトニッポン0(ZERO)』で水曜日のパーソナリティを担当している。2021年3月末をもってテレビ東京を退社し、フリーランスとなる。
Twitter:@nobrock

祖父江里奈
2008年テレビ東京入社。入社後、制作局CP制作チームに配属。バラエティ番組制作を担当した後、2018年に制作局ドラマ制作部(現:制作局ドラマ室)に異動。『来世ではちゃんとします』『だから私はメイクする』『共演NG』『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』プロデューサー。今年の夏は『来世ではちゃんとします』シーズン2を手掛ける。
Twitter:@RSobby

■ドラマ24「生きるとか死ぬとか父親とか」
2021年4月9日(金)深夜0時12分からテレビ東京系列で放送開始。
放送日時:毎週金曜深夜0時12分〜
原作:ジェーン・スー『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮文庫刊)
主演:吉田羊、國村隼
出演: 田中みな実、松岡茉優、富田靖子、オカモト“MOBY”タクヤ(SCOOBIE DO)、森本晋太郎(トンツカタン)、ヒコロヒー、岩崎う大(かもめんたる)、DJ松永(Creepy Nuts)、岩井勇気(ハライチ)、平子祐希(アルコ&ピース)
監督:山戸結希、菊地健雄
シリーズ構成:山戸結希
脚本:井土紀州
https://www.tv-tokyo.co.jp/ikirutoka/
Twitter:@tx_ikirutoka

Photography Takahiro Otsuji(go relax E more)

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