VHS収集と過去のMV制作――歴史と景色へ向けるその視点について 映像作家としてのVIDEOTAPEMUSIC 前編

VIDEOTAPEMUSICは2つの顔を持っている。1つは最新作『The Secret Life Of VIDEOTAPEMUSIC』(2019年)などのアルバムを発表してきた音楽家としての顔。もう1つは、ceroや坂本慎太郎、キセル等のミュージックビデオを手掛けてきた映像作家としての顔だ。今回のインタビューでは、国や社会という大きな主語からこぼれ落ちる「小さな物語」に目を向けてきた映像作家としてのVIDEOTAPEMUSICにフォーカス。前編となる今回は、活動開始の頃の話から坂本慎太郎「悲しみのない世界」のミュージックビデオの裏話まで、これまで世にほとんど出てこなかったエピソードを交えながらじっくり話を聞いた。

「VHSだったら自分が動けば動くほどいろんなビデオを観れた」

――VIDEOTAPEMUSICさん(以下、VIDEOさん)はいつ頃から映像に関心を持つようになったんですか?

VIDEOTAPEMUSIC:子どもの頃から古い特撮映画が好きで、初めて映像を作ったのは高校生の時です。友達のminiDVのビデオカメラを借りて、バスター・キートンみたいなスラップスティックの映画を作りました。

――その後、美大に進学して映像制作を本格的に始めることになるわけですよね。大学3年生だった2004年にはVIDEOTAPEMUSICとしての活動を始めています。

VIDEOTAPEMUSIC:当時はどのレンタルビデオショップでもVHSが大量にたたき売られていて、僕の行きつけだった玉川上水駅(東京都立川市)のレンタルビデオショップなんかも、紙袋3袋に入れ放題で1000円みたいな閉店セールをやってました。その素材をかき集めて曲を作り始めたという感じですね。ヒップホップのDJだったらレコードを買いますけど、レコードショップは都心や大きな駅に行かないとないし、当時の自分にとっては手を出しにくい高級品ってイメージがありましたね。レンタルビデオショップは今では考えられないくらい郊外に無数にあったので、VHSのほうが身近だし値段も安いと感じていました。

――名作映画であればその後DVD化されたり、ネットで観れたりするようになったわけですけど、VIDEOさんが当時かき集めていたものの中には、そのVHSがなくなってしまえば歴史から抹消されるようなものもたくさんあったわけですよね。例えばプライベートビデオであるとか。

VIDEOTAPEMUSIC:そうしたビデオの持つ意義について考えるようになったのはもっとあとのことですね。集めていくにつれて、もしかしたらこれは何か意味があるんじゃないかって。それがたぶん2010年くらいだと思う。2009年にCDRを円盤(東京・高円寺のレコードショップ)に持ち込んだんですよ。それから急激にライヴに誘ってもらえるようになったんです。ライヴの感想をいろんな人に言ってもらえるようになって、自分がやっていることを客観的に捉えるようになった。

――YouTubeにはあまり関心が向かなかった?

VIDEOTAPEMUSIC:そうですね。YouTubeにはVHS以上にプライベートな映像も上がっているし、そこに可能性を感じた時期もあったんです。でも、YouTubeから何かを集めてくるのは、僕以外の誰かもやるんじゃないかと思っていました。中古VHSだったらお店に行かないと買えないので、自分が動けば動くほどいろんなビデオを観れたし、身体的な移動距離と得ることのできる情報量が比例すると思っていて、そのプロセス自体をぼんやりと信用してきたところがあるんです。

――VHSの質感に対するフェティシズムみたいな感覚もあったんでしょうか。VIDEOさんの作品にはVHS的な質感が取り込まれていて、それがVIDEOさんの作家性につながっていますよね。

VIDEOTAPEMUSIC:質感に対するこだわりはあるけど、ただ、VHSの質感が一番だとは思っていません。VHSの質感だからこそ魅力が増す映像と、良さが失われてしまう映像はありますからね。例えばエドワード・ヤンの『牯嶺街少年殺人事件』のような映画はVHSで観ても、(画面が暗すぎて)何が映ってるかわからないと思うし。一方では、鮮明すぎないところに引かれてきたところはありますね。宇川直宏さんは「ノイズには精霊が宿る」と発言してましたけど、その感覚には僕も影響を受けています。映画『リング』(1998年)とかもはやったじゃないですか。ホラー映画って人々がその時代、何に対して恐怖を感じているかが如実に現れると思うんですけど、VHSのノイズの向こうから貞子が現れる恐怖感というのは、時代の感覚としてあったと思う。

――プライベートビデオ特有の怖さもありますよね。再生するまで何が映っているかわからないという。

VIDEOTAPEMUSIC:そうそう。僕もリサイクルショップで買ってきた誰のかわからない結婚式のビデオを興味本位で観たりするわけですけど、怖くなってくる瞬間があるんです。もうこの世にいない人が映っているかもしれないし、観ちゃいけないものを観てるんじゃないかって。自分の中では好奇心と罪悪感との戦いでもあるんです。リサイクルショップで買ってきたあとに体調が悪くなると、これは呪いなんじゃないかと思うこともあって(笑)。

――人のプライベートな領域まで踏み込むという意味では、民俗学のフィールドワークにも近いですよね。どこまで踏み込んでOKか、VIDEOさんの中で線引きはあるんですか?

VIDEOTAPEMUSIC:線引きは時と場合によって常に揺れ動いていますね。あとになってこれはやっぱりダメだったかもと反省する時もあるし。最終的には感覚的な話になってしまうのですが。著作権的なものとは別の線引きで「これはやめておこうかな」という瞬間もあるんです。本能的なものというか。レコードをサンプリングしていてそういう感覚になることは少ないですけど、映像は顔が見えるので、その分リアルに怖さを感じることがあるんです。それに、この間長野県塩尻市のリサイクルショップに行った時は、農家の家計簿が売ってたんですよ。すごく詳細に書いてあって、ちょうど塩尻市のことをリサーチしていたのでその内容に興味はあったんだけど、その時は買って帰れなかった。あまりに生々しくて。日記が売られてることもあるんですよ。

――日記はさすがに……。

VIDEOTAPEMUSIC:そうなんです。

過去のミュージックビデオの制作背景

――初めて手掛けたミュージックビデオは何だったんですか?

VIDEOTAPEMUSIC:僕もよく対バンしていた真美鳥というバンドがいるんですけど(現・Mamitri Yulith Empress Yonagunisan)、そのバンドをやってる岩永忠すけさんの「サマーマウンテンサマーシー」(2009年)という曲のビデオをアニメーションで作ったのが最初です。電子アシッドフォークみたいな曲で、アルバムもすごくいいんですよ。今でも聴くぐらい大好きで。大学の時はテレビ番組やCMなど既存の映像を手描きでトレースしたアニメーション作品ばかり作ってたんですよ。普段何気なく見ているテレビの映像の1秒30フレームの中では実際に何が行われているのかを自分の身体を使って把握するために、そこに映っているものを1コマずつ描いていったんです。このMVもその延長でVHSのノイズも含めて手描きしました。

岩永忠すけ「サマーマウンテンサマーシー」

――それ以降、たくさんのミュージックビデオを手掛けてきましたよね。アーティストの世界観と自身の作家性の折り合いについてどう考えているんでしょうか?

VIDEOTAPEMUSIC:基本的には各アーティストの世界観を意識して作っているので、そこに現れている僕の作家性は漏れてしまったものだと思います。「VIDEOTAPEMUSICっぽいものを作ってくれ」というオファーだったらそういう作家性も遠慮なく出せるんですけど。キセルの「富士と夕闇」(2017年)は曲の世界観に合わせて作りましたが、その中にほどよく自分の作家性も漏れている形かもしれません。ceroの作品も何本も作ってますが、基本的には曲の世界観に寄せているつもりなんですよ。逆にMVを手掛けた曲が後の僕の作品に影響を及ぼすパターンもありますね。

キセル「富士と夕闇」

――坂本慎太郎さんの「悲しみのない世界」(2015年)は葛西(東京都江戸川区)の埋立地で撮影したそうですね。

VIDEOTAPEMUSIC:葛西を中心にいろんな場所で撮ってますね。町の記号性ができるだけない場所で撮りたいなと思って。あと、遠くからズームレンズでめちゃくちゃ寄って撮ってるんです。カメラでズームした映像って実際の人の視覚とは違う画角の映像になるじゃないですか。人の視点というよりも神の視点に近いものを撮ろうと。

坂本慎太郎「悲しみのない世界」

――すごい発想!

VIDEOTAPEMUSIC:“神の視点”という表現が正しいかわからないけど、人ではない何かが見ているような感じにしたかったんです。そういう撮影方法が可能な抜けのいい場所で、なおかつ看板みたいに記号的要素が入らない場所ということで葛西を選びました。

――脱色されたような映像の質感も独特ですよね。これはどうやって作ってるんですか?

VIDEOTAPEMUSIC:VHSのダビングを繰り返していくと赤みから抜けていくんです。人の肌が白くなっていって、だんだん幽霊みたいになっていく。水彩画の逆というか、どんどん色を抜く作業をしてるんですよ。VHSの質感と視点のこだわりが一番うまく融合したと思っていて、自分の中では(映像作家の仕事としては)これがベストだとずっと思っています。

――埋立地という場所からそこまでイメージを膨らませていくのはすごいですね。

VIDEOTAPEMUSIC:埋立地といえども、埋め立てられてから何十年もたっているわけで、それだけの歴史はあるわけですよね。このビデオは埋立地のような場所を100年後から見返しているような感覚があると思います。埋立地にノスタルジーを重ね合わせているというか。

――odd eyesの「熱波」(2018年)では茨城県鹿嶋市の工業地帯だったり、VIDEOさん自身の「Sultry Night Slow」(2016年)では西東京の団地だったりと、コンクリートに囲まれた場所をたびたび撮影地に選んでますよね。なぜそういう場所にカメラを向けるんでしょうか?

VIDEOTAPEMUSIC:そういう場所に引かれてしまうんですよね。「ここは僕が撮らなくても誰かが撮るだろう」という場所にカメラは向けないですし。人間のプライベートなものを撮りたい反面、人間を飲み込んでいく巨大なものに引かれるところもあって。ジャ・ジャンクーの映画が好きなんですが、彼の作品からの影響もあるのかもしれない。人よりも背後に広がる景色が何かを語っている、そんなカットを撮りたいんです。

odd eyes「熱波」
VIDEOTAPEMUSIC「Sultry Night Slow」

VIDEOTAPEMUSIC
東京都生まれ。地方都市のリサイクルショップや閉店したレンタルビデオショップなどで収集したVHS、実家の片隅に忘れられたホームビデオなど、古今東西のビデオテープをサンプリングして映像と音楽を同時に制作している。近年ではさまざまな土地を題材にしたフィールドワークを行いながらの楽曲制作や、国内外のアーティストとの共作なども行っている。VHSの映像とピアニカを使ってライブをするほか、ミュージックビデオの制作、VJ、DJなど幅広く活動。映像作家としてはceroやCRAZY KEN BAND、坂本慎太郎らアーティストの映像も手掛ける。
kakubarhythm.com/artists/videotapemusic

2021年6月9日には配信シングル「Funny Meal」をリリースする。

■VIDEOTAPEMUSIC One Man Show“アマルコルド”
会期:2021年8月6日
会場:日本橋三井ホール
住所:東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町 5階
時間:OPEN 18:00/START 19:00
入場料:¥4,500

Photography Tetsuya Yamakawa

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author:

大石始

世界各地の音楽・地域文化を追いかけるライター。著書・編著書に『奥東京人に会いに行く』(晶文社)、『ニッポンのマツリズム』(アルテスパプリッシング)、『ニッポン大音頭時代』(河出書房新社)、『大韓ロック探訪記』(DU BOOKS)、『GLOCAL BEATS』(音楽出版社)他。最新刊は2020年12月の『盆踊りの戦後史~「ふるさと」の喪失と創造』(筑摩書房)。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」主宰。 http://bonproduction.net

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