テイ・トウワが語る、ハードコアなレコード偏愛とその結実たる新作のこと

音楽活動30周年を迎えたテイ・トウワが、記念すべき通算10作目のスタジオ・アルバムを発表した。タイトルは『LP』。いうまでもなく、LPとは直径12インチのアナログ盤のことであり、それはテイ・トウワという音楽家のキャリアを象徴するメディアでもある。2020年はいつにも増してレコードを買い漁り、その偏愛ぶりをみずから再確認したというテイ・トウワ。今回はそんな彼に最新作『LP』のこと、そしてアナログ・レコードに注ぐ過剰なまでの愛情を語ってもらった。

レコードを聴き、レコードを作ることが僕の仕事

——『LP』の制作は2019年から始まっていたそうですね。

テイ・トウワ(以下、テイ):ええ。当初の予定では2020年前半にこのアルバムを出して、あとは別の仕事に集中するつもりだったんです。並行してサウンドトラックを作ることも決まってたし、2020年はスケジュール的にもけっこう無理しなきゃいけない感じだったんですけど、それが昨年2月以降はいろんなことができなくなっちゃって。結果的にはじっくり取り組めたんですけど、かといって時間をかけすぎるのもよくないので、『LP』とサントラの制作は2020年のうちに終わらせようと思ってました。

——DJなどの活動にも制約がかかる中、制作に没頭した1年だったと。

テイ:自分が持っているファンクションの中でいま機能できることは、作ることしかなかったんです。要は早い段階で諦めたんですよね。2020年に起きたことは、言ってしまえば産業革命みたいなことだから、今からこれを元に戻そうという考え方は違うのかもしれないなと。それで僕はDJ休止ということにしたんですけど、もしこれが毎週末にレギュラーでやってた頃だったら、かなりキツかったと思う。だから、いつか元に戻ると信じて粘り強く頑張ってる人の気持ちはよくわかりますし、やっぱりクラブに行けないのは残念ですよね。普段はヘッドフォンでしか爆音で聴けない人達にとって、身体が震えるくらいの爆音で音楽が聴ける環境というのはやっぱり貴重だし、それが日常からもぎ取られてしまったのは、本当に辛いと思う。そういう点でいくと、僕はまだよかったというか。

——というのは?

テイ:クラブほどの爆音ではないにせよ、自分にはそれなりに大きな音でレコードを聴ける環境があるし、正々堂々とそれが仕事だと言えますからね。レコードを聴き、レコードを作ることが僕の仕事。それに、こうして取材を受けてると「コロナの影響はありましたか?」と聞かれるんですけど、そもそもコロナだろうとなんだろうと、人生において自分に関係ないことなんて何もないんですよ。僕は自分の身体で濾過したものをアウトプットしているだけなので、もちろん制作にコロナの影響はありました。ただ、この『LP』自体に影響があるかというと、はっきり言ってないですね。

新作はすべてDJやレコードにちなんだ曲でできている

——アルバム最後の曲「NOMADOLOGIE」についてはいかがですか? タイトルもさることながら、哀愁を帯びたアンビエントにコロナ禍の2020年を感じました。

テイ:このタイトルは実体験に寄せてますね。というのも、昨年の非常事態宣言が出ていた時期に、タクシーで六本木から西麻布を移動したことがありまして。いつもにぎわっていた街には人が全然いないし、どこの店にもテイクアウトの張り紙があって、これはちょっと見たことがない光景だなと。それから東京の部屋に戻ってすぐにシンセで作ったのが、あの曲なんです。当初は別の曲をアルバムのエンディングにする予定だったんですけど、こういう曲も2020年らしくていいかなと思って、最後の段階で差し替えました。なんというか、これが2020年のテイ・トウワの心象風景だったのかなと。

——「NOMADOLOGIE」には、Natural Calamityの森俊二さんがギター、METAFIVEでもテイさんと活動を共にするゴンドウトモヒコさんがフリューゲル・ホーンで参加しています。

テイ:この曲はゴンさま森さまとのトリオで作ったんです。それもほぼ即興に近い感じなんですけど、2人とも僕がイメージしていた音を素早く返してくれて、ちょっと他にない曲になりましたね。

——冒頭からビートの効いたアップリフティングな曲が続いて、最後に「NOMADOLOGIE」が流れてきたときはハッとしました。

テイ:オフィシャル・インタビューをしていただいた小野島大さん曰く、いわゆるクラブ系のアーティストが2020年にリリースした作品はアンビエントが多かったらしいですね。僕もその気持ちはよくわかりますし、ちょっとしたシンクロニシティも感じました。とはいえ、ビートのない音楽自体は過去にも出してますからね。『FUTURE LISNING!』(1994年リリースのデビュー作)の 「Raga Musgo」もそうだし、カセット2台で多重録音を始めた16歳の頃なんて、そもそもアンビエントかミニマルしかできなかったので。

——確かに。

テイ:ただ、基本的に僕はDJとして社会に出て以来、ずっとリピート・ミュージックを作ってきた人間ですから。アンビエントで1枚作ろうという気持ちはまったくなかったし、基本的に今回はどれもDJやレコードにちなんだ曲なんです。たとえば「RINGWEAR」なんかはそのままで、要は加齢したレコード・ジャケットのことですね。僕はリングウェアの付いてるレコード・ジャケットが好きなんですよ。あとはそれこそ「NOMADOLOGIE」もそう。今頃みんな家でレコード聴いてるんだろうなぁと。

——4曲目「MAGIC」の歌詞には“My Yellow Magic”という言葉もありますね。

テイ:僕が初めて買ったLPはYMOの『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』だったんです。僕にとってはそれが音楽を好きになるきっかけだったし、そのLPが透明なイエロー・ヴァイナルだったこともふと思い出して、これは歌詞に使いたいなと。

TOWA TEI WITH HANA – MAGIC

ハードコアなレコード教徒として“満点”のアルバムが作れた

——制作が始まった時点で、アルバム・タイトルも決めていたんですか?

テイ:いや、そんなことはなくて。『LUCKY』から今作にかけて、タイトルの文字数がひとつずつ減ってきていることにふと気付いたので、だったら今回は2文字だなと(笑)。それで当初はフォルダ名に仮で「TT10」と書いてたので、今回のタイトルは「10」でもいいかなと思ってたんですよ。それこそ僕はデジタルで音楽を作ってますし、「All or Nothing」みたいな感じでいいかなと。

——なぜそれを『LP』に変えたのでしょうか?

テイ:なんていうか、ここにきてレコードへの偏愛がますます密になった気がしたんですよね。誰かと会食することもなく、ずっとステイホームで過ごしていてるうちに、おのずとレコードを買ったり聴いたりする時間が増えていって、気付いたら自分の愛情がすべてレコードに向かっていたんです。

——テイさんのお話を聞いてると、アナログ・レコードへのフェティッシュな愛情を感じます。

テイ:確かにこれは性癖みたいなものだと思う。たまにはデータで買ったりもしますけど、やっぱりアナログがあるとそっちに手が伸びちゃうんです。多分それはDeee-Liteの頃から変わってないんじゃないかな。それこそ当時はジャケットのデザインもLP用が先だったし、LPはキャンバスとしてもいいんですよね。なんていうか、もはや僕はレコード教徒なんですよ(笑)。便利なCDやMP3に洗脳されてた時期もありつつ、『LUCKY』あたりでまた本来の自分に戻って、晴れてまた僕はハードコアなレコード教に入信したんです。

——(笑)。レコードへの偏愛が詰め込まれた作品として、今作は『LUCKY』以降の到達点だと感じました。

テイ:僕もここでチャプターが1つ区切られたような気がしてます。草間彌生先生にデザインしていただいた『LUCKY』のLPは僕の家宝ですし、それ以降のジャケットをお願いしてる五木田智央くんも、アナログ一辺倒な人ですからね。というか、いま思うと僕をレコード教に再入会させたのは五木田くんだったのかもしれない(笑)。レコードを聴いてる時間は他のことなんて何も考えなくていいし、特に今回の『LP』はヴィジュアルも含め、レコードとして満点に近いものが作れたと思う。これを聴いている40分間くらいは、みんなにもコロナのことを忘れてもらいたいですね。

テイ・トウワ
1990年にDeee-Liteのメンバーとして、アルバム『World Clique』で全米デビュー。現在、10枚のソロ・アルバム、3枚のSweet Robots Against the Machine 名義、METAFIVEのファースト・アルバム等がある。その他に、2013年9月から現在に到るまで、東京・青山にあるINTERSECT BY LEXUS -TOKYOの店内音楽監修。2020年に音楽活動30周年を迎えた。2021年3月に10枚目のオリジナル・ソロ・アルバム『LP』をリリース。
http://www.towatei.com
Twitter: @towatei

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author:

渡辺裕也

1983年生まれ、福島県二本松市出身。音楽ライター。ミュージック・マガジン、クイックジャパン、CINRA、ザ・サイン・マガジン、音楽と人、MUSICA、ナタリー、ロッキング・オン、soupn.など、さまざまなメディアに寄稿。 Instagram:@watanabe_yuya_

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