坂川直也, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/naoya-sakagawa/ Thu, 22 Dec 2022 08:08:09 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 坂川直也, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/naoya-sakagawa/ 32 32 不穏な時代における「炭鉱のカナリア」映画 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.16 https://tokion.jp/2022/12/22/a-film-trip-around-asia-vol16/ Thu, 22 Dec 2022 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=160763 タイ、韓国、フィリピンをはじめとするアジア映画の隆盛とその作品や周辺文化を取り上げ、日本とアジアを比較する考察を織り交ぜながら、紹介する連載コラム。

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本連載のVol.15では、ウォン・カーウァイ監督を取り上げた。先日、BFI(英国映画協会)が10年ごとに発表している「The Greatest Films of All Time」の最新版が公開され、同監督作『花様年華』(2000)が5位で、アジア映画では4位の小津安二郎監督作『東京物語』(1953)に次ぐ順位だった。さらに、『恋する惑星』(1994)が88位。ちなみに、第1位は女性監督で初となるシャンタル・アケルマン監督作『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』で、女性監督再評価の世界的な潮流を感じる。

そこで今回は、秋に、福岡「Asian Film Joint 2022 場に宿るもの」第35回「東京国際映画祭」、そして第23回「東京フィルメックス」に参加したので、そこで観たアジア映画の中から、特に“不穏な現代を象徴する作品”に焦点を当てて、これまでの本連載と関連づけながら紹介したい。

東京フィルメックス最優秀作品賞を含む3冠の『自叙伝』

「東京国際映画祭」「東京フィルメックス」の上映作品の中で、その後、他の国際映画祭を受賞し、世界的にも注目されつつある作品が2本出てきた。それはベトナムのブイ・タック・チュエン(=ブイ・タク・チュエン)監督作『輝かしき灰』(2022)と、インドネシアのマクバル・ムバラク監督作『自叙伝』(2022)である。

映画『輝かしき灰』の予告

『輝かしき灰』は、ナント3大陸映画祭でグランプリに相当する“金の気球賞”を受賞した。歴代の金の気球賞受賞作には、濱口竜介監督作『偶然と想像』、ホン・サンス監督作『自由が丘で』、ワン・ビン監督作『三姉妹〜雲南の子』、ジャ・ジャンクー監督作『一瞬の夢』『プラットホーム』。是枝裕和監督作『ワンダフルライフ』などがあり、次回作はさらに知名度がある国際映画祭での飛躍が期待される。

『自叙伝』は、第23回「東京フィルメックス」のコンペティションで、最優秀作品賞を受賞後、「シンガポール国際映画祭」でグランプリに相当する、Singapore Silver Screen Awardをインドネシアの「ジョグジャ・ネットパック・アジア映画祭」でも、グランプリに相当するGolden Hanoman Awardを受賞した。
『自叙伝』のあらすじは以下の通りである。東京フィルメックスのHPから引用する。

映画『自叙伝』の予告

「青年Rakibは地元の首長選挙に立候補を表明した家主の選挙キャンペーンを手伝うことになるが……。父親的存在からの承認を求める1人の青年を通じ、暴力と欺瞞に満ちたインドネシアの近過去を寓話的に描く。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映され、国際映画批評家連盟賞を受賞した」。

公式カタログによれば、ムバラク監督は少年期、1960年代半ばから30年以上続いた元インドネシア大統領スハルトによる軍事独裁体制下の重い空気の中で過ごし、その自らの経験から『自叙伝』の着想を得たそうだ。

立候補する家主は退役した「将軍」で、軍人出身のスハルトと重なる。そして主人公の青年Rakibは刑務所に入っている父親から「将軍」の選挙活動につきまとうトラブル解決という汚れ仕事を継承する。「将軍」と汚れ仕事を通して、主人公が社会の暗部に踏み込んでいく点は、ある種のノワール映画のような味わいもある。と同時に、圧倒的な父(あるいは父親的存在)をめぐる青年の物語は、中上健次の小説に通じる不穏さと緊張感が終始、持続している。初長編監督作品で、この不穏さと緊張感を演出できるのは、大した才能だと感嘆した。

しかし、12月に入り、BBCの「インドネシアが婚外交渉を犯罪化 外国人にも適用、最大で禁錮1年」という記事を読み、個人の才能はもちろんだが、やはり時代の空気もあるのかなと考え直した。

不穏な時代における「炭鉱のカナリア」

「シンガポール国際映画祭」コンペの審査員委員長は、「東京国際映画祭」で映画『波が去るとき』(2022)が上映された、ラヴ・ディアス監督である。バラエティ紙の記事によれば、彼は、シンガポールのハードロックカフェでムバラク監督にグランプリを授与する前に、「マザーファッカー・プーチン、マザーファッカー・習近平、マザーファッカー・ドナルド・トランプ。にもかかわらず、私たちは今夜、映画を祝います」と述べたそうだ。

少し脱線するが、ラヴ・ディアスは2013年に、独裁者マルコスの故郷を舞台に、ドストエフスキーの小説『罪と罰』を翻案して、マルコスの人物像を掘り下げた傑作『北(ノルテ)―歴史の終わり』を監督している。そして、この『北(ノルテ)』と『自叙伝』は、不穏さと緊張感において、似ている。

映画『北(ノルテ)』の予告

『北(ノルテ』には、現在のマルコス・ジョニア大統領誕生を予感させる“不穏さ”がつきまとっている。『北(ノルテ)』と『自叙伝』における、不穏さと緊張感は、アメリカの作家カート・ヴォネガットの「坑内カナリア理論」で提唱された芸術家の役割、「芸術とは社会全体の表現にほかならないもので、社会が危険な状態になった時、芸術家は率先して炭鉱のカナリアのように声を上げるべきである」に由来していて、ラヴ・ディアス監督は『自叙伝』における「炭鉱のカナリア」としての側面も評価した。

また、今回の東京フィルメックスのコンペティション審査員長は、クロージング作品『すべては大丈夫』(2022)のリティ・パン監督だった。この『すべては大丈夫』も動物が人間を奴隷として支配するディストピアを通して、専制政治に警鐘を鳴らす「炭鉱のカナリア」映画だ。フィルメックス審査員達による『自叙伝』の受賞理由が以下の通りである。

「授賞理由:見事な演出による自信に満ちた映画スタイルで、モラルコントロールの巨大な網に対する個人の抵抗の探求は、次第に権力構造が不穏な邪悪さへと変化する様子を描いている。このテーマは緊急かつ普遍的である」。

つまり、『自叙伝』は「炭鉱のカナリア」映画の先達2人から評価されたのだ。

映画『すべては大丈夫』(2022)の予告

タイの「炭鉱のカナリア」映画2本

ソラヨス・プラパパン監督作『アーノルドは模範生』(2022)も、タイの現政権への痛烈な批判と皮肉を秘めたブラックコメデで「炭鉱のカナリア」映画だった。「シンガポール国際映画祭」では審査員特別賞を、ワルシャワで毎年開催される「Five Flavours Asian Film Festival」ではグランプリを受賞した。
あらすじは以下の通りで、東京フィルメックスのHPから引用する。

映画『アーノルドは模範生』(2022)の予告

「数学オリンピックでメダルを獲得したアーノルド。だがある日、彼は大学入試で学生のカンニングを助ける地下ビジネスに加担してしまう。ソラヨス・プラパパンの長編デビュー作」。

「ばかと天才は紙一重」というが、個人的には、チョン・ドゥファン軍事独裁政権時代を代表する韓国映画の傑作の1つ、イ・チャンホ監督作『馬鹿宣言』(1983)を思い出した。『馬鹿宣言』だと、冒頭、児童画が挿入されていたが、『アーノルドは模範生』では、たびたび「不良学生」グループによる、タイの児童達に自分達の権利や自由を学ぶ助けになるように作った本「学生サバイバルガイド」が挿入されている。つまり、『アーノルドは模範生』も『馬鹿宣言』も、事実上の軍事政権下(タイの現政権は軍政の流れをくむ)でトリックスターによって作られた、痛烈なブラックコメディという点で共通している。

また、福岡「Asian Film Joint 2022 場に宿るもの」で上映された、アナンタ・ティタナット監督のドキュメンタリー映画『スカラ座』(2022)も、タイの現政権への批判を秘めていた。『スカラ座』は、「バンコクで50年以上営業を続けた老舗の映画館・スカラ座が、2020年に取り壊されるまでを記録」したドキュメンタリーだが、終盤、バンコクの老舗映画館のサイアム劇場は、クーデターによって2010年に焼失した事件への言及から、現政権への批判を観客に穏便な形で提示する。『アーノルドは模範生』も『スカラ座』もタイ国内で上映可能なのか、気になるところだ。

映画『スカラ座』(2022)の予告

躍進する「Purin Pictures」助成作品

これら『自叙伝』『アーノルドは模範生』、そして前回のVol.15で取り上げた第23回「東京フィルメックス」特別招待作品で、カミラ・アンディ二監督作品『ナナ(Before, Now and Then)』を合わせた3本には共通点がある。

それは3本すべてが1年前、本連載Vol.11「アジアの女性監督考」で言及し、「Purin Picturesが助成したインディペンデント映画にハズレなし」と太鼓判を押した、「アノーチャ監督とプム監督に、彼女達が運営する、東南アジア圏のインディペンデント映画に特化した製作・活動支援を行う民間映画基金Purin Pictures」の助成作品である点が共通している。

また、先の「ジョグジャ・ネットパック・アジア映画祭2022」の受賞作で、グランプリが『自叙伝』 、準グランプリがSilver Hanoman AwardがPurin Picturesの助成作にして日本未公開作の、フィリピン映画でマルティカ・ラミレス・エスコバル監督作『Leonor Will Never Die』(2022)が受賞している。この『Leonor Will Never Die』は大阪アジアン映画祭で上映されることを期待している。

映画『Leonor Will Never Die』(2022)の予告

「Purin Pictures」の助成基準に、本連載Vol.2で取り上げた「福岡で特集上映される、タイの奇才アノーチャ監督 その過激で優美な迷宮映画の世界」と共通して、「社会が危険な状態になった時、芸術家は率先して炭鉱のカナリアのように声を上げる」ことが含まれている可能性が高い。そして、現在の国際映画祭では、「炭鉱のカナリア」映画が高く評価される傾向にある。

例えば、「カンヌ国際映画祭」の最高賞(パルム・ドール)受賞作、韓国のポン・ジュノ監督作『パラサイト 半地下の家族』(2019)と日本の是枝裕和監督作『万引き家族』(2018)もまさに「炭鉱のカナリア」映画だろう。

「炭鉱のカナリア」のリスクと、国際共同製作の多国化

ただし、検閲制度下での映画作りにおいて、「炭鉱のカナリア」映画は上映禁止、製作禁止のリスクを伴う。そこで、増加しているのは、「炭鉱のカナリア」映画においては、国際共同製作の多国化である。

例えば、『自叙伝』は、インドネシア、フランス、シンガポール、ポーランド、フィリピン、ドイツ、カタール との共同製作だ。複数の国々との共同製作であれば、もし母国で禁止になったとしても、他の共同製作国で、製作継続、上映&公開の可能性も見いだせる。

つまり、国際共同製作の多国化は「炭鉱のカナリア」映画のリスクヘッジと言えよう。そして、世界各国の政府が不穏になればなるほど、Purin Picturesは東南アジアの「炭鉱のカナリア」映画人達を助成する組織として、ますます重要さと知名度が増している。

少し前の記事に、「世界人口の71%が『独裁に分類される国に住む』という衝撃」があったが、世界で権威主義的な国家が増加すればするほど、炭鉱のカナリアである映画人達のリスクも高まる。例えば、東京フィルメックスのオープニング作品『ノー・ベアーズ(英題)』(2022)のジャファル・パナヒ監督は「イラン、映画監督パナヒ氏を収監 12年前の禁錮刑で」(2022年7月の記事)収監されている。

しかし、9月中旬以降、抗議デモが続くイランでは今後の映画を予想するのは難しいが、「東京国際映画祭」コンペティション部門審査委員特別賞のホウマン・セイエディ監督作『第三次世界大戦』(2022)、アジアの未来作品賞のモハッマドレザ・ワタンデュースト監督『蝶の命は一日限り』(2022)の映画からは、静かな怒りと熱気、そして、「炭鉱のカナリア」の作り手である、不屈の覚悟を感じた。

映画『第三次世界大戦』(2022)の予告

東京グランプリ/東京都知事賞を受賞したスペイン・フランスによる共同製作作品『ザ・ビースト』(2022)も、不穏さと緊張感が半端なかったが、『第三次世界大戦』はタイトルからして、不穏を通り越してもはや不吉だった。今回の「東京国際映画祭」「フィルメックス」(審査員特別賞チョン・ジュリ監督作『Next Sohee』を含めて)ともに、不穏さと緊張感が今年のキーワードかもしれない。

『Next Sohee』(2022) 予告編

「炭鉱のカナリア」としての国際映画祭

最後に、「東京フィルメックス」審査員特別賞受賞作を受賞した、ドイツ、フランス、ベルギー、カタールによる映画『ソウルに帰る(Return to Seoul)』(2022)は、韓国映画なのか、フランス映画なのか、カンボジア映画なのかと、1つの国に閉じ込めることを拒否し、国際共同製作多国化を象徴する“新しい地平の映画”だった。

1980年の光州事件を取り上げた、チャン・ソヌ監督作『つぼみ(原題:花びら)』(1996)のタイトルの由来でもある、キム・チュジャの歌「つぼみ(花びら)」(1971)が使用されていた。多国籍の新しい映画ながら、過去の韓国映画や文化が継承されていてシビれた。こういうさまざまな映画に出会える場、世界に開かれた国際映画祭はこれからの不穏な時代にこそ、貴重だと思えた瞬間だった。

映画『ソウルに帰る(Return to Seoul)』(2022)の予告

今回、国際映画祭もまた「炭鉱のカナリア」だという思いを強くした。なぜなら、Vol.2で取り上げた「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」も、2021年3月31日をもって終了してしまったし、今年の「東京フィルメックス」は例年通りの日数で開催するためにクラウドファンディングを実施した。そして、今回取り上げた「ジョグジャ・ネットパック・アジア映画祭」も、大統領を侮辱、国家イデオロギーを批判することが違法となる刑法改正案が国会で可決したので、3年後に施行された暁には、この映画祭が「炭鉱のカナリア」映画を集めた、今の形のまま継続できるのか疑問だからだ。

いつまでもあると思うな、「炭鉱のカナリア」映画、国際映画祭。 不穏さが立ち込めるアジアの今こそ、「炭鉱のカナリア」映画、そして国際映画祭のありがたみをかみしめる時期なのだろうと思う。

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“スタイリッシュな実験家”ウォン・カーウァイ監督の子ども達、そして先駆者達 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.15 https://tokion.jp/2022/10/15/a-film-trip-around-asia-vol15/ Sat, 15 Oct 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=149464 タイ、韓国、フィリピンをはじめとするアジア映画の隆盛とその作品や周辺文化を取り上げ、日本とアジアを比較する考察を織り交ぜながら、紹介する連載コラム。

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“スタイリッシュな実験家”ウォン・カーウァイ監督の子ども達、そして先駆者達 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.15
“スタイリッシュな実験家”ウォン・カーウァイ監督の子ども達、そして先駆者達 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.15

『WKW4K ウォン・カーウァイ4K 5作品』が好評で、日本全国の劇場で公開中だ。ウォン・カーウァイ監督は現代アジア映画の巨匠であり、現在、活躍中の映画監督達に与えた影響も大きい。今回はそんなウォン・カーウァイ監督の影響を受けた監督達による、「ウォン・カーウァイ以後」のアジア映画にフォーカスする。

『WKW4K ウォン・カーウァイ4K 5作品』予告編

世界の映画に影響を与えた偉人の1人、ウォン・カーウァイ

第89回「アカデミー賞」最優秀作品賞『ムーンライト』(2016)のバリー・ジェンキンス監督が、ウォン・カーウァイ作品に対する愛について、熱く語った動画「影響下:ウォン・カーウァイのバリー・ジェンキンス」を、ウォン・カーウァイ監督の7作品を収めたBOXセット『WORLD OF WONG KAR WAI』を販売しているクライテリオン社が公開している。

「影響下:ウォン・カーウァイのバリー・ジェンキンス」

香港は、世界の映画に影響を与えた偉人を多く生み出した“映画の都”なのだが、その中でも、大きな影響を与えた偉人はやはり、アクション映画を根底から革新したブルース・リーで、その次がウォン・カーウァイ監督ではないだろうか。

ブルース・リーが世界のアクション映画をブルース・リー以前・以後と革新したように、ウォン・カーウァイも恋愛と官能の映画史に、ウォン・カーウァイ以前・以後の変革をもたらした。その成果の1つが、この映画『ムーンライト』であろう。

そこで、今回は『ムーンライト』と並ぶ、「ウォン・カーウァイ以後」のアジア映画と監督達を取り上げることで、スタイリッシュな実験家ウォン・カーウァイ作品の影響を考察しつつ、その作品の魅力も浮かび上がらせてみたい。

ウォン・カーウァイ監督プロデュース作品の難しさ

本題に入る前に、まずウォン・カーウァイ監督プロデュース作品に言及しておきたい。

近年のプロデュース作品としては、ペマ・ツェテン監督作品『轢き殺された羊』(2018)とバズ・プーンピリヤ(ナタウット・プーンピリヤ)監督作品『プアン/友だちと呼ばせて』(2021)がある。特に『プアン/友だちと呼ばせて』は、この夏に日本でも劇場公開され、映画『女神の継承』と一緒に、本連載でも取り上げようかと考えていたのだが、個人的には『女神の継承』、バス監督の前作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)ほどハマらず、結局、取り上げなかった。

『プアン』には、ウォン・カーウァイの長編監督デビュー作品『いますぐ抱きしめたい』(1988)から長編第2作『欲望の翼』(1990)のような想定外の大化けを期待していたのだが、ふたを開けてみれば、ウォン・カーウァイ作品でもピンと来なかった『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(2007)のようだった。カーウァイ監督とバズ監督のコラボに、期待し過ぎたのかもしれない。『轢き殺された羊』にしても、日本で劇場公開された『羊飼いと風船』(2019)のほうが個人的には心に染みたので、ウォン・カーウァイのプロデュース作品だからといって、うまくいくとは限らず、むしろプロデューサーの我の強さが、監督の持ち味を妨げる可能性もありえる。これも映画作りの難しさではないだろうか。

ちなみに、前回取り上げた、韓国のナ・ホンジン監督が原案・プロデューサーである『女神の継承』は、先日発表されたタイでもっとも権威のある映画賞で、タイ版アカデミー賞ともいわれる「スパンナホン賞」第30回で、13冠を獲得した。そして『バッド・ジーニアス』も、かつて第27回「スパンナホン賞」で12冠を獲得している。そう考えると、ナ・ホンジン監督のほうがプロデューサーに向いているのかもしれない。

中国の超新星ビー・ガン監督作品『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』

ビー・ガン監督 『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』(2018)予告編

「ウォン・カーウァイ以後」を感じさせるアジア映画として、最初に思い浮かぶ作品は、中国のビー・ガン監督による『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』(2018)だ。バス監督にも期待した、『欲望の翼』のような想定外の大化けを、ビー・ガンは『凱里ブルース』(2015)から長編第2作『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』で見事に成し遂げた。ビー・ガンは、1989年生まれなので、1958年生まれのウォン・カーウァイが『欲望の翼』を完成させた年齢よりも少し若い30歳前に、『ロングデイズ・ジャーニー』を完成させている。また、ビー・ガンとほぼ同世代である、本連載vol.8で取り上げた、「ベトナムのインディペンデント映画黄金世代、1990年世代」の多くが、長編監督デビュー作の成功後、現在、長編第2作の製作途中であることを考慮しても、その早熟さに恐れ入る。彼が世界の若手監督のトップランナーの1人であることは疑うまでもない。

『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』のオフィシャルサイトに掲載された、あらすじは以下の通り。

「それは夢なのか、現実なのか──形のない記憶という名の愛の残像を道標に、忘れがたい女の面影を追う男。彼がたどり着いた場所とは……。父親の死を機に、12年ぶりに故郷へ帰ってきた男。彼はその地で、若くしてマフィアに殺害された幼馴染みや、自分を捨てて養蜂家の男と駆け落ちした母親の記憶のかけらを拾い集めるように、想い出の街を彷徨っていた」。

情報を補足すると、12年ぶりの故郷とは、監督の故郷でもある中国南部の町、貴州省凱里。長編デビュー作『凱里ブルース』の舞台でもある。つまり、彼は故郷の街を継続して、舞台にしている。そして、この作品で、忘れがたい女、ファム・ファタールを演じるのはアン・リー監督作品『ラスト、コーション』(2007)で映画デビューし、トニー・レオンと共演した俳優、タン・ウェイである。

ウォン・カーウァイの香港映画は、香港の「街角」と「忘れがたい女」を巡る映画だったが、『ロングデイズ・ジャーニー』も凱里と架空の街「ダンマイ」の「街角」と「忘れがたい女」を巡る映画で共通している。ウォン・カーウァイ作品のユニークな点は、先鋭的なアートフィルムでありつつ、きら星のごとく輝くスター映画の側面も兼ね備えている点にある。アートフィルムとスター映画の幸せな融合、その相乗効果により、香港の街角と、マギー・チャン、レスリー・チャン、そして、トニー・レオンなどといったスターの永遠不滅の姿をフィルムに封じ込めて、観客の記憶にも鮮烈に刻み込む。すなわち、ウォン・カーウァイ作品、そして、その影響を受けた「カーウァイ以後」の作品とは、アートフィルムとスター映画の双方向からスタイリッシュさを極めることの相乗効果で、「街角」と「スター」の一瞬の輝きをフィルムと観客の記憶に刻み込む作品であると言えるだろう。

そして、ウォン・カーウァイ作品同様に『ロングデイズ・ジャーニー』は、凱里と架空の街「ダンマイ」の街角、そして、タン・ウェイの姿を観客に刻み込んでくる。『欲望の翼』のシーンが有名だが、ウォン・カーウァイ作品には時計がよく出てくる。時計は「忘れない」一瞬、刹那と関連していて、この時計は『ロングデイズ・ジャーニー』にも継承されている。『ロングデイズ・ジャーニー』の原題である『地球最后的夜晩』も、時間を意識したタイトルだ。また『ロングデイズ・ジャーニー』には、ウォン・カーウァイ作品の照明監督ウォン・チーミンも参加していて、室内や夜のシーンで存分に腕を振るっている。

ビー・ガン監督が鬼才と呼ばれる所以は、架空の街「ダンマイ」の「街角」を観客の記憶に鮮烈に刻み込むために、「後半60分間 驚異の3D・ワンシークエンスショット」を大胆に導入した点にある。『花様年華』は人の後ろ姿が、観客に表情が見えない故に、逆に美しい映画だが、『ロングデイズ・ジャーニー』も後半、ワンシークエンスショットで、主人公の後ろ姿、そして「忘れがたい女」とゲーム機の前で再会した時、後ろ姿である湯唯の顔が見えるまでの数分間のサスペンスを生み出す。『ロングデイズ・ジャーニー』はあえて、『花様年華』に影響を受けた監督がやりがちな、テーマ曲にスローモーションの映像を重ねる、ウォン・カーウァイ監督の代名詞とも言える技法を禁じて、ワンシークエンスショットを導入することで、先行きの不透明さ、宙吊りのサスペンス、そして、夢幻のような「ダンマイ」の浮遊感を創り出す実験に挑戦している。

この『ロングデイズ・ジャーニー』は、タン・ウェイを銀幕デビュー作『ラスト、コーション』の新人俳優からスターへと脱皮させるきっかけを生み出した。実際、タン・ウェイは、第75回「カンヌ国際映画祭」監督賞受賞作にして、韓国のパク・チャヌク監督の新作『別れる決心』(2022)においても、ファム・ファタールを演じていて、アジア映画で「忘れがたい女」を演じるスターは現在、マギー・チャンからタン・ウェイに継承されたと言ってもいいだろう。

パク・チャヌク監督『別れる決心』(2022)予告編

ちなみに、最近、ビー・ガン監督の短編作品『金剛経』(2012)、『秘密金魚』(2016)は、イメージフォーラム・フェスティバル2022の「G5 目覚ましきデビュー作1」にて、そして、新作短編『壊れた太陽の心』(2022)は「E 東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション5」にて上映されている。『壊れた太陽の心』はリアリーライクフィルムズが配給予定だ。

ビー・ガン監督『壊れた太陽の心』(2022)予告編

『ロングデイズ・ジャーニー』と同年に創られた、ベトナム レオン・レ監督『ソン・ランの響き』

次に「ウォン・カーウァイ以後」のアジア映画で浮かぶ作品は、ベトナム・サイゴンが舞台になったレオン・レ監督作品『ソン・ランの響き』(2018)だ。『ムーンライト』から2年後、2018年はウォン・カーウァイ以後にとって当たり年だったと言えるかもしれない。

レオン・レ監督『ソン・ランの響き』(2018)予告編

物語は以下の通りである。長いのでオフィシャルサイトから一部だけ、引用する。

1980年代、サイゴン(現・ホーチミン市)。ユン(リエン・ビン・ファット)は借金の取り立てを生業とし、返済が遅れた客には暴力もいとわず、周りから雷のユン兄貴と恐れられていた。ある日、ユンはカイルオンの劇場に借金の取り立てに行く。団長が『支払えない」と言うと、舞台衣装にガソリンをかけ燃やそうとするユン。止めに入る劇団の若きスターリン・フン(アイザック)。彼は自らの腕時計と金の鎖を差し出すが、ユンは受け取らず無言のまま立ち去る。翌日の夜、ユンはカイルオンの芝居を見る。演目は『ミー・チャウとチョン・トゥイー』。敵対する国の王子と王女が、婚姻の契を結ぶが、戦に巻き込まれ引き裂かれる悲恋物語だ。主役のチョン・トゥイーを演じるリン・フンの妖しい美貌と歌声に魅せられるユン」。

補足すると、カイルオンとはベトナム南部の大衆歌舞劇の1つであり、いわばベトナム版のオペラである。『ソン・ランの響き』は、中国「第5世代」のチェン・カイコー監督、レスリー・チャン主演作品『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993)を、もしウォン・カーウァイ監督がサイゴンに置き換えて監督したらという「IF」を感じさせる、ベトナム映画のニュースタンダードだ。

『ソン・ランの響き』以前のサイゴンを舞台にした映画は大きく3つに分けられて、1つはトラン・アン・ユン監督作品『青いパパイヤの香り』(1993)での、パリ郊外のセットの中で再現された「人工楽園サイゴン」(1)。2つ目は、こちらもトラン・アン・ユン監督でトニー・レオン出演作『シクロ』(1996)での、性と暴力が強調された「ノワール都市サイゴン」(2)。3つ目は、ベトナムのコメディ映画で陽気な「下町サイゴン」(3)の3つになる。そこに3作品のそれぞれの顔を持ちつつ、美しく、はかない街角を持つ「サイゴン」を新たに観客に展示したのが『ソン・ランの響き』だった。

この状況は、ウォン・カーウァイ監督デビュー以前の香港映画と似ているのかもしれない。ウォン・カーウァイ監督の長編デビュー作品『いますぐ抱きしめたい』は、『青いパパイヤの香り』の「ノワール都市」香港から抜けきれておらず、ウォン・カーウァイ作品において、(1)〜(3)のそれぞれの顔を持ちつつ、美しくはかない街角を持つ「香港」を展示できたのは『欲望の翼』以降だと考える。

『ソン・ランの響き』は、ウォン・カーウァイ監督作品の中でも特に『欲望の翼』の影響が強い。先ほどウォン・カーウァイ監督による香港映画は、香港の「街角」と「忘れがたい女」を巡る映画だと書いたが、『欲望の翼』のレスリー・チャン演じるヨディにとって、「忘れがたい女」とは実の母親で、後半、ヨディは彼女に会いにフィリピンに渡る。『ソン・ランの響き』の主人公ユンにとっても「忘れがたい女」は、子どもの時、自分と父を捨てた母親である。ただし、ユンの場合、のちに「運命の男」として、劇団の若きスターのリン・フンの存在がじょじょに大きくなっていく。『ソン・ランの響き』は、もし『欲望の翼』のレスリー・チャン演じるヨディが、『さらば、わが愛/覇王別姫』のレスリー・チャン演じる程蝶衣(小豆子)ともし出会ったらという実験、レスリー・チャンとレスリー・チャンの出会いともいえなくもない。小豆子も実の母親に捨てられた境遇だった。

『ソン・ランの響き』のYouTubeチャンネルには、「削除シーン」の動画が4本公開されていて、それらすべて、ユンの母親に関するシーンである。ここから、現行の『ソン・ランの響き』は母親のシーンはかなり削除されていることがわかるだろう。

削除理由として、ベトナムの国をも捨てて、国外に脱出した母親(おそらくボートピープル)を監督の意図通りに、ベトナムの検閲制度下で好意的に掘り下げて描くのは難しかったことが推測できる。レオン・レ監督は、ユンの母親への忘れがたさを演出するのに、ウォン・カーウァイ監督もやっていない技法を新たに実験した。

その技法とは、ユンのガールフレンド役に、ユンの母親を演じた俳優、キエウ・トリンの実の娘である俳優、タイン・トゥを配役したのだ。日本に置き換えるなら、母親を富司純子、ガールフレンドを寺島しのぶに配役したと言えばいいだろうか。つまり、ユンの母親とユンのガールフレンドの俳優2人は実の母娘なので、似ているわけで、ユンはガールフレンドにも、母親の影を追っていることが配役で明らかになる。

ウォン・カーウァイ作品の特徴として、アートフィルムとスター映画の幸せな融合と書いたが、『ソン・ランの響き』もスター映画の側面があり、特に新人俳優だったリエン・ビン・ファットをスターに押し上げた。そして彼は本連載vol.5で取り上げた、リム・カーワイ監督作品『COME & GO カム・アンド・ゴー』に出演を果たす。ちなみに、この作品もビー・ガン監督作品と同じく、リアリーライクフィルムズ配給だった。幸い『ソン・ランの響き』は、10月12日からAmazonプライム・ビデオで見放題配信が開始されるとのことだ。

「ウォン・カーウァイとアピチャッポン・ウィーラセタクンの出会い」

最後に日本未公開作品で、「衝撃的な政治ドラマにおける、ウォン・カーウァイとアピチャッポン・ウィーラセタクンの出会い」と『バラエティ』紙のレビューで評された作品を紹介したい。

本連載vol.11「アジアの女性監督考」にて、日本での劇場公開を期待したいと述べたのは、映画『ユニ』(2021)のカミラ・アンディニ監督の新作『Before, Now & Then’ (Nana)』(2022)だ。女性監督による、「ウォン・カーウァイ以後」の作品として新鮮だった。

この作品は、第23回「東京フィルメックス」(10月29日〜11月5日)特別招待作品部門で、『「ナナ」 Before, Now and Then』という邦題で、上映されることが決まった。
「東京フィルメックス」の解説から引用すると、
「1960年代のインドネシアで紛争に巻き込まれ、親族や家族を失ったナナが、思いがけない友情を通して自分自身を解放し、自由な人生を再び希求し始める姿を描くカミラ・アンディニの長編第4作。ベルリン映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映され、銀熊賞(最優秀助演賞)を受賞した」。

カミラ・アンディニ監督『Before, Now & Then’ (Nana)』(2022)予告編

詳しい解説は避けるが、ウォン・カーウァイ監督作品の中でも映画『花様年華』の影響が大きいと推測している。その根拠としては、第1に、女性主人公による、「忘れがたい男」の映画である点。第2に、「人の後ろ姿が、観客に表情が見えない故に、逆に美しい映画」である点。第3に、『花様年華』はトニー・レオンとマギー・チャンのお互いの部屋を中心に映画が進んでいったが、同様に『Before, Now & Then’ (Nana)』は、主人公が暮らす森の中の邸宅を中心に映画が進む点。そして『花様年華』が、1962年~1966年までの時代を扱っているが、『Before, Now & Then’ (Nana)』では途中、ラジオで1966年のインドネシアのスカルノ大統領からスハルト将軍への権限移譲が放送されるシーンが挿入されるので、同時代を扱った映画であることが判明する。もっとも、このシーンに関しては、『花様年華』よりも続編『2046』における1967年の香港六七暴動シーンの影響かもしれない。

「スタイリッシュな実験家」先達の2人、マヌエル・プイグとパトリック・タム

以上、「ウォン・カーウァイ以後」のアジア映画と監督達を取り上げて、ウォン・カーウァイ作品の影響について書いてきた。

ウォン・カーウァイ以後とは、自分なりに整理すると、(1)美しく、はかない街角の発見、(2)アートフィルムとスター映画の幸せな融合、(3)忘却に逆らうように、街やスターの一瞬の輝きを観客の記憶に刻み込む意志、そのための大胆な技法(実験)だろうか。この特徴を並べると、『欲望の翼』『ブエノスアイレス』にインスパイアをもたらした、「スタイリッシュな実験家」作家マヌエル・プイグの影響を感じる。この本は、映画監督ウォン・カーウァイが『ブエノスアイレス』を撮るきっかけを得た本としても興味深い。

ブエノスアイレスからイタリアへ留学、ローマの映画撮影所チネチッタで映画監督・脚本家を目指していた、シネフィル作家マヌエル・プイグからウォン・カーウァイへ、そして、今回、取り上げた映画人達に、「スタイリッシュな実験家」のミームが世界中を伝播していると考えると、「この世界も捨てたもんじゃない」と愉快な気持ちになる。

さらに、今回のコラムを締めくくるにあたり、ウォン・カーウァイ監督に影響を与えた、もう1人の「スタイリッシュな実験家」、先達についても触れて終わりにしたい。

その人の名はパトリック・タムで、彼が監督した映画『最後勝利』(1987)の脚本をウォン・カーウァイが執筆し、ウォン・カーウァイが監督、脚本を手掛けた『欲望の翼』の編集をパトリック・タムが担当していて、ウォン・カーウァイの師匠にあたる。パトリック・タムは香港が生んだ、もう1人の「スタイリッシュな実験家」、ジョニー・トー監督の傑作『エレクション』(2005)の編集も担当していて、2人の「スタイリッシュな実験家」をつなぐキーパーソンでもある。編集のみならずパトリック・タムは、監督としても香港新潮流が生んだ鬼才で、作品も古びず、新しい。むしろ、時代よりも早過ぎたのかもしれない。そんな鬼才の一端を知るきっかけとして、幸い、彼の新作短編『別れの夜』を含む、香港の巨匠7人が集結したオムニバス映画『七人樂隊』(2020)が10月7日から劇場公開が始まる。

『七人樂隊』(2020)予告編

願わくは、ウォン・カーウァイの次に、パトリック・タムのリバイバルのきっかけになることを期待している。

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コロナ禍での怪奇映画天国アジア:ファウンド・フッテージ・ホラーの夏編 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.14 https://tokion.jp/2022/08/21/a-film-trip-around-asia-vol14/ Sun, 21 Aug 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=140782 タイ、韓国、フィリピンをはじめとするアジア映画の隆盛とその作品や周辺文化を取り上げ、日本とアジアを比較する考察を織り交ぜながら、紹介する連載コラム。

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本連載で夏と言えば、納涼企画「コロナ禍での怪奇映画天国アジア」だ。ちょうど昨年、Vol.9で今後の注目作として挙げた2本、『哭悲/THE SADNESS』(2021)と『ランジョン(邦題:女神の継承)』(2021)が日本で劇場公開されたので、話題の『呪詛』(2022)も加えて、今回は、まがまがしいファウンド・フッテージ・ホラーに焦点をあてたい。

台湾ホラー映画のネクストステージへの到達を感じさせる『哭悲/THE SADNESS』とタイ・韓国合作のホラー映画『女神の継承』

この夏、台湾のホラー映画『哭悲/THE SADNESS』とタイ・韓国合作のホラー映画『女神の継承』が日本で劇場公開された。この2作は、本連載でたびたび参考にしているアジア映画のサイト「Asian Movie Pulse」が毎年発表している「アジアのホラー映画ベスト15(The 15 Best Asian Horror Films of 2021)」の2021年度の1位と2位にランクインしていた。

ここで改めて、第5位までを挙げると、
・第1位 ロブ・ジャバズ監督作品『哭悲/THE SADNESS』(台湾)
・第2位 バンジョン・ピサヤタナクーン監督作品『ランジョン(邦題:女神の継承)』(タイ・韓国)
・第3位 ティモ・ジャイアント監督作品『V/H/S 94』(インドネシア・アメリカ)
・第4位 リー・トンカム監督作品『あるメイドの秘密』(タイ)
※Netflixで配信中
・第5位 清水崇監督作品『犬鳴村』(日本)

である。

さらに、Vol.9では、映画『女神の継承』に触れて、
「タイトルの『ランジョン』とは、タイ語で“シャーマン”“巫女”を意味し、イサーン(=東北タイ)でシャーマニズムが脈々と受け継がれている巫女家系をめぐる映画だそうで、『南巫』と合わせて、アジアの怪奇映画における南方の“巫”ブームを予感させる」
とも述べた。この“巫”関連で、この夏、台湾からとんでもないホラー映画が世界に配信された。「台湾史上もっとも怖い映画といわれている『呪詛』が、7月8日からNetflixで独占配信」である。

個人的には、『哭悲/THE SADNESS』と『呪詛』をもって、台湾の怪奇映画がネクストステージに上がった気がした。韓国の怪奇映画が『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)と、『女神の継承』の原案・プロデューサーであるナ・ホンジン監督による『哭声 コクソン』(2016)をもって、ネクストステージに上がったのと同様に。

また、この『呪詛』と『女神の継承』は“巫”関連、神と呼ぶにはあまりにまがまがしい存在の何かがついてくるという共通点のみならず、ファウンド・フッテージ・ホラーにかかわりがある点でも共通している。

Netflixの『呪詛』の紹介では、
「『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『パラノーマル・アクティビティ』といったホラー映画ファン垂涎の映像が満載。ファウンド・フッテージの手法やカメラを通して登場人物がこちらに語りかけてくるシーンが次々と登場します」
と書かれていた。

ちなみに、第3位の『V/H/S 94』もファウンド・フッテージ・ホラー・アンソロジーで、特にティモ・ジャイアント監督の1篇もかなりイカレている(誉め言葉)。なので、今回は 台湾の『呪詛』とタイの『女神の継承』を中心に、憑依とファウンド・フッテージを軸に、コロナ禍での怪奇映画天国アジアの現在と今後について考えてみたい。

タイ・韓国合作のホラー映画『女神の継承』

映画『ランジョン(邦題:女神の継承)』の予告

まず、あらすじをオフィシャルサイトから引用する。
「タイ東北部の村で脈々と受け継がれてきた祈祷師一族 美しき後継者を襲う不可解な現象の数々……
小さな村で暮らす若く美しい女性ミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、まるで人格が変わったように凶暴な言動を繰り返す。途方に暮れた母親は、祈祷師である妹のニムに助けを求める。もしやミンは一族の新たな後継者として選ばれて憑依され、その影響でもがき苦しんでいるのではないか−。やがてニムはミンを救うために祈祷を行うが、彼女に取り憑いている何者かの正体は、ニムの想像をはるかに超えるほど強大な存在だった……」。

このあらすじだとわかりにくいのだが、『女神の継承』はタイのシャーマンを撮影しているドキュメンタリーのチームが、タイ東北部(イサーン)の女神、バヤンのシャーマンであるニムを取材し、映像の記録を残している体裁を取っている。つまり、『女神の継承』はフィクションをドキュメンタリーのように観客に観せるという演出の表現手法、モキュメンタリー(Mockumentary)である。そして、ファウンド・フッテージもモキュメンタリーの一種で、撮影者が行方不明になったり死亡したため、残された映像素材を第三者が発見し、観客に観せるという演出の表現手法だ。『女神の継承』においても、女神バヤンのシャーマンであるニム、その姪で憑依されたミンを撮影しているチームのメンバーにも、徐々に災いが降りかかることにより、ファウンド・フッテージ(撮影者が行方不明や死亡)にシフトしていく。ナ・ホンジン監督の『哭声 コクソン』とそのアナザーバージョン『女神の継承』との大きな違いは、このモキュメンタリー&ファウンド・フッテージの導入にある。

『女神の継承』における、モキュメンタリー&ファウンド・フッテージの導入は、ラストの映像、つまりネタバレに関わってくるので、書きづらいのだが、3つの大きな効果があると考える。

第1の効果は、憑依や呪いへのリアリティの増加で、実在したという設定の残された疑似ドキュメント映像をコツコツ積み重ねていくことで、憑依や呪いに対して半信半疑の観客も信が徐々に増していく。同時に、後半に起きる、怒涛の展開を観客が受け入れる土壌も創り上げていく。このリアリティの積み重ねがラストのどんでん返しにも効いている。

第2の効果は、憑依や儀礼に対する不安感(あるいは臨場感)の高揚で、疑似ドキュメント映像を通し、観客は撮影者で記録者である人物の視線を共有することで、次に何が起こるのか、わからない五里霧中の不安感(あるいは臨場感)は従来のホラー映画よりも、増している。特に、終盤のある儀礼シーンは、どこに連れて行かれるのか、わからない不安感(あるいは臨場感)が滅多に出会えない、強度を持っている。

そして第3の効果は、呪いや災いへの恐怖の伝播である。ホラー映画は構造上、映画が進むにつれて、登場人物たちが死亡、失踪などの理由から退場(減少)していくのだが、ファウンド・フッテージ・ホラーは、従来のホラー映画よりも、残された映像を介して、退場者の怨(退場に至るまでの恐怖)が観客に残る、あるいは伝播する。つまり、ファウンド・フッテージ・ホラーは、従来のホラー映画よりも、退場者をより観客に強烈に印象づける形式と言えるだろう。『女神の継承』のラスト映像、ある退場者による最後の告白は観客の記憶に怨として恐怖としてこびりつくはずだ。

やはり『女神の継承』に関しては、原案・プロデューサーのナ・ホンジン監督に目がいきがちなのだが、今回は監督・脚本を担当したバンジョン・ピサンタナクーンに注目したい。

彼はタイ映画史において、新しい映画形式の革新者として、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督と並ぶ、偉人と言っても過言ではない。そして、偶然にも、アピチャッポン監督のみならず、バンジョン監督も、今回、イサーンを映画の舞台に『女神の継承』を撮った。このイサーンにおける精霊(ピー)と呪術師に関して、今回は掘り下げないが、呪術専門家モータムに弟子入りし、呪的タトゥー(サックヤン)にも詳しい津村文彦先生の『東北タイにおける精霊と呪術師の人類学』(2015 めこん)が出版されている。興味がある方は読まれることをおススメする。

津村文彦 『東北タイにおける精霊と呪術師の人類学』(2015 めこん)

バンジョン監督が世界に知られた長編デビュー作『心霊写真』(2004)は、『リング』(1998)、『呪怨』(2003)、Jホラーの影響を受け、タイのホラー映画を革新した記念碑的作品だ。
連載vol.1から引用すると、
「第3作『あの店長』(2014)は、最も売れたタイ映画『愛しのゴースト』(2013)のバンジョン・ピサヤタナクーン監督をはじめ、タイのニューウェーヴを牽引した映画人達に影響を与えた、海賊版ビデオ店を振り返る、異色のドキュメンタリー。1990年代のバンコクにおいては、ミニシアターもなく、海外のアートフィルムを観るのは困難を極めた。国外のレアな映画に飢えていた、タイのシネフィル達の映画愛を満たしたのは、迷路のような市場に開店した海賊版ビデオ店だった。クエンティン・タランティーノ、ウォン・カーウァイ、岩井俊二、北野武、Jホラーなどの作品を海賊版で観て吸収し、1997年から始まるタイのニューウェーヴムーブメントを準備した」。

傑作映画『あの店長』に、バンジョン監督も出演し、海賊版ビデオ店経由で、後に映画『心霊写真』(2004)に昇華される、Jホラーを海賊版で観たという証言をしている。長編第2作の結合双生児ホラー映画『Alone』(2007)は、日本だと、アテネ・フランセ文化センター、四方田犬彦の連続講義「怪奇天国アジア」第1回「東南アジアは怪奇の花園」で『双生児』という邦題で上映されたきりかもしれない(もったいない)。

そして、タイで有名な怪談「メー・ナーク・プラカノン」にラブコメを導入した映画『愛しのゴースト』(2013)は、タイでもっとも売れた映画である。この『愛しのゴースト』を日本に置き換えるとすれば、映画『四谷怪談』のラブコメ版と言えばいいだろうか。すなわち、『心霊写真』『愛しのゴースト』そして、『女神の継承』と、バンジョン監督は、おおよそ9年周期で、タイの怪奇映画を革新しているバケモノ監督でもある。

しかも、彼は日本と韓国が好きで、韓国を舞台にしたラブコメ『アンニョン!君の名は』(2010)北海道ロケを行った恋愛映画『一日だけの恋人』(2016)も監督している。ちなみに、この『アンニョン!君の名は』と『一日だけの恋人』を日本で上映したのはバラエティとダイバーシティのフェス、「大阪アジアン映画祭」である。興味深いのは、彼はJホラーへのアンサーと呼べる『心霊写真』から、ナ・ホンジン監督と組んだ、タイ・韓国合作『女神の継承』へと、JホラーからKホラーへの流れは連載vol.6で、韓国怪奇映画の躍進を分析し、
「最近、東アジアを含めた怪奇映画天国アジアの勢力図も変わりつつある。
韓国の映画会社、特にCJ ENMは国外の市場開拓を進めると同時に、東南アジアで地元の映画会社との合作を進めることで、韓国製“圧縮されたホラー”の伝播にも努めている。この韓国とインドネシア合作の成果が、『Asian Movie Pulse』による『2020年アジアのホラー映画ベスト15』第4位の映画『Impetigore』である」。

と述べた予想を象徴しているように思える。

Vol.6を書いた当時は、韓国とインドネシア合作の映画の成果を紹介したにとどまったが、2021年は韓国とタイの合作『女神の継承』が成功を収めた。近い将来、韓国とベトナム、マレーシアあたりの合作ホラーが成功して、「アジアのホラー映画ベスト15」にランクインしてもおかしくはないだろう。

「アジアのホラー映画ベスト15」2022年度にランクイン間違いなしの台湾映画『呪詛』

映画『咒(邦題:呪詛)』の予告

台湾の『呪詛』(原題『咒』)のあらすじをNetflixのHPから引用する。
「かつてある宗教施設で禁忌を破り、呪いを受けたリー・ルオナン。そして6年後、あの時の呪いが今度は自分の娘に降りかかったと知り、必死で我が子を守ろうとするが」。

『呪詛』に関してもこのあらすじだとわかりにくいのだが、ファウンド・フッテージ・ホラーである。冒頭、主人公のリー・ルオナンは、画面前の観客に向け、「娘の呪いを解くために、みなさんの力を借りたくて、これを撮った。このまま観てくれるなら、万が一に備え、覚えるまでこの符号を見てほしい」を語りかけ、謎の符号が画面に映る。そして、「私と一緒に呪文を唱えてほしい」と、謎の手印と呪文も教えられる。つまり、この映像自体、彼女の娘の呪いを解く目的で制作された映像であるという設定が観客に冒頭から開示される。そして、彼女と娘の日常に呪いが侵食していく過程を記録した映像を軸に、彼女が禁忌を破り、呪いを受けるに至った6年前の映像が挿入される。

先に、『女神の継承』でのモキュメンタリー&ファウンド・フッテージ導入がもたらした、3つの大きな効果について書いたが、『呪詛』も、憑依や呪いへのリアリティの増加や憑依や儀礼に対する不安感(あるいは臨場感)の高揚をもちろん備えているが、呪いや災いへの“恐怖の伝播”が突出していている。これはネタバレに関わってくるので、書きづらいのだが、観客を巻き込む、まさに作品自体が「呪詛」の塊みたいなファウンド・フッテージ・ホラーである。例えるなら、Jホラーを代表する『リング』が南方を漂い、方々の呪いを吸収した後、ファウンド・フッテージの荒波に揉まれて、帰ってきたようなまがまがしさを持つ。

この“恐怖の伝播”というのは、コロナ禍で怪奇映画がもっとも突然変異をとげた特色なのかもしれない。特に、『哭悲/THE SADNESS』と『呪詛』における伝播の恐怖とリアリティは、台湾のコロナ禍以後を感じさせる。2003年SARS(重症急性呼吸器症候群)が香港の怪奇映画にもたらした変化と比較すると、おもしろい気がする。

『呪詛』のケビン・コー監督は、Netflixで配信中の作品『ハクション!』(2020)や『Dude’s Manual』(2018)で、恋愛映画監督の印象も強いが、小澤マリアも出演している長編デビュー作『絶命派対』(2009)もまがまがしい。拷問スラッシャーフィルムで、日本で公開もしくは配信が待たれるところだろう。

『女神の継承』のバンジョン監督にしても、怪奇映画の合間に、恋愛映画を撮っているので、革新的ホラー映画の監督は、恋愛映画も撮ることで観客の感情や心理を揺さぶる手腕を磨いているのかもしれない。台湾怪奇映画の突然変異と呼びたくなる『呪詛』と『哭悲/THE SADNESS』を連続して観ると、台湾が咒と哭に取り憑かれた闇の島に思えてくるから不思議だ。ちなみに、現在、「アジアの地獄と幽霊展」が南部・台南市の台南市美術館で10月16日まで開催中だ。ファーカス台湾の記事によれば、「『地獄と幽霊展』の初日には7000人近くが来場。大雨も客足途切れず/台湾」 「キョンシーや鬼滅、『地獄と幽霊展』に集結 夜のコスプレイベ(ント)/台湾」と、大盛況のようだ。

「アジアの地獄と幽霊展」

日本未公開作品である第3位『V/H/S 94』

映画『V/H/S 94』の予告

もう1本、第3位にランクインした『V/H/S 94』についても触れておきたい。監督のティモ・ジャイアントについては、vol.6で言及している。
引用すると、
「『2020年アジアのホラー映画ベスト15』で第1位にランクインした、『マカブル 永遠の血族』(2009)、『KILLERS キラーズ』(2014)のモーブラザーズの1人、キモ・スタンボエル監督の新作映画『The Queen of Black Magic』(2020)、第2位にランクインした、モーブラザーズのもう1人、ティモ・ジャイアント監督による映画『悪魔に呼ばれる前に』(2018)の続編『May the Devil Take You Too』 (2020)のいずれかが日本で上映、もしくは配信されるタイミングで、コロナ禍での怪奇映画天国アジア(インドネシア映画編)として書きたいと思う」。

この『V/H/S/94』は、ファウンド・フッテージ・ホラーアンソロジーシリーズ 『V/H/S』の最新作にあたり、ティモ監督は中盤、『The Subject』の脚本・監督を担当している。この『The Subject』の舞台は、1994年夏のインドネシア(ジャカルタと思われる)で、街からひとびとを誘拐して、秘密の実験場に連れ込み、その人間の体に機械や武器を融合する人体実験を繰り返している、爺マッドサイティストの実験記録映像が観客に提示されるというイカれたSF設定の約30分の短編である。もっとも、ティモ監督は、『V/H/S』シリーズ第2作の『V/H/S ネクストレベル』(2013)で、『ザ・レイド』(2011)のギャレス・エヴァンス監督の共同監督作『SAFE HAVEN』で、ファウンド・フッテージ・ホラーの頂点を一度極めている。

この傑作『SAFE HAVEN』は、4人組の若者達がカルト教団に潜入取材して、ベールに包まれた謎の活動をドキュメンタリーとして撮影しようするのだが……といったあらすじで、改めて今、観直すと、シャーマンを取材し、ドキュメンタリーを制作する『女神の継承』といい、友人達と宗教施設の禁忌を暴き、撮影しようとして、呪いを受けてしまう『呪詛』といい、宗教の秘密、禁忌に迫り、撮影しようとした罰当たりの挑戦者達に、災いが訪れるというプロットが共通していて、この『SAFE HAVEN』は、アジアのファウンド・フッテージ・ホラーに与えた影響は少なからずあるのではと想像している。『V/H/S ネクストレベル』は有料だが、アマゾンプライムで日本語字幕で観ることができる。2021年度第3位『V/H/S 94』、2020年度第2位『May the Devil Take You Too』など、ティモ・ジャイアント監督のホラー映画が日本未公開なのも惜しい。

コロナ禍での怪奇映画天国アジアの今後

最後に、これからの展望について書くと、「バラエティ」紙の記事「アマゾン、東南アジアで『プライム・ビデオ』の現地語版を開始」によれば、新生したタイとインドネシアのアマゾン「プライム・ビデオ」でいくつかのオリジナル作品開発を開始する。そのラインアップの中に、『女神の継承』のバンジョン監督の脚本シリーズ『Metal Casket』や、ティモ監督と並ぶ、インドネシア怪奇映画の雄で、新作『悪魔の奴隷2』の劇場公開も始まった、ジョコ・アンワル監督による長編『Seige At Thorn High』なども含まれている。

映画『悪魔の奴隷2』の予告

おそらく、東南アジアにおいてもコロナ禍で、在宅時間も増え、動画配信サービス需要が高まっていることにより、サービスが開始されたことが推測される。残念ながら、今のところ、日本のアマゾン「プライム・ビデオ」での配信予定はなさそうなのだが、このコロナ禍でも、ますます怪奇映画の新作は作り続けられそうである。

もっとも、これまで「コロナ禍での怪奇映画天国アジア」を定期的に書いてきて、少し気になる点もある。やはり、怪奇映画は他のジャンルと比較して、女性監督の作品が圧倒的に少ない。そして、四方田犬彦が『怪奇映画天国アジア』(白水社)で、問うた「なぜ幽霊は女性であり、弱者であり、犠牲者なのか?」に挑戦する、例えば、アリア・スター(男性だが)監督『ミッドサマー』(2019)のような、男性が犠牲者となる怪奇映画もアジアから出てきてほしい。すでに変化の兆しは出てきている。例えば、7月に韓国で開催された「富川国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)」に関連する「スクリーンデイリー」の記事「韓国のBIFANは、いかにして『奇妙なまま』でありながら拡大していくのか」で、主催者達が今年の注目トレンドの1つがジャンル映画を創る女性映画人の台頭と指摘していたし、別の記事「アジアの女性ジャンルフィルムメーカーたちが語る 『常に自分を証明しなければならない理由』」でも、その注目されている女性ジャンルフィルムメーカー達へのインタビューが読むことができる。われわれに新たな怪奇映画、とっておきの悪夢を見せてくれることを期待している。

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バラエティとダイバーシティのフェス、大阪アジアン映画祭の魅力 第2幕 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.13 https://tokion.jp/2022/05/16/a-film-trip-around-asia-vol13/ Mon, 16 May 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=115676 タイ、韓国、フィリピンをはじめとするアジア映画の隆盛とその作品や周辺文化を取り上げ、日本とアジアを比較する考察を織り交ぜながら、紹介する連載コラム。

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「大阪アジアン映画祭」は、この連載にとって指針であり“恩人”と言っても過言ではない映画祭である。Vol.7では、まるまる1回分紹介した。今回は、今年の「第17回大阪アジアン映画祭」を観て、グッときた作品についてあれこれ、書いてみたい。

バラエティとダイバーシティの方向性をさらに推進する映画祭

まず、2022年第17回の総評をするなら、「バラエティとダイバーシティのフェス」の方向性をさらに推進した映画祭だった。Vol.11「アジアの女性監督考」の最後では、
「『大阪アジアン映画祭』には、昨年話題を集めた韓国映画『はちどり』のように、アジアの女性映画人達、そして女性達の絆を描くシスターフッド映画を積極的に紹介しようとする、暉峻創三プログラミング・ディレクターの意志を感じる」と述べたが、「言うは易く行うは難し」を痛感した。今のほうが、「大阪アジアン映画祭」への尊敬の念は強くなっている」。
と述べた。特に今回は、前回より女性に焦点が当てられていた。第16回で映画『いとみち』がグランプリ・観客賞のW受賞を果たした横浜聡子監督の特集が組まれ、コンペティション部門の審査員3名すべてを女性が務めグランプリ(最優秀作品賞)は、韓国のホン・ソンウン監督の映画『おひとりさま族』(2021)が受賞した。

ホン・ソンウン監督作品『おひとりさま族』(2021)

ここで近年のグランプリ受賞作を書き出してみる。

・2019年 第14回 イ・オクソプ監督作品『なまず』(韓国、女性)
・2020年 第15回 ナワポン・タムロンラタナリット監督作品『ハッピー・オールド・イヤー』(タイ、男性)
・2021年 第16回 横浜聡子監督作品『いとみち』(日本、女性)
・2022年 第17回 ホン・ソンウン監督作品『おひとりさま族』(韓国、女性)

受賞監督4名のうち、3名が女性だった。例えば、過去45回のうち、最優秀作品賞で、女性監督の作品がたった一度も受賞したことがない「日本アカデミー賞」と比較すると、その違いは一目瞭然だろう。ちなみに、ナワポン監督は男性だが、『ハッピー・オールド・イヤー』は女性が主人公の映画なので、この4年間、グランプリ受賞作はすべて女性が主人公の映画なのである。

また、コンペティション部門の15作品のうち、共同監督作『はじめて好きになった人』(2021)が含まれるので、監督が16名いるわけだが、16名のうち6名が女性監督だった。監督が男性であっても、今回のコンペは女性が主人公の作品も多かった。

モハメド・ディアブ監督作品『アミラ』(2021)はパレスティナの女子高生、リョン・ロクマン監督作品『アニタ』(2021)はアニタ・ムイ、チャン・タンユエン監督作品『徘徊年代』(2021)はベトナムから台湾へやってきた「新移民」の女性2人、パク・イウン監督作品『ブルドーザー少女』(2021)は父の事故の真相を探る韓国の少女、ジャンチブドルジ・センゲドルジ監督作品『セールス・ガール』はアダルトグッズショップで代理アルバイトをするモンゴルの女子大学生が主人公だった。

男性主人公の劇映画も、ジョン・ロブレス・ラナ監督作品『ビッグ・ナイト』(2021)ではゲイというよりもバクラの美容師、映画『世界は僕らに気づかない』ではフィリピン出身の母を持つゲイの男子高校生、モストファ・サルワル・ファルキ監督作品『ノー・ランズ・マン』(2021)ではパキスタンからニューヨークへ移り住んだ男性など、マージナル(=境界)な存在に焦点を当てていた。また、今回「来るべき才能賞」を受賞した映画『世界は僕らに気づかない』(2022)の飯塚花笑監督はトランスジェンダーである。

飯塚花笑監督作品『世界は僕らに気づかない』(2022)

“雑”を愛でる「大阪アジアン映画祭」

加えて、「大阪アジアン映画祭」のユニークさは、ダイバーシティに富んだ映画とバラエティに富んだ娯楽映画が混ざり合っているプログラム、すなわち、“雑(いろいろなものが入りまじっていること)”を愛でる方針であることはVol.7で指摘したが、今回もそうだった。

例えば、私がカタログ解説を書いた、ベトナム映画作品『椿三姉妹』(2021)はめったに映画祭で選ばれない「シリーズもの」の娯楽映画実質第4作目である。ちなみに、シリーズの前作にあたるパート1から3までが日本未公開。日本未公開シリーズものの4作目を上映する、アジア関連の映画祭は「大阪アジアン映画祭」をおいて他にないだろう。「大阪アジアン映画祭」は、コンペ部門でもこの雑を愛でる、雑愛方針が生きていて、アートフィルムだけではなく、娯楽映画も好んで選んでいる。それは、フィリピンの映画『ビッグ・ナイト』、中国の映画『宇宙探索編集部』(2021)、そしてモンゴルの映画『セールス・ガール』が、すべてコメディ映画なのである。「大阪アジアン映画祭」の雑愛プログラムは、1日5本観たとしても、上映作に体感5分の娯楽映画が混ざっているので、楽しくて長時間観ていてもあまり疲れず、ありがたいのだ。

「大阪アジアン映画祭」で注目したい映画『アニタ』

そして、今回もっとも注目された作品は、コンペティション部門スペシャル・メンションと観客賞を受賞した映画『アニタ』で、笑いと涙の歌謡伝記作品だ。幸い、この『アニタ』のディレクターズカット版が全5話のドラマシリーズとして、ディズニープラスで独占配信されている。「大阪アジアン映画祭」で上映されたバージョンの137分に対し、このディレクターズカット版は、1話約45分で全5話なのでおおよそ225分、上映版の80分以上長いバージョンとなる。ここでの紹介を読み続けるより、すぐ鑑賞されたほうがいいと断言できるくらい、素晴らしい歌謡伝記映画で、香港映画がこれまで積み上げてきた娯楽映画の心髄を体感できるはずだ。『アニタ』のような歌謡伝記映画は、ハリウッド映画の十八番で、現在、マドンナの伝記映画の制作も進行中だそうだが、果たして日本で『アニタ』のような歌謡伝記映画をアニメではなく、実写で創ることは可能だろうかと考えると、日本映画界の現状と実力が見えてくる気がする。

リョン・ロクマン監督作品『アニタ』(2021)

余談だが、ディズニープラスはスターの伝記ものに力を入れているようで、香港の「明星」、いや世界のスターである、ブルース・リーの伝記ドキュメンタリー作品『水になれ』(2020)も配信中だ。監督は、越僑のバオ・グエンで、Vol.8で取り上げたベトナム映画『走れロム』のプロデューサーの1人である。バオ・グエンを介して、ベトナム映画と香港映画が交差するのは興味深いところだ。

移民に関する劇映画にもフォーカス

移民に関する劇映画も、「大阪アジアン映画祭」はこれまで積極的に上映してきた。例えば、Vol.5で取り上げた映画『海辺の彼女たち』と映画『カム・アンド・ゴー』の両作品を関西で初上映し、中国語で「阿媽」と呼ばれる(フィリピン人を中心とした)出稼ぎ外国人家政婦とアンソニー・ウォン演じる、事故の影響で全身麻痺状態になった初老の男性との交流を描いた香港映画『淪落の人』(みじめな人)を日本で初上映したのも、「大阪アジアン映画祭」だった。

今回、特に、ベトナムからの「新移民」女性2人が主人公の映画『徘徊年代』と、「来るべき才能賞」を受賞した映画『世界は僕らに気づかない』(2022)の2本には驚かされた。

チャン・タンユエン監督作品『徘徊年代』(2021)

正直個人的には、移民に関する劇映画も食傷気味で、制作者の方々には申し訳ないのだが、『海辺の彼女たち』と『カム・アンド・ゴー』を超える映画に出会うのは難しいだろうとたかをくくっていた。しかし、『徘徊年代』『世界は僕らに気づかない』ともに後半、映画としてのギアが上がると言えばいいのだろうか、こちらの甘い予想をはるかに超えてきた。まず『徘徊年代』は、2部構成で、前半と後半では、主役も撮り方も照明も、さらに画角さえもガラッと変わる。しかも、前半(1990年代)、台湾の田舎に結婚斡旋業者の仲介で嫁いできた女性から、後半(2015年以降)、同じく結婚をきっかけに台湾へやってきたベトナムの女性である点では共通しているものの、年齢も職業も社会階層も違う主人公に交代する。それに合わせて、撮り方も照明も画角も変化する。こういう大胆な構成を採用することで、『徘徊年代』は、新移民達が積み重ねた年代とその変貌を表現している。エンディングロールに、ベトナムのインディペンデント映画を代表するファン・ダン・ジー監督が、トラン・アン・ユン監督とともに主催する映画人の若手育成プログラム、Autumn Meetingが出てきたので、調べてみたら、チャン・タンユエン監督はAutumn Meetingの参加者で、さらに、台湾でベトナムのインディペンデント映画の上映会とシンポジウムも企画していた。その上映作品には、Vol.8で取り上げた、ベトナム映画黄金世代の3人、レ・ビン・ザン、チュオン・ミン・クイ、レ・バオ監督の作品も含まれている。

ちなみに、この『徘徊年代』とレ・バオ監督の長編デビュー作で、ホーチミン市のスラム街に住むナイジェリア人元サッカー選手を主人公にした映画『Vị (Taste)』(ベトナムで上映禁止)は、「台北映画祭」2021年International New Talent Competitionで、とがった移民劇映画同士で競い(春本雄二郎監督作品『由宇子の天秤』、 黄インイク監督作品『緑の牢獄』も参加)グランプリはレ・バオ監督作品『Vị (Taste)』が受賞している。

次に、『世界は僕らに気づかない』は「来るべき才能賞」の受賞理由に、
「人種差別とジェンダーアイデンティティの両方を描くことは簡単なことではないと思います。しかし、フィリピン人の母親と日本人の父親を持つ主人公が、自身のセクシャリティとアイデンティティの危機に対峙する姿を、飯塚花笑監督は巧みに映し出しました」。
と書かれているように、主人公はミックスルーツを持つのみならず、ゲイでもある。つまり、二重に少数者である高校生を主人公に据えた点に驚かされた。

さらに、その主人公による父親探し、フィリピンパブで働く母親(とその新しい恋人)との衝突、主人公を叱咤しつつも、愛している恋人の男子高校生とそのキュートな家族との交流の3つを軸に映画は展開し、移民劇映画としては想像していなかったラストへ観客を連れて行く。最近、第3回大島渚賞を受賞した藤元明緒監督より若い飯塚花笑監督が、『海辺の彼女たち』の翌年に、挑戦的な作品『世界は僕らに気づかない』を創ったことに、日本映画の未来を感じることができた。花笑監督と同世代で1990年生まれのレ・バオ監督作品『Vị (Taste)』を含めて、『海辺の彼女たち』『徘徊年代』、そして、『世界は僕らに気づかない』を観比べると、アジアの気鋭の監督達による、移民劇映画の可能性とその豊かさに気付かされるだろう。

驚きの映画との出会いがある「大阪アジアン映画祭」

想像していなかったラストへ観客を連れて行く、驚きの映画との出会いも「大阪アジアン映画祭」の醍醐味の1つだろう。今回、個人的に『ダイ・ビューティフル』(2016)のジュン・ロブレス・ラナ監督の新作コメディ作品『ビッグ・ナイト』にはシビレた。

ジュン・ロブレス・ラナ監督作品『ビッグ・ナイト』(2021)

この作品には、映画祭での上映が決まる前から期待していて、ノーマルスクリーンさんに書かせてもらった「スコールが通り過ぎるのを待つように。 東南アジアの性的少数者映画をめぐる近況」でも、
「『ゲームボーイズ THE MOVIE』のエグゼクティブ・プロデューサー、そして共同脚本家に、『ダイ・ビューティフル』(2016)のジュン・ロブレス・ラナ監督が入っているのが興味深い。ラナ監督は『ダイ・ビューティフル』以降も、ブラザーズではなく、シスターズというところがミソでバクラをめぐるコメディ映画『The Panti Sisters』(2019)、アジア映画サイトAsian movie pulse選出「アジア発偉大なモノクロ映画25」の10位、HIVに感染した15歳の少年が主人公の映画『Kalel, 15』(2019)、クリスマス公開予定の最新作でコメディ映画『ビッグ・ナイト』(2021)など 硬軟交えた性的少数者周辺の映画を監督しているので、日本未公開なのは惜しい気がする」。
と書いた。実際、観ると予想を上回るできで、コメディで観客を油断させてからのラストの展開は、最近の東南アジアで創られた性的少数者映画の中でも屈指のキレで、笑いながらぞっと寒気がした。

フィリピンのこの記事によれば、ラナ監督は2022年に2本の長編映画を創る予定だそうだ。日本劇場未公開のままなのは、本当に惜しい。

日本で劇場未公開だが注目したい作品

他の驚きの映画には、コン・ダーシャン監督による中国SFロードムビー&コメディ作品『宇宙探索編集部』、バングラデシュの新鋭監督による、出口なしの生き地獄映画『地のない足元』、薬師真珠賞を受賞した、モンゴルの女性オフビートコメディ映画『セールス・ガール』、そして、グランプリを受賞した映画『おひとりさま族』などがあり、日本で劇場公開もしくは配信されることを期待している。

コン・ダーシャン監督作品『宇宙探索編集部』(2021)

ジャンチブドルジ・センゲドルジ監督作品『セールス・ガール』(2021)

特に『おひとりさま族』は、第14回グランプリの映画『なまず』が、日本で劇場公開に至らなかったことを思い出し、危惧している(と書いたら、『なまず』は、7月から東京・新宿武蔵野館ほか全国で順次公開が発表)。Vol.11の「アジアの女性監督考」で取り上げた、韓国映画『オマージュ』(2021)のシン・スウォン監督のように、映画祭では好評なのに、劇場公開に至らなかった韓国の女性監督達がいるのは残念に思う。なぜなら、斎藤真理子さんを中心に、韓国文学翻訳者の方々の尽力によって、韓国女性作家の小説が翻訳され、日本の読者の方々に届いたように、韓国の女性映画人の作品も日本の観客の方々に届く可能性は十分あると予想しているからだ。

そしてユン・ガヒョン監督による、2021年DMZ国際ドキュメンタリー映画祭最優秀韓国ドキュメンタリー賞を受賞した映画『バウンダリー:火花フェミ・アクション』(2021)は、斎藤真理子責任編集『完全版 韓国・フェミニズム・日本』(河出書房新社)との相性はバッチリだと思う。この映画『なまず』以外にも、「大阪アジアン映画祭」の受賞作には、劇場未公開&未配信作がまだまだある。ここで1つ提案しておきたい。「ドキュメンタリードリームショー -山形in東京」のように、「大阪アジアン映画祭in 東京」(もちろん、福岡、名古屋、札幌なども)を開催して、劇場未公開&未配信の受賞作を特集上映できないものだろうか?

そんな楽しい“バラエティとダイバーシティのフェス”「大阪アジアン映画祭」も、今年は閉幕してしまったが、タイミングと条件が合えば、この映画祭で上映されたであろうアジア映画の新作が控えている。まず、2019年に上映された、ベトナムの女性アクション映画『ハイ・フォン / Furie』のスピンオフで、前日譚にして、女性ラスボスの名前がタイトルである映画『THANH SÓI』(2022)。今回は『ハイ・フォン』の主演でプロデューサーのゴ・タイン・バンが共同監督を務めている。

映画『THANH SÓI』(2022)

次に、Vol.1でも取り上げた、ナワポン・タムロンラタナリット監督の最新作で、アクション映画『FAST & FEEL LOVE』(2022)。

ナワポン・タムロンラタナリット監督作品『FAST & FEEL LOVE』(2022)

そして、香港では上映禁止になった、民主化デモを描く香港の青春映画『少年たちの時代革命』である。

レックス・レン監督とラム・サム監督作品映画『少年たちの時代革命』(2021)

幸い、『少年たちの時代革命』の緊急特別上映会は6月4日、5日に渋谷ユーロライブで開催される。即完売だろう。すでに来年の「大阪アジアン映画祭」が待ち遠しい。

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現地から遠く離れても――配信で感じる“おいしい!”アジア 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.12 https://tokion.jp/2022/01/21/a-film-trip-around-asia-vol12/ Fri, 21 Jan 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=91174 タイ、韓国、フィリピンをはじめとするアジア映画の隆盛とその作品や周辺文化を取り上げ、日本とアジアを比較する考察を織り交ぜながら、紹介する連載コラム。

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Vol.11でとりあげた韓国映画『オマージュ』のシン・スウォン監督による、韓国の格差社会での女性の生きづらさを描いた衝撃作『マドンナ』(2015)のDVDが2月25日にリリースされる予定だそうだ。さらに、パク・チワン監督作品『ひかり探して』、ホン・ウィジョン監督作品『声もなく』も劇場公開され、アジアの女性監督達の作品を観る機会が増えて喜ばしい。 

シン・スウォン監督作品 『マドンナ』(2015)

しかし2022年に入り、日本では少しおとなしくなっていた新型コロナウイルスが再び猛威を振るい始め、正月気分も失せてしまった。今年も海外渡航は厳しそうで、アジア好きにはつらい時代である。とはいえ1月下旬から、アジアへの喪失感をなぐさめてくれる、熱気、湿度、匂いなど、五感を刺激する映像が配信予定となっているので、今回はそれら「おいしい!」アジアの配信作品を中心にとりあげてみたい。

世界各国の屋台文化を知ることができる旅ドキュメンタリーシリーズ

まず紹介したいのは、Netflixの新作で旅ドキュメンタリーシリーズ『ミッドナイトアジア: 食べて・踊って・夢を見て』で、1月20日より配信が開始されている。

Netflix作品 『ミッドナイトアジア: 食べて・踊って・夢を見て』(2022)

Netflixのホームページから作品紹介を引用すると、
「本ドキュメンタリーでは、夜の世界を案内するだけでなく、何百万という人々が行き交う都会で夢を追いかけ、型にとらわれず情熱を燃やし、個のあり方を表現しようする魅力的な人々のストーリーが語られます。6つのエピソードを通じて、マニラ、バンコク、東京、ソウル、台北、ムンバイと、アジアを象徴する都市に今までにない角度から光を当てます。知る人ぞ知るストーリー、活気あふれるサブカルチャー、そして夜の街で翼を広げる魅力的な個性。夜の都会の最高にダイナミックな人々や場所を、ひと味違った視点で紹介します」。

Netflixでは、食欲をそそる旅ドキュメンタリーシリーズがいくつか配信されている。中でも、アジア関連だと、屋台、露店を営む料理人達に焦点を当てた『ストリート・グルメを求めて』(2019)がイチオシで、コロナ禍で国外の屋台に手が届きにくくなった今、さらに作品の輝きが増した。

Netflix作品 『ストリート・グルメを求めて』(2019)

訪問している国と街は9つで、タイはバンコク、日本は大阪、インドはデリー、インドネシアはジョグジャカルタ、台湾は嘉義、韓国はソウル、ベトナムはホーチミン、シンガポール、そしてフィリピンはセブである。この作品がユニークなのは、大阪、ジョグジャカルタ、嘉義、ホーチミン、そしてセブと、首都でない街をとりあげられている点だ。
台湾を訪問したことがある人でも、南部の嘉義を訪問した人は台北に比べると、稀ではないだろうか。国外の旅行者が訪れる機会の少ない街の屋台文化まで紹介されている点が複眼的で、バラエティに富み、Netflixの特色である「ローカル発グローバル」を反映している気もする。

そんな新作シリーズ『ミッドナイトアジア: 食べて・踊って・夢を見て』は、食に「踊って、夢を見て」が新たに追加されており、音楽と夜の闇に異彩を放つ人々のナイトライフにも焦点が当てられている。そして『ストリート・グルメを求めて』と重なっている街は、バンコクとソウルのみで、フィリピンのマニラ、日本の東京、台湾の台北、インドのムンバイが新たにとりあげられている。日本のNHKの歩く旅番組『世界ふれあい街歩き』は、朝から日暮れまでの日中にフォーカスしているので、『ミッドナイトアジア』は『世界ふれあい街歩き』終了後の夜時間、アフター『世界ふれあい街歩き』と言ってもいいかもしれない。
ちなみに両番組の同じ街の回、例えば、バンコクの回を『世界ふれあい街歩き』と『ミッドナイトアジア』の両方を視聴すると、バンコクの昼と夜の顔の両面を垣間見ることができ、複眼的に街を知るきっかけにもなるだろう。

「CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭」で注目したいこと

旅ドキュメンタリーシリーズ『ミッドナイトアジア: 食べて・踊って・夢を見て』の配信開始の翌日からは、まるで連動したかのように国際交流基金アジアセンターが、「東京国際映画祭(TIFF)」と共催して、1月21日から2月3日にかけて「CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭」を実施する。

オフィシャルサイトから引用すると、
「オンラインで2部構成の特別編として復活し、CROSSCUT ASIA 特別編『おいしい』アジア映画特集部門とCROSSCUT ASIA アンコール部門として計13プログラムを無料配信上映します。 本映画祭のメイントピックは『食』」。

つまり、Netflix『ミッドナイトアジア』の配信開始翌日から、食に関連した「おいしい!」東南アジア映画を無料で楽しむことができるのだ。これはありがたい話である。無料配信作品の中には、本連載で過去にとりあげた映画人の関連作品もあるので、その作品についても少し書いてみたい。

『アルナとその好物』

ストーリーはオフィシャルサイトから引用すると、
「インフルエンザの調査旅行に出掛けることになったアルナが、友人らとインドネシア各地の名物料理の食べ歩きを計画する男女4人のロードムービーだ。旅先のジャワ島では黒スープ、カリマンタン島では蟹入り麺など、数々の料理に出会う」。

エドウィン監督作品 『アルナとその好物』(2018)

こちらの映画は、連載第10回でとりあげた、エドウィン監督作品『復讐は神にまかせて』(2021)の前作にあたるものだ。作品内容は、ロードムービー+グルメ+ラブコメディのよくばりな娯楽映画で、「大阪アジアン映画祭2019」においてABCテレビ賞を受賞している。ちなみに、「大阪アジアン映画祭」ではディスカッションが開催され、コロナ禍の前だったこともあり、インドネシア料理も振る舞われた

原題は『Aruna dan Lidahnya(アルナと味覚)』で、原作は女性作家で詩人のラクスミ・パムンチャックの小説『Birdwoman’s Palate』である。ちなみに、英語版はKindleでも購入可能だ。余談だが、ラクスミ・パムンチャックは『The Jakarta Good Food Guide』を執筆するフードライターでもあり、2021年に翻訳された『味の台湾』(みすず書房)の詩人、焦桐といい、詩とローカルな食を結ぶ文学者の存在が共通していて、これもまた興味深い。『アルナとその好物』は、エドウィン監督のフィルモグラフィーにとって、オリジナル脚本ではなく、インドネシアの書き手による原作ものに取り組むことで「尖りつつも娯楽映画としての醍醐味もミックスした作風へと変化」を遂げた、最初の成果と言える。つまり、エドウィン監督がひと皮むけるきっかけになったブレイクスルー作なのである。

『タン・ウォン~願掛けのダンス』

ストーリーはオフィシャルサイトから引用すると、
「東京国際映画祭で『スナップ』(2015)や『私たちの居場所』(2019)が上映されたコンデート監督の作品。神様に願掛けをした4人の高校生が、チームを組んでタイ伝統舞踊を舞うことに。素人ダンサーたちが猛練習の果てに掴んだものは……。“タン・ウォン”とは踊りを始める前に構えるポーズのこと」。

コンデート・ジャトゥランラッサミー監督作品 『タン・ウォン~願掛けのダンス』(2013)

CROSSCUT ASIA アンコール部門では、前述の「踊って、夢を見て」に関連した作品が含まれている。この作品も連載第10回で触れた、タイのスパンナホン賞、第29回作品賞『私たちの居場所』(2019)のコンデート・ジャトゥランラッサミー監督による、青春映画の名作だ。連載では省略したが、第23回スパンナホン賞の作品賞がこの『タン・ウォン』である。つまり、コンデート監督はスパンナホン賞作品賞を、第23回『タン・ウォン』、第29回『私たちの居場所』で、2度受賞している監督になる。彼はNetflixの人気配信ドラマシリーズ『転校生ナノ』の脚本も担当していて、タイの若者達の青春の光と闇を描くのが抜群にうまい。タイの青春モノの名手だ。あまり書くとネタバレになるので、控えるが、性的マイノリティの人々に関心がある人も観てほしい。『転校生ナノ』シリーズを含めて、コンデート監督によるタイの青春映画についてはいつか書いてみたい。

コンデート・ジャトゥランラッサミー監督が脚本を手掛けた『転校生ナノ』(2018)

『カンボジアの失われたロックンロール』

ストーリーはオフィシャルサイトから引用すると、
「クメール・ルージュによって弾圧されるまでのカンボジアのポピュラー音楽史を1950~70年代まで辿った貴重な音楽ドキュメンタリー。生存者へのインタビューやアーカイブ映像を駆使して歴史が甦る」。


ジョン・ピロジー監督作品 『カンボジアの失われたロックンロール』(2014)

カンボジア歌謡黄金時代を今に蘇らせるバンド、デング・フィーヴァー(DENGUE FEVER)の曲を聴けばわかるように、ポル・ポト以前のカンボジアのロックンロールは、イカした音楽だったはずだ。
まず作品内のシン・シサモット、ロ・セレイソティアといったカンボジア伝説の大歌手達の歌声を聴くだけでもこの作品を観る価値は十分にある。次にこの作品には、アーカイブ映像としてカラーフィルムが多く使用されていて、カンボジアが「東南アジアの真珠」と呼ばれていた時代のプノンペンの栄華を忍ばせる。なぜなら、東南アジアの他地域では、ここまでカラーフィルムは残っていないだろうから。そんな栄光と幸福感に満ちた前半部から一転、クメール・ルージュが国家を掌握し、ミュージシャン達が弾圧され、亡くなっていく後半部分の悲劇には胸が締め付けられる。音楽好きには涙なしでは観ることのできないドキュメンタリーではないだろうか。
先日、歌姫、ロ・セレイソティアに関するグラフィックノベル『THE GOLDEN VOICE』が刊行予定だと、『消えた画 クメール・ルージュの真実』のリティ・パン監督ツイートしていた。中断に屈せずに、カンボジアのポピュラー音楽が21世紀の人々にも継承されていることに希望を感じる。

『ソン・ランの響き』

「CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭」では、ベトナム映画が含まれていなかったのだが、GYAO!でベトナムの大衆歌舞劇であるカイルオンを取り上げた劇映画『ソン・ランの響き』が無料配信されている。カイルオンとはベトナム南部を中心とした、大衆オペラで、タイトルのソン・ランとは、カイルオンに使用される打楽器の名前。直径約7センチの中空の木の胴と、弾性のある曲がった金属部品と、その先に取り付けられた木の玉から構成されている。

レオン・レ監督作品 『ソン・ランの響き』(2018)
※GYAO!で、 2月13日まで無料配信中

なお「ソン・ラン」には、「2人の(=Song)」「男(=Lang)」との意味もある。主人公2人のうちの1人、借金の取り立て屋のユンを、連載第5回でとりあげた映画『カム・アンド・ゴー』で、帰国を許さない印刷工場から逃げ出すベトナム人の技能実習生を演じたリエン・ビン・ファットが演じている。この作品のプロデューサーは、Netflixで配信中の女性アクション映画『ハイ・フォン: ママは元ギャング』の主演女優を務めたゴ・タイン・バンである。彼女は女優としても、プロデューサーとしても、ベトナム映画を変えた映画人の1人で、映画『ソン・ランの響き』と同じく、彼女のプロデュースした、アオザイSFコメディ作品『サイゴン・クチュール』もGYAO! で、1月31日まで無料配信中だ。 

グエン・ケイ監督作品 『サイゴン・クチュール』(2017)
※GYAO!で、 1月31日まで無料配信中

ちなみに、この作品の監督、グエン・ケイも女性である。ゴ・タイン・バンの登場は、ベトナム映画史にとって重要で、彼女のあと、ベトナム映画は女性映画人達の活躍がめざましい。例えば、大阪アジアン映画祭事務局さんのツイートから引用すると、
「OAFF2021 ABCテレビ賞、ベトナム映画『姉姉妹妹』(読み→ししまいまい)の関西圏放映は2月の予定」。

キャシー・ウエン監督作品 『姉姉妹妹』(2019)

本作のキャシー・ウエン監督は、ベトナムでは名の知られた女優でもある。ベトナムの女性映画人による女性映画、C18(=18禁)のフェミニストスリラー作『姉姉妹妹』を観ても、女性映画人達が活躍すると、その業界内で映画の多様性が増すと考えている。『姉姉妹妹』みたいな女性映画は、ベトナムに以前はなかったので。

Vol.11からの宿題として、「CROSSCUT ASIA おいしい!オンライン映画祭」長編映画12プログラム中で、女性監督を調べてみると、私見では、映画『川は流れを変える』のカリヤネイ・マム監督、映画『三人姉妹(2016年版)』のニア・ディナタ監督の2人に留まっている。この連載でたびたび言及している、「大阪アジアン映画祭」ABC賞(現ABCテレビ賞)も、2019年の受賞作品『アルナとその好物』を含めると、男性監督の作品が続いていたが、キャシー・ウエン監督『姉姉妹妹』が受賞したように、何年後かに、CROSSCUT ASIAの配信上映が企画された時、女性監督の割合が増えていることを期待したい。

コロナ禍で海外渡航は厳しく、アジア好きにはつらい時代だが、外出が困難な時期だからこそ、現状を俯瞰的に分析し、反省していく作業も必要だと考える。ただし、反省ばかりじゃ疲れるので、今回とりあげた「おいしい!」アジアの配信作品がコロナ禍の息抜きとなり、さらに、記憶の片隅に残って、コロナ禍明けのアジア渡航のおともにもなれば、幸いである。

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アジアの女性監督考――彼女達について私が知っている二、三の事柄 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.11 https://tokion.jp/2022/01/19/a-film-trip-around-asia-vol11/ Wed, 19 Jan 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=88430 タイ、韓国、フィリピンをはじめとするアジア映画の隆盛とその作品や周辺文化を取り上げ、日本とアジアを比較する考察を織り交ぜながら、紹介する連載コラム。

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2021年11月上旬に上京し、「東京国際映画祭」「東京フィルメックス」に参加した。
前回の「タイが生んだ、編集の魔術師、リー・チャータメーティクン祭り in 東京」で紹介した4本のうち、タイのジャッカワーン・ニンタムロン監督作品『時の解剖学』は、第22回「東京フィルメックス」にて、最優秀作品賞を受賞。そして、度肝を抜かれた、アピチャッポン監督作品『MEMORIA メモリア』は2022年3月4日から全国公開されることが決定した。恐るべし、編集の魔術師。

それから11月下旬は福岡に行き、日中は福岡市総合図書館映像ホール・シネラで中国映画特集を観て、夜は「Asian Film Joint 2021」、第2回で取り上げた「福岡で特集上映される、タイの奇才アノーチャ監督」の特集上映に参加した。東京と福岡の合間に、ノーマルスクリーンさんの特集「クィア東南アジアの今 その声のいくつか」に合わせて、「スコールが通り過ぎるのを待つように。東南アジアの性的少数者映画をめぐる近況」も寄稿した。その福岡では、アノーチャ監督に「東南アジア映画の現在地」について、お話を伺った。

この11月を振り返ってみると、性的少数者映画とアノーチャ監督特集関連で、女性映画について考えた期間だった気がする。性的少数者映画についてはすでに寄稿しているので、今回は、11月に観た映画を絡めながら、アジアの女性監督の近況について書いてみたい。 

女性監督作品が印象に残った東京国際映画祭

今回の「東京国際映画祭」は、最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞をコソボのカルトリナ・クラスニチ監督による長編デビュー作『ヴェラは海の夢を見る』が受賞したことに象徴されるように、女性監督の作品が印象に残った。
そのうちの1作は、韓国のシン・スウォン監督『オマージュ』(2021)である。

シン・スウォン監督作品 『オマージュ』(2021)

主人公である女性映画監督のジワンは、韓国女性監督としての先達、ホン・ウノン監督のデビュー作『女判事』(1962)の修復の仕事を依頼される。その『女判事』は、一部音声とフィルムが欠落していた。欠落部分を探す修復作業の過程で、女性監督ホン・ウノンが歩んだ苦難の道のりも明らかになっていく。
シン・スウォン監督への東京国際映画祭公式インタビューによれば、「映画に登場する先輩の女性監督達は、いずれも実在の方です。私が10年くらい前に、テレビ用のドキュメンタリーを撮った時に、彼女達の取材をしました。映画にも出てくる韓国初の女性映画監督パク・ナモク、もう1人が『女判事』を手掛けたホン・ウノンでした」。

今回の東京国際映画祭では、ちょうど日本の「女性監督のパイオニア 田中絹代」特集も行われていたので、日本と韓国の女性監督の先人達へのリスペクトという点で重なる部分もあった。『オマージュ』が素晴らしい女性映画であると同時に、映画愛にあふれた作品である点は、ドキュメンタリーとしての要素に、フィクションをプラスして行き詰まっていた監督が先人達のフィルムの捜索という苦難の道のりをたどることで、自身にフィードバックしていく、ある種の再生の物語であることからも明らかだろう。ホン・ウノン監督作品『女判事』とセットでの『オマージュ』の上映も観てみたい。

そしてもう1作、台湾のエンジェル・テン監督による、女性同性愛を描いたドラマシリーズ『最初の花の香り』(2021)にも触れたい。

エンジェル・テン監督作品 『最初の花の香り』(2021)

作品解説によると、「LGBTQ作品に特化した台湾の動画配信サイトGagaOOLala製作のミニシリーズ。平凡な家庭の主婦が、高校の後輩との再会を通して新しい自分を発見するまでを描いた作品」。

GagaOOLalaは、性的少数者に関する映像作品により、アジアに大きなインパクトを与えた、画期的な動画配信サイトだ。2020年に、GagaOOLala主催のシンポジウムを聴いた時は、配信コンテンツの9割近くがG、つまり男性同性愛関連だと発表していたが、女性同性愛のドラマシリーズ製作にも本腰を入れたのかと、GagaOOLalaの挑戦的姿勢に心動かされた。ただし、今回上映されたのは、全話ではなくダイジェスト版であり、また続編も製作中だそうなので、評価は難しいところだが、冒頭の結婚式で2人が再会に至るシーンが秀逸だった。
アン・リー監督作品の『ウェディング・バンケット』(1993)からあと少しで約20年、同性婚合法化以降の台湾での結婚式の様子も垣間見えると同時に、女性同性愛をめぐって、まだ変わらず残る偏見ととまどいを感じさせる導入で、ドラマに自然と引き込まれた。もっとも、全6話をきちんと観るためには、GagaOOLalaに入会する必要があるのだが……。

日本での劇場公開を期待したいカミラ・アンディニ監督作品が映えた東京フィルメックス

続いて「東京フィルメックス」では、中国のクィーナ・リー監督作品『ただの偶然の旅』(2021)と、アフガニスタンの映画作家、シャフルバヌ・サダト監督による『狼と羊』(2016)など、女性監督の作品が上映される中、もっとも惹かれたのは、前回で取り上げた、カミラ・アンディニ監督『ユニ』(2021)である。

カミラ・アンディニ監督作品 『ユニ』(2021)

主人公のユニは、紫色に固執していて、気に入った紫色のものを見かけると、友人のものでも盗んでしまい、先生から注意を受けているくらい。この紫色が画面に映え、画面の色彩を非現実的なものに引き付けていく。カミラ・アンディニ監督の作品は、どこか夢遊的で浮遊感が漂っているのだが、その紫色の夢遊とユニの青春とが重なっている。しかし、映画が進むにつれて、彼女の青春、紫色の夢遊にも、インドネシア田舎の未婚女性達に待ち受ける過酷な現実が影を落としていく。
映画『ユニ』は、カミラ・アンディ二監督を、「巨匠ガリン・ヌグロホの娘」という2世監督のイメージから脱却し、インドネシアを代表する監督へと押し上げる1本と言えるだろう。前監督作品『見えるもの、見えざるもの』と併せて、日本での劇場公開が望まれる。

アノーチャ監督にうならされたAsian Film Joint

アノーチャ監督の過去作については、連載第2回で書いているので、そちらを読んでいただくとして、「Asian Film Joint」で公開された新作映画『カム・ヒア』(2021)と、その姉妹編とも呼べるポム・ブンスームウィチャー監督による短編『レモングラス・ガール』(2021)ともに観応え十分だった。

アノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督作品 『カム・ヒア』(2021)

アノーチャ・スウィチャーゴーンポン脚本、ポム・ブンスームウィチャー監督作品 『レモングラス・ガール』(2021)

『カム・ヒア』は、映画『戦場をかける橋』(1957)で知られる、タイ西部のカンチャナブリへのロードムービーの一種と呼べるのだが、過激で優美な迷宮映画の世界のアノーチャ監督だけあって、一筋縄ではいかない。行き先の見えない「迷宮ロードムービー」とでも呼べばいいだろうか。今回はカラー作品ではなく、モノクロ作品だったので、行き先の見えなさ、現実感の希薄さに拍車がかかっていた。そのイメージの衝突、逸脱、そして飛躍を観続けていると、いったい何を観ているのか、わからなくなってくるものの、最終的には「ああ、映画を観ているのだった」と気付かされる。これもまたシン・スウォン監督同様、映画愛にあふれた映画だった。ただし、『オマージュ』と違って、マニエリスムのように、ねじれている。

さらに姉妹編『レモングラス・ガール』を観ると、『カム・ヒア』のメタな視点(メイキングドキュメンタリーとフィクションの融合。しかもこちらはカラー作品)が提示され、『カム・ヒア』が反転し、別の迷宮に誘い込まれる。これらの貴重な「迷宮」映画体験は、『カム・ヒア』と『レモングラス・ガール』をセットで上映するプログラムを組んだ、三好剛平さん(Asian Film Joint/三声舎)の功績である。福岡以外にも、アノーチャ監督の「過激で優美な迷宮映画」特集上映が広がることを期待する。

「Purin Pictures」が助成したインディペンデント映画にハズレなし

「Asian Film Joint」のフォーラムでは、アノーチャ監督とプム監督に、彼女達が運営する、東南アジア圏のインディペンデント映画に特化した製作・活動支援を行う民間映画基金「Purin Pictures」について尋ねる機会を得た。連載第10回「タイが生んだ、編集の魔術師、リー・チャータメーティクン祭り in 東京」の4本と、連載第8回で取り上げた、レ・バオ監督によるベトナム映画の『Vị (Taste)』(2021)も、「Purin Pictures」による助成を受けている。つまり、「Purin Pictures」が助成したインディペンデント映画にハズレなしと断言してもいいくらいだ。
加えて、「Purin Pictures」の助成がユニークなのは、女性監督達も多く選ばれている点にある。フォーラムで、アノーチャ監督に、「Purin Pictures」は女性監督達を優先的に選んでいるのか尋ねたところ、彼女は「東南アジアにおいて、女性監督をめぐる製作状況は依然として厳しいので、毎年2回の助成において、必ず女性監督の作品を選ぶようにしている」と答えてくれた。
この「Purin Pictures」の女性監督達への助成は成果を上げていて、例えば最近だと、2度も助成を受けた、ベトナムのドキュメンタリー映画『Children of the Mist』(2021)は、「アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭」2021で、ハー・レ・ジエム監督に最優秀監督賞をもたらした。彼女は1991年生まれで、連載第8回で取り上げた、「ベトナムのインディペンデント映画黄金世代である、1990年世代」の1つ下で、ほぼ同世代だ。黄金世代と紹介した4人の監督達はすべて男性だったので、ジェンダーバランスが悪いことが気にかかっていたが、ジエム監督が最優秀監督賞を受賞したことで、この世代の女性監督も国際的に評価され、もやもやが少し解消されたと思う。

ハー・レ・ジエム監督作品 『Children of the Mist』(2021)

また、「Purin Pictures」最新の助成においても、映画『ユニ』に続き、前回の連載最後で言及した、カミラ・アンディニ監督の新作企画『Before, Now & Then』が「Purin Pictures」のポストプロダクションの助成にも選ばれている。「Purin Pictures」は、カミラ・アンディニ監督推しだと思う。

日本の女性映画監督について

草野なつか監督作品 『王国(あるいはその家について)』(2019)

少し本筋から脱線するが、自分の担当したフォーラムのあと、三好さんと打ち上げをした時、三好さんが草野なつか監督作品『王国(あるいはその家について)』(2019)も好きだと仰っていて、アノーチャ監督の「迷宮」と草野なつか監督の「王国」と、「過激で優美な彼女達」という点で三好さんの好みが一貫していることに感心させられた。
幸い、現在、この『王国(あるいはその家について)』は、パリ・シネマテークフランセーズの配信プラットフォーム「HENRI」内の「Japan Fringe」特集にて2022年2月1日まで無料配信されている。この「Japan Fringe」特集では、小森はるか、瀬尾夏美監督『波のした、土のうえ』(2015)も 2月15日まで無料配信されている。もちろん、女性監督のみならず、男性監督の作品も配信されていて、「シン・日本映画」のありがたい特集なのだが、日本の「過激で優美」な女性監督達の試みを繰り返し観て、ひたるにも絶好の機会だと思う。

アノーチャ監督が仰っていた、女性監督をめぐる製作状況の厳しさは、東南アジアに限らず、日本にも共通のものである。例えば、先日、「表現の現場調査団」による、現在進行中の日本におけるジェンダーバランスについての調査中間報告においても、「映画賞におけるジェンダーバランス:男性主観の評価が常態化。女性は年齢を重ねると減少傾向」が指摘されている。この記事を読んだ時、映画『海辺の彼女たち』で新藤兼人賞金賞を受賞した藤元明緒監督が受賞前の11月12日のツイッターで
「TAMA映画賞に続き、新藤兼人賞にも最終選考ノミネート。とっても光栄で、励まされます。でも今年は全員男性監督なんですね、、と記事を見て率直に思いました。もちろん審査や運営に対してのボヤきではなく、なぜそんな事態になったのか業界全体広義にむけての「?」です」という、勇気あるつぶやきを思い出した。

この連載を振り返ってみても、女性監督、より広く女性映画人よりも男性映画人を取り上げてきたなと反省している。もっとも映画祭もそうなのだが、地域の偏りをなくしつつ、男性映画人に偏らないようにアジア映画を紹介するのは、実際やってみると難しい。連載第7回で、「『大阪アジアン映画祭』には、昨年話題を集めた韓国映画『はちどり』のように、アジアの女性映画人達、そして女性達の絆を描くシスターフッド映画を積極的に紹介しようとする、暉峻創三プログラミング・ディレクターの意志を感じる」と述べたが、「言うは易く行うは難し」を痛感した。今のほうが、「大阪アジアン映画祭」への尊敬の念は強くなっている。

そして今回の「東京国際映画祭」では、女性映画人を紹介する方向へさらにかじを切った印象を受けた。そういった新しい動きに対して、むしろ問われるのは書き手のほうかもしれず、私自身、他人事ではない。特に、私のような男性の書き手にとっては、アノーチャ監督達による「Purin Pictures」の助成選出基準「必ず女性監督の作品を選ぶ」を戒めにするくらいのほうがいいのかもしれない。
なぜならば、男同士の絆、ホモソーシャルな欲望に引き寄せられる危険性をある程度、抑止してくれるからだ。
次回以降、原稿で紹介する映画人のジェンダーバランスを地道に改善していきたいと思う。女性映画人が活躍できる環境があればこそ、「シン・アジア映画」の可能性が開けてくるはずだから。

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タイが生んだ、編集の魔術師、リー・チャータメーティクン祭り in 東京 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.10 https://tokion.jp/2021/11/01/a-film-trip-around-asia-vol10/ Mon, 01 Nov 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=71873 タイ、韓国、フィリピンをはじめとするアジア映画の隆盛とその作品や周辺文化を取り上げ、日本とアジアを比較する考察を織り交ぜながら、紹介する連載コラム。

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10月30日から開催される第34回「東京国際映画祭」と、第22回「東京フィルメックス」の上映作品ラインアップが発表された。そのラインアップには、この連載を始めて以来、その影を感じていた、ある映画人に関連する作品が4本も入っていた。
今回は、その映画人、タイが生んだ名編集技師、リー・チャータメーティクン監督が関わった実験映画を取り上げたい。

アジア各国の作品に編集の魔術師として関わるリー・チャータメーティクン

リー・チャータメーティクンは、映画監督でもあるので、以後、リー監督と呼ぶ。リー監督はこれまでタイを中心に、アジアの監督達の実験映画に編集というマジックによって助力してきた「編集の魔術師」だ。

そのリー監督の編集作品で今回、東京で上映される4本は、
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『MEMORIA メモリア』(2021)「東京国際映画祭」

エドウィン監督の『復讐は神にまかせて』 (2021)「東京国際映画祭」

カミラ・アンディニ監督の『ユニ』(2021)「東京フィルメックス」コンペティション

 
ジャッカワーン・ニンタムロン監督の『時の解剖学』(2021)「東京フィルメックス」コンペティション

である。この4本の話に入る前に、まずこの連載で取り上げた編集の魔術師が関わった実験映画を振り返ってみたい。

連載第8回で取り上げた、ベトナム映画でチャン・タン・フイ監督作品の映画『走れロム』(2019)、そしてレ・バオ監督の映画『Vị (Taste)』(2021)は、リー監督が編集を担当している。

そして、連載第2回で紹介した、タイのアノーチャ監督の短編『グレイスランド』(2006)、長編デビュー作『ありふれた話』(2009)、そして逸脱につぐ逸脱が前代未聞の実験映画『暗くなるまでには』(2016)の3本がリー監督の編集作品だ。幸い、これら長編2作品に、新作映画『カム・ヒア』(2021)などを加えた上映企画が、11月22日から『Asian Film Joint アノーチャ・スウィチャーゴーンポン監督特集』と題して、再び福岡の地(「KBCシネマ」)でレイトショーされる。さらに連載第9回にて触れた、ピサヤタナクーン監督による、タイホラーを変えた傑作映画『心霊写真』(2004)もリー監督の編集である。同様に、タイBL映画の名作、チューキアット・サックウィーラクン監督による『ミウの歌〜Love of Siam〜』(2007)もリー監督の編集だ。つまりリー監督は、実験映画にとどまらず、タイのホラー映画、恋愛映画でも編集の魔術師としての足跡を残してきているのだ。

アピチャッポン監督による『MEMORIA メモリア』

では今回、東京で上映されるリー監督の編集作品4本に話題を戻したい。ただし、原稿を書いているのは映画祭前で、4作品に関して未見なので、内容に踏み込むことはできないため、余談を述べさせてもらう。なので予告編とも言えばいいだろうか。

まずアピチャッポン監督による『MEMORIA メモリア』は、第74回「カンヌ国際映画祭」コンペティション部門で審査員賞を受賞した。

「全編が南米コロンビアで撮影されたアピチャッポンの最新作。不気味な爆発音に悩まされつつ、ボゴタから山の中の小さな町へと旅するヒロインをティルダ・スウィントンが演じる」。

撮影監督は、アピチャッポン組でありつつ、ルカ・グァダニーノ監督作品『君の名前で僕を呼んで』(2017)、『サスペリア』(2018)などで、タイの国外でも活躍中のサヨムプー・ムックディプローム。サヨムプーの撮影、リー監督による編集の魔術を借りて、タイから遠く離れたコロンビア発の新たな実験映画により、アピチャッポン監督がいかなる驚きを届けてくれるのか楽しんでほしい。

そんなリー監督の編集といえば、アピチャッポン監督の作品群がまず思い浮かぶほど、2人は盟友で、リー監督は第3回東京フィルメックス最優秀作品賞受賞作『ブリスフリー・ユアーズ』(2002)から編集に携わっている。一方、リー監督の長編監督デビュー作『コンクリートの雲』(2013)には、アピチャッポン監督がプロデューサーとして名を連ねている
 
タイでもっとも権威のある映画賞で、タイのアカデミー賞と位置付けられるものとして「スパンナホン賞」があるのだが、この『コンクリートの雲』は、第24回スパンナホン賞の作品賞を受賞している。ちなみにスパンナホン賞作品賞における、リー監督編集作品の受賞率は驚異的で、以下のリストの★はリー監督が編集を担当した作品だ。

第24回から第29回の「スパンナホン賞」受賞作品
第24回作品賞 『コンクリートの雲』(2013)
・第25回作品賞 『フリーランス』(2015)ナワポン・タムロンラタナリット監督
第26回作品賞 『暗くなるまでには』(2016)アノーチャ監督
・第27回作品賞 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)ナタウット・プーンピリヤ監督
第28回作品賞 『別れの花 Malila: The Farewell Flower』(2017)アヌチャー・ブンヤワッタナ監督
第29回作品賞 『私たちの居場所』(2019)コンデート・ジャトゥランラッサミー監督

なんと、タイの映画会社「GDH559」が制作した2作品を除く、4作品で作品賞を受賞している。加えて、アピチャッポン監督作を含む彼が編集した映画も、カンヌをはじめとする国際映画祭での受賞数の多さも驚異的で、タイのみならず他の国の実験映画の創り手達が、この編集の魔術師に助力を求めるのは当然と言えるではないだろうか。

エドウィン監督による『復讐は神にまかせて』

続いてエドウィン監督によるインドネシア映画『復讐は神にまかせて』は、第74回「ロカルノ国際映画祭」最優秀賞(金豹賞)を受賞している。

「マッチョな荒くれ者の青年は、ケンカに強い女性と恋に落ちるが、実は性的不能のコンプレックスを抱えていた……。撮影は名手・芦澤明子」。 

この『復讐は神にまかせて』は、現在、『彼女はひとり』も公開中の芦澤明子撮影監督とリー監督、いわば日本の名手とタイの編集の魔術師2人が、インドネシアの監督と組んだ、国際色に富んだ野心作となっている。そして、リー監督に編集を依頼した、エドウィン監督にとって初長編作でもある。

ちなみにエドウィン監督の長編映画のリストは、以下の通りだ。
劇映画『空を飛びたい盲目のブタ』(2008)第4回大阪アジアン映画祭上映
劇映画『動物園からのポストカード』(2012)第25回東京国際映画祭上映
劇映画『舟の上、だれかの妻、だれかの夫』(2013)第29回東京国際映画祭上映
ドキュメンタリー映画『カット』(2016)山形国際ドキュメンタリー映画祭2017上映
劇映画『ひとりじめ』(2017)第13回大阪アジアン映画祭上映
劇映画『アルナとその好物』(2018)第14回大阪アジアン映画祭上映

このようにエドウィン監督の作品は日本の映画祭に愛されながらも、劇場公開までには至らなかった不遇な点で、本連載第1回で紹介した『ハッピー・オールド・イヤー』日本劇場公開前のナワポン監督と似ている。エドウィン監督は、映画『動物園からのポストカード』の作品解説で「シュールな味わいは健在」と書かれている通り、初期作はシュールかつ尖った実験映画だったため、日本の劇場公開にはハードルが高かったのかもしれない。しかし、映画『ひとりじめ』あたりから、尖りつつも娯楽映画としての醍醐味もミックスした作風へと変化した。そう、例えるなら、タランティーノに近づきつつある。

本作は、インドネシアの作家、エカ・クルニアワンによる同名のベストセラー小説が原作で、エドウィン監督との共同脚本である。この事実を知った時、エドウィン監督は目の付けどころがさすがだなと感心した。なぜならエカ・クルニアワンの唯一翻訳された長編小説『美は傷―混血の娼婦デウィ・アユ一族の悲劇』(新風舎文庫)が、ガルシア・マルケス『百年の孤独』へのインドネシアからの返答と言いたくなるほど、魅力をたたえた大河マジックリアリズム小説だったからだ。『復讐は神にまかせて』原作の日本語訳は出ていないが、英語訳の『Vengeance Is Mine, All Others Pay Cash (English Edition)』はアマゾンのKindleで購入可能である。

カミラ・アンディニ監督による『ユニ』

カミラ・アンディニ監督『ユニ』もインドネシア映画で、「トロント国際映画祭」プラットフォーム部門プラットフォーム賞を受賞した映画だ。

「高校の最終学年に通うユニ。彼女は自分自身に多くの可能性を見出しているが、ある出来事を機に、それが急激に霞んでいってしまう……。10代の少女が直面する葛藤を描いた、カミラ・アンディニの『見えるもの、見えざるもの』に続く3作目の長編作品」。

カミラ・アンディニ監督は、インドネシア映画の巨匠、ガリン・ヌグロホの娘で、彼女のパートナー、イファ・イスファンシャも監督(アクション映画『ゴールデン・アームズ 導かれし者』他)でプロデューサー(義父が監督した『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』他)である。

そんなアンディニ監督の長編映画のリストは以下の通りである。
劇映画『鏡は嘘をつかない』(2011)
・劇映画『見えるもの、見えざるもの』(2017)

『ユニ』は、リー監督に編集を依頼したアンディニ監督にとって初長編作となる。アンディニ監督の前作『鏡は嘘をつかない』は、12歳の少女パキス、『見えるもの、見えざるもの』は、寝たきりの双子の弟を看病する10歳の少女タントリと、両作とも主人公が10代前半だった。でも『ユニ』の主人公は、高校の最終学年で10代後半に年齢が上がっている。

インドネシア女性監督のパイオニアであるニア・ディナタ監督の新作、ディストピアSF映画『恋に落ちない世界』(2021)も10代後半の女性が主人公である。インドネシアの先鋭的な女性監督2人が最新作で、10代後半の女性を主人公にしている点は共通していて、とても興味深い。ちなみに、『ユニ』に出演している女優アスマラ・アビゲイルは、『恋に落ちない世界』にも出演していて、彼女はアンディニ監督の父であるガリン・ヌグロホ監督『サタンジャワ』(2016)では主演女優を務めている。

アンディニ監督は、「国際交流基金アジアセンター×東京国際映画」co-present「トークシリーズ@アジア交流ラウンジ」(10月 31日〜11月 7日)にて、映画『あのこは貴族』(2021)の岨手由貴子監督と対談予定である。さらに、前述したアピチャッポン監督も俳優の西島秀俊との対談が企画されているのでチェックしてほしい。 

ジャッカワーン・ニンタムロン監督による『時の解剖学』

ジャッカワーン・ニンタムロン監督の『時の解剖学』はタイ映画である。

「1960年代後半と現代のタイ。1人の女性の人生が時を隔てて描かれ、そこに国家の負の歴史が交錯する。『消失点』に続くニンタムロンの長編第2作」。

リー監督は、最新作の『時の解剖学』の編集を共同担当し、『消失点』では、リー監督はポストプロダクションスーパーバイザーを務めている。そして、『時の解剖学』と『消失点』の撮影監督は、第19回「東京フィルメックス」コンペティションに選出された、映画『マンタレイ』(2018)のプッティポン・アルンペン監督である。もちろん、この『マンタレイ』の編集もリー監督の仕事だ。

ちなみに去年のフィルメックスに関しては、本連載の第4回で紹介させてもらったが、今年はオンライン配信の試みがさらに進化していて、「プレ・オンライン配信」というものが、10月23日から始まっている。この「プレ・オンライン配信」対象作品には、ニンタムロン監督の『消失点』アンディニ監督の『見えるもの、見えざるもの』が含まれている。『消失点』も、『見えるもの、見えざるもの』も日本で劇場未公開なのだが、優れた作品なので配信をご覧いただきたい。

そして「プレ・オンライン配信」のもう1本は、カンボジアのニアン・カヴィッチ監督によるドキュメンタリー映画『昨夜、あなたが微笑んでいた』(2019)である。この作品でも、リー監督はポストプロダクションスーパーバイザーを務めている。 

つまり現在、編集の魔術師リー監督が活躍する場は、タイにとどまらず、ベトナム、インドネシア、カンボジアと広がっていて、東南アジア、さらにアジアへ編集のマジックを広げていると言える。今回の東京で上映4本は、そんな現状を反映している。

アジアを席巻する編集の魔術師リー・チャータメーティクン

以上、この秋、東京で上映される、編集の魔術師リー監督関連作品4本についてあれこれ述べさせてもらった。ただし、今回の東京の4本より1本多く、リー監督がかかわる作品を上映する映画祭がこのアジアに存在している。それは「釜山国際映画祭」である。

その多く上映された1本とは、本連載第8回で取り上げた、レ・バオ監督によるベトナム映画の『Vị (Taste)』(2021)だ。

ちなみに第8回の後、この実験映画をめぐって、以下のような動きがあった。
まず、ヌードシーンが原因で、ベトナムで映画局により正式に国内上映が禁止にされた。さらに、映画局は、「釜山国際映画祭」まで『Vị (Taste)』の上映中止を求める要請したが、釜山の主催者はこの要請を断っている
また、『Vị (Taste)』は「台北国際映画祭2021」インターナショナル・ニュータレント・コンペティション部門でグランプリを受賞した

もっとも、ベトナムの映画局がわざわざ国外の映画祭まで上映中止を要請してくる作品を、台湾、韓国同様に、日本の映画祭が上映する気概は持っているのだろうか。これは日本の映画祭における、実験映画に対する度量が試されているのかもしれない。

そして最後にもう1つ脱線を。『ユニ』のカミラ・アンディニ監督の新作企画『Before, Now & Then』が、「釜山国際映画祭」に併設されるアジア最大級の企画マーケット 「APM(アジア・プロジェクト・マーケット)2021」で、昨年度『走れロム』のフイ監督が受賞した、CJ ENM Awardを受賞した。韓国のCJ ENM Awardは娯楽映画のみならず、東南アジアのインディペンデント映画監督たちとの結びつきも強めている。
例年通りであれば、「APM2021」の企画の中から、編集の魔術師リー監督と組み、国際映画祭に挑戦する新たなアジアの実験映画(アンディニ監督は新作企画で組むのだろうか)が制作されることだろう。個人的には、それらの実験映画が、驚きと感動をもたらしてくれる日が今から待ち遠しい。

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コロナ禍での怪奇映画天国アジア:台湾編 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.9 https://tokion.jp/2021/08/29/a-film-trip-around-asia-vol9/ Sun, 29 Aug 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=55511 タイ、韓国、フィリピンをはじめとするアジア映画の隆盛とその作品や周辺文化を取り上げ、日本とアジアを比較する考察を織り交ぜながら、紹介する連載コラム。

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コロナ禍で海外旅行にはなかなか行けない現状だが、この夏、台湾映画の話題作が日本でぞくぞくと劇場公開され、雑誌でも台湾映画の現在といった特集が組まれている。

そこで今回は特に納涼の意味を込めて、連載第7回で触れた台湾映画『返校 言葉が消えた日』を取り上げつつ、新しい創り手達による台湾ホラー映画の世界を紹介したい。

2021年夏、日本で数多く公開される台湾映画作品

この夏は、台湾映画の話題作が日本でも数多く劇場公開されている。把握している限りでも、『1秒先の彼女』『親愛なる君へ』『返校 言葉が消えた日』『日常対話』『恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~』とあって、さらにマレーシアの映画だが、監督は台湾のトム・リン(『九月に降る風』など)による映画、『夕霧花園』もある。

映画『1秒先の彼女』の予告

映画『親愛なる君へ』の予告

映画『日常対話』の予告

映画『恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~』の予告

映画『夕霧花園』の予告

映画『返校 言葉が消えた日』の予告

これらの公開ラッシュに寄り添うように、7月末には雑誌『ユリイカ』では「特集=台湾映画の現在」も発売された。

私もこの特集に、「魏徳聖における日本統治時代のエンタメ化」という文章を寄稿している。今回は公開される台湾映画の中で、『ユリイカ』の台湾映画特集号でも表紙を飾った、『返校 言葉が消えた日』(以下、『返校』)を取り上げてみたい。

理由としては、第一に、この「魏徳聖における日本統治時代のエンタメ化」の最後で、『返校』について言及したからだ。第二に、連載第6回「コロナ禍での怪奇映画天国アジア:韓国映画編」で、引用した「Asian Movie Pulse」による「2020年アジアのホラー映画ベスト15」 に入った台湾の2作品のうちの1つで、第10位にランクインにしたのがこの『返校』だからだ。そう、2020年、アジアの怪奇映画界を席巻した韓国と、その韓国とコラボしたインドネシアによる、韓流ホラー強力タッグに対抗していたのが『返校』だった。第三に、連載第7回「バラエティとダイバーシティのフェス、大阪アジアン映画祭の魅力」でも、「今後、コロナ禍での怪奇映画天国アジア(台湾編)を書くとすれば、まずワン・イーファン監督の映画『逃出立法院』(2020)は、7月に日本公開予定の映画『返校』(2019)と並んで外せない注目作だ」と書いたからだ。そしてさらに第四に、この連載では極力、新人や次世代の映画人達を取り上げたいと考えているからだ。

東アジアの怪奇映画の伝統と革新が共存する映画『返校』

『返校』のジョン・スー監督は、2019年に開催された中華圏の映画の祭典「第56回ゴールデン・ホース・アワード」で最優秀新人監督賞を受賞している。

映画『返校』の舞台は、1962年、戒厳令下の台湾にある翠華高校。あらすじはオフィシャルサイトから引用した以下の通りである。

「放課後の教室で、いつの間にか眠り込んでいた女子学生のファン・レイシン(ワン・ジン)が目を覚ますと、なぜか人の姿が消えて学校はまるで別世界のような奇妙な空気に満ちていた。校内を1人さ迷うファンは、秘密の読書会のメンバーで彼女に想いを寄せる男子学生のウェイ・ジョンティン(ツォン・ジンファ)と出会い、力を合わせて学校から脱出しようとするが、どうしても外へ出ることができない」。

映画『返校』の原作は、台湾の赤燭遊戲(Red Candle Games)が開発したホラーゲームで、日本語版も販売され、人気声優・花江夏樹のYouTubeチャンネルでは、実況動画も配信されている。

ゲーム版、映画版ともに、東アジアの怪奇映画の伝統と革新が共存する内容になっていて興味深い。まず、伝統としては舞台が学校である点だろう。東アジアで怪奇映画と青春映画が交差する舞台として学校は欠かせない。台湾映画においても、現在、Netflixで配信中のギデンズ・コー監督による映画『怪怪怪怪物!』(2017)は、高校におけるイジメが背景となっている。余談だが、人気作家でもあるギデンズ・コーは、青春映画『あの頃、君を追いかけた』(2011)、新作『月老』(2021)も含め、ここまで高校時代にとらわれている創り手も珍しいかもしれない。

映画『月老』の予告

日本映画においては、『学校の怪談』シリーズ(1995~)、さらにアニメ映画を含めるなら、芥見下々『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』が原作である『劇場版 呪術廻戦 0』も控えている。加えて、韓国映画にも、『女校怪談』シリーズ(1998~)があり、『囁く廊下 女校怪談』(1998)はインドネシアで『Sunyi』(2019)というタイトルでリメイクされた。
東南アジアのタイドラマまで視野を広げるなら、Netflixの人気シリーズ『転校生ナノ』(2018~)も存在する。

学校という格差と鬱屈をはらむ場は、思春期の闇の部分を描く上で、犯罪映画と怪奇映画の舞台を提供してきたのだ。

台湾国民が抱える最大の恐怖体験、ある種のトラウマをホラー映画に昇華させた『返校』

次に、『返校』が東アジアの怪奇映画として革新的なのは、白色テロという国民党政権による、反政府勢力や共産主義者の排除という名目のもとに、思想や言論の弾圧、つまり、台湾国民が抱える最大の恐怖体験、ある種のトラウマをホラー映画に昇華させた点にある。私は、連載第6回「コロナ禍での怪奇映画天国アジア:韓国映画編」で以下のように述べた。

「この『圧縮された近代』は、韓国に繁栄とともにゆがみをもたらしており、このゆがんだ闇に怪奇映画のネタが転がっている。韓国に限らず、『圧縮された近代』経験を共有しているアジアの開発独裁国家、具体的には、インドネシアのスハルト政権下やフィリピンのマルコス政権下、タイの軍事政権下でも、怪奇映画は数多く製作されている。圧縮された近代のゆがみには、怪奇映画という妖花が咲き誇るのである」。

開発独裁政権下において、行き過ぎた思想や言論の弾圧、いわゆる「反政府勢力や共産主義者」に対する赤狩りは「圧縮された近代」の副産物で、台湾の白色テロのみならず、インドネシアの930事件、タイにおけるタンマサート大学虐殺事件など、他の国にも存在する。この赤狩りの恐怖体験と、開発独裁政権下の怪奇映画との影響関係については、今後、研究の余地がある領域なのだが、『返校』のゲーム版、映画版では、この赤狩りの恐怖体験を、間接的にではなく、直接的にホラー映画として昇華させた点が画期的だった。
なぜなら、ドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』(2012)、『ルック・オブ・サイレンス』(2014)で取り上げられたインドネシアの930事件のように、未だに国民の間でその歴史的評価をめぐって議論が紛糾する事件の場合、直接的にホラー映画の題材として取り上げるのは難しい。つまり、赤狩りをホラー映画の題材として取り上げる前提としては、開発独裁政権下の行き過ぎた思想や言論の弾圧を過ちとして反省する、現政権下での過去との清算が必要となってくる。したがって、『返校』は、アジアでは珍しい、台湾の開かれた民主主義政権だからこそ、可能になり得た革新的なホラー映画なのかもしれない。

メディアミックス展開が巧みな『返校』

また、『返校』の楽しみとしては、そのメディアミックス展開、世界観の広がりがある。まず、ゲーム版、映画版『返校』の30年後、1990年代の翠華高校が舞台のドラマ版『返校』(2020)がNetflixで配信中である。 

ドラマ版『返校』の予告

主人公である転校生リュウ・ユンシャンを演じた、リー・リンウェイは、2021年開催の第16回「大阪アジアン映画祭」で、映画『人として生まれる』の主人公を演じ、薬師真珠賞を受賞した、注目の女優である。
次に、このドラマ版は、ノベライズされ、『返校 影集小説』というタイトルで日本語でも文庫が発売されている。版元は、日本でメディアミックスを開拓した、あの角川書店である。
さらに、『返校』とは直接関係はないが、文藝春秋からは台湾モダンホラーの決定版、張渝歌による『ブラックノイズ 荒聞』も刊行される。日本版の帯文には「『リング』と『哭声/コクソン』を融合させた作品と地元メディアが絶賛!」と書かており、こちらも「台湾でドラマ化進行中」だそうだ。映画やドラマのみならず、台湾のホラー小説も日本で注目されつつあるのかもしれない。

そして、この台湾のホラー映画熱はしばらく冷めそうにない。例えば、連載第7回で触れた、ワン・イーファン監督による台湾の国会(立法院)が舞台の脱出ゾンビ映画『逃出立法院』(2020)は『ゾンビ・プレジデント』という邦題で、10月からの「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2021」で劇場公開予定である。同じく、台湾発のゾンビ映画でありながら、これぞ、コロナ禍での猛毒ホラー、カナダ出身のロブ・ジャバズ監督『哭悲(The Sadness)』(2021)の日本での劇場公開もしくは配信が期待される。さらに、映画版『返校』のジョン・スー監督は、新作『鬼才之道』を制作していて、先行の予告編が公開されている。

映画『哭悲』の予告

映画『鬼才之道』の予告

この予告編を観る限り、ホラーコメディのようだが、実際、本編を最後まで観てみないことにはわからない。加えて、「ゴールデン・ホース・アワード」最優秀新人監督賞をジョン・スー監督の次の年、2020年に受賞した、チャン・ジーアン監督による映画『南巫』もホラー作品である。

映画『南巫』の予告

この映画『南巫』は1987年、マレーシア北部のタイ国境近くの村が舞台で、ナ・ホンジン監督によるマレーシア版『哭声 コクソン』(2016)と呼ばれているそうで、日本での上映が待ち遠しい。

一方、当の韓国映画『哭声 コクソン』のナ・ホンジン監督は、プロデューサーとしてタイのホラー映画の巨匠バンジョン・ピサヤタナクーン監督(『心霊写真』など)と組んだホラー映画『ランジョン』(2021)を完成させ、韓国でこの夏、公開された。

映画『ランジョン』の予告

さらにこの『ランジョン』は、第25回「富川国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)」で、Best of Bucheon賞を受賞した注目作である。タイトルの「ランジョン」とは、タイ語で“シャーマン”“巫女”を意味し、イサーン(=東北タイ)でシャーマニズムが脈々と受け継がれている巫女家系をめぐる映画だそうで、『南巫』と合わせて、アジアの怪奇映画における南方の“巫”ブームを予感させる。

アジアの新人映画監督達の登竜門としての役割果たす怪奇映画

話を台湾映画に戻すと、近年の「ゴールデン・ホース・アワード」最優秀新人監督賞は、
2017年 映画『大仏⁺』 ホアン・シンヤオ監督
2018年 映画『薬の神じゃない!』 ウェン・ムーイエ監督(ただし中国映画)
2019年 映画『返校』
2020年 映画『南巫』
で、神仏、そして怪奇映画の受賞が続いている。

『大仏⁺』と『薬の神じゃない!』はコメディだが、新人監督達が宗教や怪奇に関連した映画で受賞しているのは、近年の中華圏、台湾映画の特徴の1つかもしれない。話をもう少しを広げるなら、香港映画のニューウェーブにおいて、あまり注目されていないが、アン・ホイ監督は『瘋劫』(1979)、『撞到正』(1980)を、ツイ・ハーク監督は『カニバル・カンフー 燃えよ! 食人拳』(1980)を撮り、タイ映画ニューウェーブにおいても、ノンスィー・ニミブット監督は『ナンナーク』(1999)を、さらに、『ランジョン』のバンジョン・ピサヤタナクーン監督は『心霊写真』(2004)を撮ったように、アジア映画の新潮流において、怪奇映画も映画の新人達の登竜門としての役割を担ってきた。
もっとも、台湾ニューシネマにおいては怪奇映画の影は薄いのだが、怪奇映画というジャンルは意外にも、映画の新人達をカルト映画の創り手として有名にする魔法と夢を秘めている。

日本でも、『HOUSE ハウス』(1977)の大林宣彦監督、『鉄男』(1989)の塚本晋也監督、田口トモロヲ、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督がその例だろう。
そして、アジア映画ではないが、『ヘレディタリー/継承』(2018)、『ミッドサマー』(2019)のアリ・アスター監督は、アジアの若き怪奇映画人達にとってもロールモデルかもしれない。もし映画人の青田買いをしたいなら、長編デビュー作としての怪奇映画は狙い目で、怪奇映画のにぎやかさは、新しい映画人達の活発さを測るバロメーターと言えるだろう。

本連載で、怪奇映画を頻繁に取り上げる理由の一端もここにある。以上、この夏、『返校』から広がる新しい創り手達による台湾ホラーの饗宴(競演)を見逃すのはもったいないとあえて主張したい。そして、日本も、今後、『劇場版 呪術廻戦 0』、そしてTVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編、『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』『チェンソーマン』と控えているので、にぎやかさでは負けていない。韓国、台湾、日本を中心とする、アジア発、怪奇映画の饗宴(競演)新時代(三国志?)、楽しみである。

TVアニメ『チェンソーマン』の予告

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ベトナム、香港のインディペンデント映画という熱波 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.8 https://tokion.jp/2021/06/22/a-film-trip-around-asia-vol8/ Tue, 22 Jun 2021 01:00:24 +0000 https://tokion.jp/?p=39015 アジア映画の隆盛とその作品や周辺文化を取り上げ、日本とアジアを比較する考察を織り交ぜながら紹介する連載コラム。

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7月9日から日本で劇場公開が始まるベトナム映画『走れロム』を中心に、ベトナムのインディペンデント映画黄金世代である、1990年世代について、さらに映画『カム・アンド・ゴー』(2020)のリム・カーワイ監督が主催する、第2回「香港インディペンデント映画祭」について紹介したい。

日本での劇場公開も始まるベトナムインディペンデント映画黄金世代監督の1人、チャン・タン・フイ

連載第5回で紹介した映画『海辺の彼女たち』が5月から劇場公開が始まり、全国で続々と上映が決まっていてよかったと思う。
「個人的には海外、特にベトナムでも公開されることを期待している」と書いたあと、『海辺の彼女たち』の主演俳優である、ホアン・フォンが主演している別の映画『Invisible Love』(2021)が、「パリ国際映画祭」で、最優秀女優賞を受賞したという記事がベトナムのメディアで報じられた。これをきっかけに、『海辺の彼女たち』もベトナム公開が進むかもと期待すると同時に、ベトナムで全編ノーカットのまま上映可能だろうかと一抹の不安も覚えた。なぜなら、現行のベトナムの検閲制度では、『海辺の彼女たち』のような社会の現実を真正面から映せば映すほど、検閲に引っ掛かる可能性が高くなるからだ。

チャン・タン・フイ監督による映画『走れロム』(2019)の予告編

7月から日本で劇場公開されるチャン・タン・フイ監督によるベトナム映画『走れロム』(2019)は、第24回「釜山国際映画祭」ニューカレンツ部門(新人監督コンペティション部門)最優秀作品賞受賞作だ。しかし、ベトナムで劇場公開するにあたり、ベトナムの国家映画検閲委員会によって審査され、国内の社会悪を反映した一部のシーンの編集・カットを指示された後、レーティングをC18 (18禁)にされ、ようやく劇場公開が許可された。今回、日本で公開されるバージョンも、ベトナムで公開されたバージョンである。そしてこの『走れロム』は、第5回で、以下のように言及した映画だ。

「フイ監督の長編デビュー作『Ròm』(2019)は、ホーチミン市の路地で死に物狂いに生きる少年を主人公にした劇映画で、こちらも手持ちカメラによる映像が印象的だ。ちなみにフイ監督が1990年生まれ、藤元監督が1988年生まれと、年も近い。藤元監督とフイ監督には、演出においてリアリティを重視し、社会の片隅で忘れられたひとびとのドラマをすくい取ろうとする意志の共通性を感じる」

映画『走れロム』は、サイゴン(ホーチミン市)生まれのフイ監督が故郷の街、路地を舞台にした映画だ。あらすじは以下の通りである。公式サイトから引用する。

「活気に満ちたサイゴンの路地裏にある古い集合住宅。多額の借金を背負う住民達は、大金が当たる“闇くじ(デー)”に熱中している。14歳の孤児ロムは、宝くじの当選番号の予想屋として生計を立て、生き別れた両親を捜すための資金稼ぎを心の拠り所にしている。ライバルの予想屋フックは野心家で当選の確率も高く、ロムとフックはいつも競い合っていた。そんな中、地上げ屋から立ち退きを迫られ追い詰められた住民達は、ひたむきに予想と向き合うロムを信じ、借金をすべて返すために一攫千金の賭けに出る」。

個人的に『走れロム』を一文にまとめるなら、
「主人公のロムがサイゴン(ホーチミン市)の通り、路地(サイゴンだと、Hẻm)を七転び八起きして、とにかく走りに走る映画である」。
原題の『Ròm』は、やせっぽちという意味なので、邦題はこの走る要素を強調している。『走れロム』は、フイ監督のホーチミン市映画演劇大学の卒業制作である短編『16:30』(2012)の続編にあたる作品で、『16:30』はロムが孤児として生き抜くために闇くじの世界に参入していく様子を映している。ロムは2作品を通じて、フイ監督の9歳下の実弟、チャン・アン・コアが演じている。

『16:30』は英語字幕版ではあるが、動画共有サイトVimeoのフイ監督のページに、無料公開されている。

チャン・タン・フイ監督による映画『16:30』(2012)

ちなみにフイ監督のVimeoページは、充実していて、『16:30』の前の短編で集合住宅をめぐる幻想譚『Đường Bi』(2011)やCM、ミュージックビデオなどが視聴できる。ただし、ベトナムで2020年にもっとも視聴されたミュージックビデオ第2位で、大人気歌手JACKの『Là 1 Thằng Con Trai』の動画に関しては、Vimeoより、歌詞の日本語字幕が表示できるYouTubeのほうがおススメである。

フイ監督が手掛けたJACKのMV『Là 1 Thằng Con Trai』

フイ監督に続くベトナムインディペンデント映画黄金世代監督、レ・ビン・ザン

レ・ビン・ザン監督による映画『KFC』(2016)の予告編

ベトナムインディペンデント映画にとって、1990年生まれは黄金の世代だ。フイ監督と同じ1990年生まれだと、日本では劇場未公開だが、レ・ビン・ザン監督がいる。ザン監督は、今のベトナム映画監督の中で“クセがスゴい”監督かもしれない。
ザン監督の長編デビュー作『KFC』(2016)は、食人と復讐をテーマにした血みどろの問題作で、2017年の「ニューヨーク・アジアン映画祭」において、もっとも期待される監督賞を受賞している。次に、ザン監督は、南部メコンデルタを舞台にした、ベトナムで最初のシリアルキラーが主人公になった呪術映画『Thất Sơn Tâm Linh』(2019)を監督交代後に、完成させている。

レ・ビン・ザン監督による映画『Thất Sơn Tâm Linh』(2019)の予告編

さらにフイ監督の短編映画のエンディングロールを眺めていると、ザン監督が『Đường Bi』では編集、『16:30』では助監督を担当していたことがわかる。
ザン監督は1990年、中南部ニャチャン生まれで、フイ監督とはホーチミン市映画演劇大学の仲間でライバルだった。2020年には、フイ監督ともに、釜山国際映画祭併設企画マーケット「Asian Project Market(APM)」に参加して、
・ [CJ Entertainment Award]: Tick It /Tran Thanh Huy / Vietnam
・ [ArteKino International Prize]: Who Created Human Beings /Le Binh Giang / Vietnam, Singapore
2人そろって受賞している。APMを競い合った作品には、深田晃司監督の『LOVE LIFE』もある。そして、このザン監督の『Who Created Human Beings』は、「ロカルノ映画祭」のOpen Doors Hub 2021にも選出された。もっともこの『Who Created Human Beings』も、APMの公式HPでのあらすじを読む限り、かなりの問題作であることが予想される

「シンは殺人事件を捜査していた。頭のない死体が見つかり、その胃の中には別の人間の頭が入っていたのだ」。

デヴィッド・フィンチャー監督作、『セブン』(1995)のような凝った変死体が出てきて、検閲の厳しいベトナム国内でどう撮影、制作できるのか、こちらが心配になる内容だ。

まだまだいるベトナムインディペンデント映画を支える黄金世代監督

チュオン・ミン・クイ監督による映画『樹上の家』(2019)の予告編

ベトナム映画黄金世代の他の監督には、「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」2021、そしてアテネフランセ「ベトナム映画の現在」で上映された、中部高原を舞台にしたSF+エスノグラフィー映画『樹上の家』(2019)を監督したチュオン・ミン・クイ監督がいる。第13回「恵比寿映像祭」(2021)の「モノグラフ2020―アジア・エッセイ映画特集①―モチーフ」では、ベトナムの国策戦争映画における兵士の死を考察した短編『デス・オブ・ソルジャー』(2020)が上映された。
さらに、「ベルリン国際映画祭」Encounters部門のthe Special Jury Prize受賞作で、ホーチミン市のスラム街に住むナイジェリア人サッカー選手を主人公にした映画『Vị (Taste)』のレ・バオ監督もいる。

レ・バオ監督による映画『Vị (Taste)』(2021)の予告編

クイ監督は、中部高原の都市バンメトート生まれ。バオ監督は、サイゴン(ホーチミン市)生まれである。つまりベトナム映画黄金世代である4人の監督は、旧ベトナム共和国、いわゆる南ベトナムだった地域の出身者で、さらにベトナムでの活動拠点がサイゴンという点で共通している。フイ監督とザン監督以外にも、彼ら4人はそれぞれに協力関係を持っていて、フランスのヌーヴェルヴァーグ、香港新浪潮(ニューウェイヴ)、そして、台湾新電影(ニューシネマ)を彷彿とさせる。

例えば、クイ監督はザン監督の『KFC』で編集を担当している。クイ監督とザン監督は、ホーチミン市映画演劇大学の同じクラスだったが、クイ監督は中退し、ザン監督も卒業しなかった。クイ監督は、友人であるレ・バオ監督の新しいフィルムを心待ちにしていると「シンガポール国際映画祭」で応えている

また、レ・バオ監督の『Vị (Taste)』の撮影監督を務めたグエン・ヴィン・フックは、フイ監督の短編『Đường Bi』からの仲間で、『走れロム』まで撮影も担当している。さらに、フックはザン監督の『KFC』『Thất Sơn Tâm Linh』の撮影も担当している。また、『Vị (Taste)』の編集担当は、アピチャッポン監督作の編集で知られるタイの名手、リー・チャータメーティクン監督だが、彼はフイ監督『走れロム』の編集担当者でもある。

余談だが、リー・チャータメーティクン監督に関して、彼が編集した映画の特集を組めば、21世紀東南アジア映画のインディペンデント映画の最良作品群を観ることが可能だろう。

新たにスタートするアジアのインディペンデント映画と出会える日本の映画祭

幸い、7月から『走れロム』が日本で劇場公開されることで、1990年生まれのベトナム映画の黄金世代のうちの2人、フイ監督とクイ監督の代表作が日本で上映されることになる。残りの2人、ザン監督とレ・バオ監督の作品の日本公開は待たれるものの、アジアのインディペンデント映画が上映される機会を見つけるのは、日本といえどもなかなか厳しいのが実情かもしれない。実際、昨年、クイ監督の映画『樹上の家』、さらに、連載第2回で紹介したタイの奇才、アノーチャ監督を特集上映し、アジアのインディペンデント映画を30年にわたって紹介してきた、「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」は、令和3年3月31日をもって実行委員会を解散、映画祭も終了してしまった。日本でアジアのインディペンデント映画と出会える映画祭の1つが失われてしまった。

しかし、その状況に一石を投じる映画祭が6月下旬から始まる。大阪シネ・ヌーヴォ、京都出町座、名古屋シネマスコーレの順で開催される2021年第2回「香港インディペンデント映画祭」である。主催者は、連載第5回で紹介した大阪梅田をめぐる群像劇映画『カム・アンド・ゴー』(2020)のリム・カーワイ監督だ。

「前回の映画祭が開催された2017年からコロナ禍が起きる2020年まで、ここ数年間の社会と政治状況の激変に対応して、香港の現状を誠実に描いた劇映画とドキュメンタリー映画も数多く作られたが、その多くが商業映画ではなく自主映画だ。映画業界の自己検閲もあり、残念ながらそれらの映画は香港の劇場でも一般公開までには至っていない。2020年の『ロッテルダム国際映画祭』では、香港で上映されなかった政治的なテーマを扱った自主映画の特集が組まれ、国際的にも大きな反響を得たが、日本ではまだ1本も紹介されていない」。

上映される作品は、2014年の“雨傘運動”から2019〜2020年香港民主化デモまで“香港の真の姿”を描きだす日本初上映のインディペンデント映画全18作品で、京都出町座ではさらに、長編5本・短編2本を加えた、計25作品が上映される

2019年の抵抗運動で香港理工大学が包囲された様子を描いたドキュメンタリー映画『理大囲城|理大圍城|Inside the Red Brick Wall』(2020)、

香港ドキュメンタリー映画工作者による映画『理大囲城|理大圍城|Inside the Red Brick Wall』(2020)の予告編

香港を代表するゲイの映画作家、サイモン・チュン監督の最新作『あなたを思う|看見你便想念你|I miss you, when I see you』(2018)、

サイモン・チュン監督による映画『あなたを思う|看見你便想念你|I miss you, when I see you』(2018)の予告編

そして、文藝春秋から翻訳も出版されているミステリー『逆向誘拐|Napping Kid』(2017)など、バラエティに富んだ香港映画が目白押しである。

アモス・ウィー監督による映画『逆向誘拐|Napping Kid』(2017)の予告編

リム監督は、「映画業界の自己検閲もあり、残念ながらそれらの映画は香港の劇場でも一般公開までには至っていない」と書いていたが、残念ながら、6月11日に香港政府は、市内で公開されるすべての映画を検閲し国家安全維持法に基づく違反行為を取り締まると発表した
ベトナムは以前から映画法に基づきすべての映画が検閲されている。『走れロム』は検閲後、修正版が劇場公開されたものの、多くのインディペンデント映画は劇場公開に至っていない。

香港、ベトナムのインディペンデント映画は、ともに「社会主義的な国家体制と対峙する自主独立性」「間違っていると思うことは批判する反骨心」、そして、それらを支える「若者たちの情熱」という共通点を持っている。
このあたりは香港とサイゴンに共通する国家の中心である首都からの距離、さらに、広東語と香港人のアイデンティティ、ベトナム南部方言と南部人のアイデンティティなどの土地柄(ローカリティ)の歴史が結びついているかもしれない。日本でさまざまな国のインディペンデント映画が上映される機会が多くなること自体、強権的な政府が検閲により隠蔽しようする問題を白日の下にさらすことになり、観客に権力、自由そして生活について再考する貴重な機会を提供している、と個人的には思う。

今後、民主化を求める運動のゆるやかなネットワーク「ミルクティー同盟」(Milk Tea Alliance)が広がっている国と地域、具体的には、香港、台湾、タイ、そしてミャンマーのインディペンデント映画が、日本で数多く紹介されることを期待している。

現時点で『走れロム』は、北海道から宮崎まで広く上映される予定だが、「香港インディペンデント映画祭」のオフィシャルツイートによれば、
「実は名古屋シネマスコーレの開催後、東京での開催は予定されていないです。どうなるかわからないが、とりあえず今の所、大阪、京都、名古屋で見るしかないです。申し訳ございません」
とのことで、少し惜しい気がする。

映画『走れロム』(原題:『Ròm』)
7月9日より、ヒューマントラストシネマ渋谷他、全国順次公開
監督:チャン・タン・フイ
プロデューサー:トラン・アン・ユン
出演:チャン・アン・コア、アン・トゥー・ウィルソンほか
日本語字幕:秋葉亜子
提供:キングレコード
配給・宣伝:マジックアワー
https://www.rom-movie.jp/

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バラエティとダイバーシティのフェス、大阪アジアン映画祭の魅力 連載「ソーシャル時代のアジア映画漫遊」Vol.7 https://tokion.jp/2021/03/07/a-film-trip-around-asia-vol7/ Sun, 07 Mar 2021 11:00:45 +0000 https://tokion.jp/?p=22164 タイ、韓国、フィリピンをはじめとするアジア映画の隆盛とその作品や周辺文化を取り上げ、日本とアジアを比較する考察を織り交ぜながら、紹介する連載コラム。

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Netflixが、韓国作品に520億円を大規模投資して制作を強化するそうだ。前回の執筆時よりも、さらに韓国映画界が盛り上がりそうな気配である。今回は、連載開始当時から注目している「大阪アジアン映画祭」を取り上げる。
「第16回大阪アジアン映画祭(以下、OAFF2021)」が、3月5日~14日に開催されている。「大阪アジアン映画祭」と言えば、
連載第1回で、
「映画祭を評価する基準はさまざまだが、その基準の中には、上映作品から劇場公開された作品の割合(映画祭出塁率)、さらに、上映作品からヒットもしくは大ヒットした割合(映画祭打率)も含まれる。そして、これら映画祭出塁率、映画祭打率の高さでは、大阪アジアン映画祭は日本でも有数の映画祭と呼べるだろう」
と書いた映画祭である。
さらに今回は、「大阪アジアン・オンライン座」(2月28日~3月20日)で、過去の上映作品が初めてオンラインで配信される。そこで今回は、これら大阪アジアン映画祭での上映&配信作品を、これまでの連載で取り上げた作品とトピックに関連付けて紹介したい。

台湾とインドネシアの怪奇映画の上映

連載第6回では韓国製の怪奇映画について取り上げたが、OAFF2021は台湾の怪奇映画が充実している。もし今後、コロナ禍での怪奇映画天国アジア(台湾編)を書くとすれば、まずワン・イーファン監督の映画『逃出立法院』(2020)は、7月に日本公開予定の映画『返校』(2019)と並んで外せない注目作だ。内容は、日本の国会にあたる台湾の立法院でゾンビが増殖し、全面隔離された主人公である議員と彼の秘書が、地獄と化した立法院から逃げ出すことができるのか、というパンデミックアクションコメディである。
さらに、オンライン座では、チェン・ホンミン監督の映画『関公VSエイリアン(デジタル・リマスター版)』(1976)が配信される。関公とは『三国志』の関羽のことで、UFOに乗ったエイリアン達が香港を襲撃し、その強大なエイリアン達に追い詰められるひとびと。その窮地に主人公が彫った関羽像が巨大化し、エイリアン達と闘うのだ。大映の人気特撮シリーズ『大魔神』+SF映画といった内容で、香港のパン・ホーチョン監督が版権を購入してデジタル修復した。そして今回、海外初上映となったそうだ。

また、第6回の最後に、コロナ禍での怪奇映画天国アジア(インドネシア編)の予告を書いたが、OAFF2021では気鋭のインドネシア人監督、テディ・スリアアトマジャによる初の怪奇映画『苦しみ』(2021)が上映されている。テディ監督に関しては、監督へのインタビュー「インドネシア社会のタブーに鋭く切り込む テディ・スリアアトマジャ監督の『今』」に詳しく書かれている。オンライン座では、テディ監督の代表作である映画『ラブリー・マン』(2011)が配信される。トランス女性が主人公となっている作品だ。現在のインドネシアでは、性的少数者に関する映画を製作、公開するのは難しく、今では貴重な作品でもある。

ベトナムのインディペンデント映画にもフォーカス

連載第5回では、移民大国日本の現実を切り取る多国籍多言語映画として、映画『海辺の彼女たち』(2020)と『カム・アンド・ゴー』(2020)の2本を取り上げた。OAFF2021では、この2本が大阪で初上映。さらに『海辺の彼女たち』を手掛けた藤元明緒監督と同世代で共通性を感じると書いた、ベトナムのチャン・タン・フイ監督の長編デビュー作『走れロム』(2019)も上映される。しかも、上映スケジュールが、同じ会場で、『海辺の彼女たち』が3月9日の16時20分、『走れロム』が同日の18時35分と並んでいる。もし担当の方がこの連載を読んでくれていたとしたら、粋な配慮である。『走れロム』をご覧になる前に、同作の前日談に当たる短編『16:30』(2012)がYouTubeで公開されているので、事前に視聴しておくとおもしろさも増すことだろう。

『16:30』(2012)

『走れロム』のフイ監督、プログラム《短編C》に入っている『エジソンの卒業』のファム・ホアン・ミン・ティ監督は、2月にアテネ・フランセ文化センターで上映された「ベトナム映画の現在」の若手監督達と仲間であり、彼/彼女らがベトナム映画の未来を担っている。このコロナ禍で、ベトナムのインディペンデント映画監督達と、藤元監督やインディ・フォーラム部門の監督達が大阪での交流の機会を持てなかったことを残念に思う。
今回、ベトナムからもう1本、キャシー・ウエン監督によるC18(18禁)フェミニスト・スリラー映画『姉姉妹妹』(2019)も上映される。この『姉姉妹妹』の解説は、私が書いたので参考になれば幸いである。

バラエティとダイバーシティを体感できる「大阪アジアン映画祭」

「大阪アジアン映画祭」の魅力の1つは、検閲によって修正も入る尖ったインディペンデント映画『走れロム』と、ベトナムのポップスター、チー・プーが出演している娯楽映画『姉姉妹妹』の両方が上映されるというバラエティの豊かさだろう。加えて「大阪アジアン映画祭」には、昨年話題を集めた韓国映画『はちどり』のように、アジアの女性映画人達、そして女性達の絆を描くシスターフッド映画を積極的に紹介しようとする、暉峻創三プログラミング・ディレクターの意志を感じる。今回公開のベトナム映画では、『姉姉妹妹』を手掛けたウエン監督と、『エジソンの卒業』のティ監督が女性である。そしてオープニング作品となった、マン・リムチョン監督による香港を代表する女性監督であるアン・ホイ監督に関するドキュメンタリー映画『映画をつづける』(2020)。モンゴル映画『ブラックミルク』(2020)のウィゼマ・ボルヒュ監督は、2016年に「来るべき才能賞」を獲った女性監督である。また、台湾映画『愛・殺』(2021)のゼロ・チョウ監督は、オープンリー・レズビアンの映画監督でもある。さらに、『海辺の彼女たち』も外国人技能実習制度で来日した3人のベトナム女性達を主人公にした、シスターフッド映画でもある。つまり「大阪アジアン映画祭」のもう1つの魅力は、バラエティと同時に、ダイバーシティ(多様性)にあると考える。
バラエティとダイバーシティ、すなわち、「雑」(いろいろなものが入りまじっていること)を愛でるフェスティバルが、「大阪アジアン映画祭」なのだ。バラエティとダイバーシティという点で、「大阪アジアン映画祭」の会場、梅田近辺が舞台になったリム・カーワイ監督による映画『カム・アンド・ゴー』(2020)は、「大阪アジアン映画祭」を象徴する1本かもしれない。


『カム・アンド・ゴー』(2020)

タイとフィリピンで注目の新作映画も配信中

連載第3回で取り上げた過去作品を無料配信している、フィリピンの映画会社「TBAスタジオ」からは、JPハバック監督による新作『こことよそ』(2021)が上映。この映画は、コロナ禍でロックダウン中のマニラが舞台のリモート・ラブ映画である。JPハバック監督の長編デビュー作『I’m Drunk, I Love You』(2017)は、「TBAスタジオ」のYouTubeチャンネルで全編無料公開中だ。

『I’m Drunk, I Love You』(2017)

そして、連載第1回で取り上げたタイの兼好法師、ナワポン監督作品の映画会社GDH556からは、メート・タラートン監督による詐欺師コメディ映画『愛しい詐欺師』(2020)が上映される。メート・タラートン監督は、コメディ映画のヒットメイカーで、過去の「大阪アジアン映画祭」において、2013年にベトナムでもリメイクされたコメディ『ATM エラー』、2015年に蒼井そらが出演した『アイ・ファイン、サンキュー、ラブ・ユー』が上映され、「来るべき才能賞」を受賞している。このコロナ禍という逆境にめげず、フィリピンの「TBAスタジオ」、タイのGDH556が新作映画を作り続けていて嬉しくなる。
さらにオンライン座では、タイ映画から、トニー・ジャー主演の『トム・ヤム・クン!』(2005)や、Netflixで配信中のドラマ『転校生ナノ』の脚本家の1人、コンデート・チャトゥランラッサミー監督による『P-047』(2011)が配信される。コンデート監督も、かつてのナワポン監督同様に日本での劇場公開には恵まれていないが、タイでは評価の高い監督だ。ちなみに、コンデート監督は、ナワポン監督の映画『マリー・イズ・ハッピー』(2013)に教師役で出演している。個人的には、コンデート監督の青春映画はおすすめで、タイ・アカデミー賞と呼ばれる、スパンナホン賞の第23回で、最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀助演男優賞の4賞を受賞した映画『タン・ウォン~願掛けのダンス』(2013)や、BNK48のジェニスとミュージックの共演したシスターフッド映画『私たちの居場所』(2019)など、日本で劇場公開されていないのが惜しいと感じている。『私たちの居場所』も、今年の2月末に発表された第29回スパンナホン賞で最優秀作品賞を受賞している。コンデート監督が最優秀監督賞、出演のミュージックが最優秀助演女優賞、さらに最優秀脚本賞、最優秀編集賞、最優秀作曲賞も受賞し、6冠を達成している。

以上、これまでの連載と関連した作品に絞って紹介したが、上映作品全63作品、製作国と地域が23におよぶので、すべては紹介しきれない。ちなみに昨年のOAFF2020で話題になった、日本在住のインド人、アンシュル・チョウハン監督による映画『コントラ』(2019)は、3月20日から劇場公開が始まる。また、2020年に観客賞を受賞作したデレク・ツァン監督による映画『少年の君』(2019)の劇場公開も控えている。

『コントラ』(2019)

すなわち、「大阪アジアン映画祭」の熱気は1年経ったくらいではおさまらないのだ。このアジア映画の「雑」、バラエティとダイバーシティを体感できるアツい祭りに参加しないのはもったいない。オンライン配信だけでもぜひ参加してみてほしい。

Pictures provided OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL

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