#映画連載 doooo 世界を虜にしている人肉アイテムのルーツでもあるマッドでポップなB級映画

映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。本連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介する。

若い世代を中心に大きな支持を得ているクリエイティブ集団、CreativeDrugStoreに所属するDJ・プロデューサーのdoooo。彼が生み出すのは、人肉MPCをはじめとした人肉サイコロや人肉小銭入れ、人肉印鑑など、さまざまな人肉アイテムだ。これが、SNSを介し世界的に話題を集めており、その人気はロサンゼルスのセレブの間でもバズっているほど。

dooooが生み出す音楽や人肉アイテムは、中毒性が高く、一度ハマると抜け出せなくなってしまう。その彼のクリエイティブのルーツはB級映画だという。dooooの独創的な感性を育てたB級映画と魅力とは。マッドでポップな世界観の源泉に迫る。

地上波では決して放送できないB級感がたまらない

初めてB級映画を観たのは小学5年生の頃でした。兄の影響で観た『オールナイトロング』という映画がキッカケ。女の子がアキレス腱を切られてしまうシーンが強烈で、地上波では観ることがない描写に強い衝撃を受けたのを覚えています。
その後中学生になり、僕の周りでは『人肉饅頭』のような怖いタイトルの作品がはやっていて、そういった映画を友達と集まって観るようになったんです。TVでは放送できないぐらい過激だけど、思わず笑ってしまう違和感があったり、遊び心があったりするB級映画もメジャーな映画と同じくらい好きかもって思うようになったんです。今回はそんなB級映画の中でも特に好きな作品を紹介させてください。
(※「B級映画」の定義はさまざまあるかと思いますが、この場ではメジャーな作品ほど知られていない映画のことだと思ってください。大雑把ですみません)。

ホラーだけど思わず笑ってしまう

まず紹介したい映画は『バスケットケース2』です。1980年代初頭に話題を集めたカルトホラー映画『バスケットケース』の続編です。シャム双生児として生まれた異形の兄、ベリアルと弟、ドウェインの物語。その兄弟が異形の姿に理解ある人と出会い、一緒に暮らし始めるのですが、その家には他の異形の姿の人がたくさんいて……という物語です。

1作目は異形の兄、ベリアルのビジュアルが安っぽかったり、コマ撮りで動きを見せていたりと、最近の映画と比べると作り物感がハンパないのですが、しっかりとホラームービーに仕上がっていてこれはクラシックだなという印象でした。

それに比べてこの2作目は、ちょっとふざけているように見えるというか。ホラー描写の中に兄弟愛も濃く描かれていて、心打たれるストーリーになっているのですが、その一方で振り切ったビジュアルの異形のひとびとが大暴れして思わず笑ってしまう。僕はこのアンバランスな感じとシュールさがすごい好きで、2作目のほうが1作目より印象に残っていました。本当に観る人を怖がらせようとしているのかもしれないのですが、観る人が観れば笑ってしまう。ちょっとふざけた要素も入れようとしたのか、それとも本当にホラー映画を作ろうとしていたのか、製作者の意図を想像するのも楽しいです。

笑えるシーンばかりなのにカッコイイ

次は『ゴールデン・ヒーロー 最後の聖戦』。現在、『週刊SPA!』に『少年イン・ザ・フッド』を連載中でさまざまな映像を手掛けるなど、おもしろいモノをたくさん生み出しているGhetto Hollywood(SITE)さんにお借りしたVHSです。お家に遊びに行くといつもいろいろな作品を観せてくれるんですけど、その中でも特にインパクトが強くて。

ゴールドのアクセサリーを着け過ぎて死んだ弟の事件をきっかけに、街を牛耳るマフィアを追う兄の物語です。この「金の着け過ぎで死んだ弟」というトリッキーな設定からわかる通り、めちゃくちゃふざけている映画です。

作中では絶対に公の場では使ってはいけない表現・描写が多く、さらに『ランボー』や『燃えよドラゴン』『エクソシスト』といった有名映画のパロディもたっぷりで、笑えるシーンが盛りだくさんです。そうかと思えば銃撃戦はしっかりやっていたり、BGMやシーンの1つ1つがカッコ良かったり、エンディングではラッパーのKRS ONEが登場していきなりラップを始めたり、すごく見応えがあります。ふざけながらも当時の社会のことを良い塩梅に取り入れているように見えて、そこにも魅力を感じました。

ちなみにVHSのパッケージの前面に大きく写っている2人組は敵の小悪党で、主人公は帯の部分に小さく写っています。

『ゴールデン・ヒーロー 最後の聖戦』と『バスケットケース2』は、ストーリーもおもしろいです。世間一般でB級映画と評される映画って、ストーリーが退屈なものもあるかと思います。そんな映画を観る時、僕はおもしろそうなシーンまで早送りするということもたくさんあって、そういった作品は正直どんな話なのかしっかりわかってないです。でも造形のこだわりだったり、シーンを観て感じる強烈なインパクトだったり、そういうところをまた観たくなってしまうので、B級映画は気になってしまうのだと思います。

不気味さの中にあるカッコよさが魅力

最後は、日本の映画『深夜臓器』を紹介します。これは兄と閉店直前のレンタルビデオ屋さんに行って購入した作品で、第2回インディーズムービー・フェスティバルの入選作品です。自主制作の映画なので画質が荒く、手作り感もあり普段あまり目にしない独特な雰囲気が出ています。主人公が深夜にTVをつけると、奇妙な白塗りの顔の男が司会者のクイズ番組が突然始まり、クイズに正解すると大金がもらえ、間違えるとカードに書かれた体の一部や臓器が奪われるというストーリー。テレビに映った回答者は体の一部を奪われながらも頑張ってクイズに答えようとしますが……。と、最近もマンガやドラマにあるようなデスゲームものに近いのかなと思います。

冒頭に監督の山口洋輝さんのインタビューがあるのですが、そこで「僕なりに不気味さの中にあるカッコよさを表現した」って言ってるんです。
僕が好きな作品や僕が作る音楽も「ドープとポップ」や「マッドとポップ」みたいなのがキーワードになることが多いので、勝手に共感してしまいました。

今も昔も存在しているサイコホラーなゲームの映画ですが、制作当時は今と比べて世にあふれてなくて、よりこの作品がすごかったんじゃないかなと思います。それに加え、印象に残るブルーが強い色味や暗い画面だったり、やり過ぎなくらいのキャラクターなど、自主制作だからこそカッコいいと思える部分がたくさんありました。

話は変わりますが、お気に入りだったり一生懸命作ったクリーチャーやCGをしつこいくらい見せる、これきっとB級映画あるあるだと思います。僕はかなり見せたがりなので、みなさんもそうであってくれと思っているだけかもしれませんが……(笑)。

今回は全体的にクオリティの高い作品を選びましたが、「クオリティの高さ」と「おもしろさ」はイコールではないと思います。B級映画はストーリーがめちゃくちゃでも製作チームの熱意が伝わってくるというか、とにかく本気でやりきってる作品が多いんです。B級映画に限ったことではないかもしれませんが。
予算が少なくて使いたい機材がそろわなくても、製作に関わる人数が少ないとしても、アイデアやセンス、パワープレーでやりきってる。だからこそバランスが崩れたり、デタラメな感じがあったりするんですよね。でもそこに中毒性があるのがB級映画の良いところかなと思います。

僕が作っている人肉アイテムのルーツは、そんなB級感がある映画なんです。一番影響を受けているのは『ザ・フライ』という人間とハエが融合してしまう映画なんですけど、「人間と何かが合体するのっておもしろいな」って観て思ったんです。その時ちょうど僕の1stアルバムを作っていて、そのアルバムを発表する際に、僕という人間を音楽以外で伝える方法として考えたのが、人肉MPCなんです。一番使っている機材MPC2000XLとSFやホラーが好きという一面が伝わればいいなって。

B級映画のすべてが直接インスピレーションになっているわけではないのですが、発想や根本的な部分ではルーツになっています。
例えば、質感で言えば『バスケットケース2』に出てくるような重厚感のあるキャラクターが好きなんですけど、作品を観ると、どこか抜け感があってポップな面がある。音楽でも同じで、変な音やおどろおどろしい音を使う時は、メロディはキャッチーでわかりやすく、親しみやすくすることを意識してみたり。人肉アイテムを作っている時も同じですね。一見、ドープなんですけど、どこかキャッチーで親しみやすいというか。その部分は崩さないようにしています。

昨年の自粛期間中に人肉アイテムを使ったストップモーションアニメーションを作ったんです。撮影、編集、音楽などすべて1人で行って、制作時間は1作品2~3週間ぐらい。最新の技術を取り入れて作られた人肉アイテムが登場するけど、映像自体はずっと昔からあるストップモーションアニメーションで作られている。そういった部分は、B級映画特有の変なバランスがあるんじゃないかなと思います。

音楽も人肉アイテムもストップモーションアニメーションも夏以降発表していく予定ですので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。

Photography Yuta Kono
Text Takao Okubo

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doooo

岩手県出身。13歳の時、兄の部屋から流れてきたアイスキューブを聴きヒップホップに出会う。クリエイター集団、CreativeDrugStoreに所属し、さまざまなアーティストにトラック提供を行っている。2016年、自身初となる12インチレコード『STREET VIEW / PURPLE FLOWER』をリリースし、シングル曲ながらも¥2,000という高値で販売したために各方面から批判を浴びる。2017年11月に1stアルバム『PANIC』をリリースした際も、ジャケットに人肉MPCを使用し、リスナー達から引かれる。2020年に「MOTHER FACTORY」を立ち上げ、人肉小銭入れなど人肉アイテムの販売を開始し、一部のマニアから絶大な支持を集める。その他に嫁の肩もみや買い物の手伝いなども精力的に行っている。 Instagram:@doooo_cds Twitter:@44dooooo https://www.doooobeats.com

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