MARCO×最上もが デジタル写真集『VISITOR』で挑戦した新たな表現

2021年1月30日に自身初となるデジタル写真集『VISITOR』を出版したフォトグラファーのMARCO。「写真集といえば紙で見るもの」という考えだった彼女が、今作ではデジタルでの新たな表現方法に挑戦した。なぜ、デジタルでの写真集を出版することになったのか。また、どういった挑戦を試みたのか。『VISITOR』出版の経緯と、そこに込めた想いを、モデルを務めた最上もがとの対談から探っていく。

最上もがからの誘いがきっかけに

——2人はもともと知り合いだったんですか?

MARCO:もがちゃんがでんぱ組inc.時代から何度か一緒に撮影はしたことがありましたし、もがちゃんの番組「もがマガ!」(AbemaTV)にも誘っていただいて、出演したりもしていました。

最上もが(以下、もが):MARCOさんとは、雑誌の「Zipper」での撮影が初めてで。その時の撮影がすごく楽しくて、印象に残っています。「MARCOさん」という名前は覚えていて、その後も何回か撮影でお会いしたりと、また何かご一緒できたらなと思っていました。それでAbemaTVで2016〜17年にやっていた「最上もがのもがマガ!」にMARCOさんにも来てもらって、雑誌の撮影の企画をやったんです。その時に久しぶりにお会いした感じでしたね。

MARCO:そこで対談とかもさせてもらって。その時にも言ったんですけど、最初に撮影させてもらった時からもがちゃんのことが大好きで(笑)。もがちゃんって、芯が通っているので、個性的なスタイリングも、シンプルなスタイリングもなんでも着こなせる。いろいろな世界観にすっと入ってくれて、表現の幅が広い。だからもがちゃんと撮影するのが本当に楽しいんですよね。

——なるほど。お2人は何度か一緒に撮影したことがあったんですね。そこから今回のデジタル写真集『VISITOR』を作ることになった経緯を教えてください。

もが:MARCOさんをお誘いしたのはぼくのほうからでした。アイドルを辞めて、2年くらい経って、好きだった雑誌もどんどん休刊してしまい、何かものとして残すことが大事だなと思っていました。それで、今まで自分が関わった人の中で、「この人と一緒に作品を作りたい」っていう人に連絡を取ろうと思い、その時にパッと浮かんだのがMARCOさんだったんです。それで、一度お会いして、その時に「何か一緒にやりたいたですね」って話をして。その後、MARCOさんから「デジタル写真集はどうですか」って提案があり、それを聞いてすぐに「ぜひお願いします」って返答しました。

MARCO:最初から写真集を作ろうと始まったわけではなかったよね。その時はカジュアルに作品撮りをしましょうっていう感じでした。それでせっかくやるならチャレンジングなことをしたいなと考えていました。もともとは昨年11月に開催される予定だった「TOKYO ART BOOK FAIR」で写真集的なものを作って発表するのはどうかなと思っていたら、コロナ禍になってしまって。それで、あまりイベントありきで考えると世に出せるのが先になってしまうと思っていたら、マネージャーから「デジタル写真集を作るのはどうですか?」って提案があって。最初は「デジタル写真集って私的にはテンションが上がらないな」と思っていたんですが、よくよく調べていくと写真とムービーを同列に並べられるとか、デジタルだからこそできる表現もあるなと。なかなかそういうデジタルに特化した写真集ってなかったので、デジタルだからこそできる写真集の表現を追求しようと思い、もがちゃんに提案しました。

「もがちゃんの『東京感』を表現」

——なるほど。最初からデジタルで考えていたわけではないんですね。今作『VISITOR』のコンセプトは?

MARCO:私からこういう感じで撮影したいっていうのをもがちゃんに提案しました。もがちゃんがもともと持っているアイドル感、ファッション感、カルチャー感とか、そんないろいろな要素を持っているのが、すごく「東京的」だなと。その東京感を表現したいと思っていました。

タイトルの『VISITOR』は、なんとなくもがちゃんが宇宙から迷い込んできた世界観をイメージしてつけました。東京的といいつつも、東京の街で浮いているような。それをスタイリストさんに伝えて、スタイリングに関しては、お任せしました。それでスタイリストさんから「それなら全部東京ブランドでまとめるのはどうか」っていう提案があって、衣装も全て、東京ブランドでそろえています。

——ロケーションにもこだわりを感じますが、どのように決めていったんですか?

MARCO:ロケ撮影は写真集の最初のほうだけなんですが、東京の古い街並みや混沌とした感じが出せればいいなと。その象徴的な場所を探して、撮影しました。あとはスタジオ撮影でも和室スタジオを使ったり、東京のいろいろな面を表現できたと思います。

——撮影期間はどれくらいだったんですか?

MARCO:3日間でした。タイトなスケジュールだったんですが、すごいもがちゃんが頑張ってくれました。ページ数も最初は、最低60ページくらいで考えていたんですが、撮影してみたら良いカットが多くて、最終的に90ページくらいになりました。紙でやっていたら、一度60ページと決めてしまうと、そこから増やすのは難しかったかもしれないので、デジタルだから臨機応変にできたのは良かった点ですね。

——お2人のそれぞれのお気に入りのカットを教えてください。

もが:撮影はどれも楽しかったです。このカット(P18-19)は新橋の駅前にあるネイビーの壁の前で撮影したんですが、買ってくれたファンの人達からは「ヨーロッパかと思った」と言われたりもして。衣装も装飾的な感じで、そういうギャップがある異様な空間での撮影でした。実際は、パパっと撮影するみたいな感じで、お昼時だったので、いろんな人に見られながら(笑)。それがおもしろくて、このカットは特に印象に残っています。

MARCO:全部思い入れがあるけど、写真集の最後のほうの文字を投影しているカットがあって。そのカットはもがちゃんの美しさ、本来の魅力がすごく出ていて、撮影中もみんな息をのむくらい、見とれていました。

文字はその場でライティングで投影していて。写真集では文字が動いて見えるんですが、その動かすのも、文字の位置が違う画像を2枚作って、それをアナログで動かしているんです。デジタルなんだけど、アナログな作り方で、パラパラ漫画のように見せられればと思っていました。そこは意識して作りました。

「この写真集は全人類に見てほしい!」

——もがさんは妊娠中の撮影だったそうですね。妊娠をきっかけにもがさんの中で変わったことはありますか?

もが:全部変わりましたね。こんなに大変なんだっていう感じです。その中でも1番は守るべきものができたっていうことです。こんな言い方すると少し照れくさいんですけど。

MARCO:私も子供がいるんで、その気持ちはわかります。

もが:前までは無理してやっていたことも、無理しちゃいけないんだっていう気持ちに変わりました。今までスケジュールも言われた通りでやっていたんですけど、自分だけじゃないんだって思うようになって、できるだけ負担のないスケジュールを相談したり、そこへの意識は変わりましたね。

MARCO:妊娠期間ってすごい神秘的で、自分の想像を超えた変化があって。もがちゃんの内から発するエネルギーもすごくて、だから今回の写真も、より神秘的な雰囲気になったよね。

——最後にどういった人達に見てほしいですか?

もが:全人類ですね(笑)。基本的に自分が企画に入ることはないんですが、それは関わっているスタッフさん達の世界観を大切にしたいという想いから。そこは信用しているんです。それでも作品を作る時には自信のある、誰にでも見せられるものを作りたいと思っていて、その企画に対してモデルとして自分がそこに加わることで、さらに良いものにしようという気持ちでいつも作品には挑んでいます。

今回の作品は「写真集っていうよりはアートだよね」って言ってくれる人が多くて。感受性の豊かな人が見たら、さらに興味深く見てもらえると思います。デジタルならではのおもしろさが詰まっているので、まだそれに気付いていない人はぜひ見てほしい。ぼく自身も今回デジタルの写真集に挑戦してみて、新しいものを受け入れる勇気をもらえたので。

MARCO:もがちゃんは企画には入らないって言っているけど、私が提案したことに対して、NGもなく、全て受け入れてくれて。しかもただ受け入れるだけではなく、その世界にすっとうまく入ってくれて、表現者としての器の大きさを実感しました。想像していた以上のものを表現してくれるのが、もがちゃんのおもしろいところなんです。

『VISITOR』はもがちゃんのファンの人達はもちろん、ファッションや写真、アートが好きな人も楽しめる作品になっています。もがちゃんも言ったように「写真集は紙でしょう」と思っている人でも、デジタルならではの表現が楽しめる新しい表現ができました。海外から見た東京みたいなことも意識しているので、世界中の人に見てもらえたらうれしいですね。

MARCO
長野県出身。2003年慶應義塾大学在学中より蜷川実花に師事。2008年より活動開始。ヴィヴィッドな色彩バランスと、フットワークの軽いグラフィカルな画面構成力で数多くの雑誌媒体をはじめ、広告、CDジャケット、タレントカレンダー、写真集など幅広く活動。写真展での作品発表も精力的に行う傍ら、伊勢丹でのポップアップショップの開催など、写真を使ったグッズでも人気を集めている。
https://marco149.com
Instagram:@marco149

最上もが
2011年アイドルグループ「でんぱ組.inc」に加入し芸能界デビュー。アイドル活動を続けながら、ファッション誌やコミック誌の表紙を飾り、写真集も発売するなどモデルとしても活躍。さらにドラマや映画に出演し女優としても活動する。2017年8月にグループ脱退後、個人事務所を開設しドラマや映画、バラエティ、ファッション誌、ナレーション業、漫画の原作に挑戦(集英社『モノレント』)するなどマルチに活動中。
https://mogatanpe.com
Twitter:@mogatanpe
Instagram:@mogatanpe

デジタル写真集『VISITOR』
出版社:SWEET TYPHOON
価格:¥2,000
仕様:92ページ
https://books.apple.com/jp/book/visitor/id1550621450

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author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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