松本壮史×三浦直之 『サマーフィルムにのって』から見る、青春と映画の引力関係

ドラマ「お耳に合いましたら。」(テレビ東京)や映画『青葉家のテーブル』など新作が続く松本壮史監督は、劇団ロロを主宰する三浦直之と、2017年の『デリバリーお姉さんNEO』(テレビ神奈川、GYAO!)を皮切りに、松本自身が作詞を手掛けた江本祐介の曲「ライトブルー」やサニーデイ・サービスの「卒業」などのミュージックビデオなどで、コラボレーションを重ねてきた。そして「最高に熱い青春映画を作りたい」という思いから、長編映画の制作に着手。完成した『サマーフィルムにのって』は、時代劇と勝新太郎を熱烈に愛する高校3年生の女子ハダシ(伊藤万理華)が、未来からやってきた凛太郎(金子大地)等仲間達と映画制作に打ち込む夏を描く。この青春映画の傑作について、松本と三浦にインタビューを行った。2人はこの作品に何を込めたのか? この長編映画は2人のキャリアにおいてどんな位置付けなのか? そして彼等にとって青春とは?

“王道の青春映画”で描いた、仲間達と好きなものを追求する学生達

ーー本作では、昔の時代劇が好きなハダシが、凛太郎と作った映画を、話が進むにつれて未来の人にも観てほしいという気持ちになっていきます。ひと夏の物語の中に、過去、現在、未来が描かれている脚本が素晴らしかったです。どのように作っていったんですか?

三浦直之(以下、三浦):プロットはなるべくシンプルに、王道の青春映画にしようと思いました。仲間を集めて一緒に「何か」を成し遂げるような。その「何か」のアイデアを投げあった中で、女子高生が時代劇を撮るのがおもしろそうだな、となりました。今の高校生が過去の時代劇を見るまなざしと、未来から今を見るまなざしが重なるのがいいんじゃないかと。

松本壮史(以下、松本):さらに言えば「過去から未来へ」何かを残すという行動のベクトルは、映画作りそのものに重なると思い、「いける!」と確信しました。

ーーハダシの時代劇に対する「好き」という気持ちが物語の原動力になっています。好きなものに熱中する人達を描くと、青春映画になるのでしょうか?

松本:なると思います。そもそも今回の企画が、恋愛以外の何かに熱中する子、というところから始まっています。

ーーということはお2人も、青春の中にいるということ?

松本:そうだと思います。創作活動はわりと青春に近いのかなと、常に思ってはいます。

三浦:僕の表現に対する原動力も「あの作品良かったなー!」「あれやりてー!」という気持ちが大きい気がします。いろんな映画や小説、漫画に触れた10代の頃に、好きな映画に出会うと、その監督の他の作品を観て、出演者を知って、批評を読んで、その批評家が紹介している別の作品を観てと、どんどん世界が広がっていったんです。自分より下の世代にもそういう体験をしてほしくて、創作している部分は大きいです。

松本:三浦さんとは好きなものが近くて、出会ってすぐに、好きなもののベスト5の話を朝までしたんです。どこかのバーで。

三浦:ランキングを話すのがすごく好きなんですよね(笑)。

松本:好きな漫画ベスト5とか。あの時、すごく楽しかったんですよね。好きなものがかぶったりして。三浦さんと一緒だと、自分と感覚の近い人とちゃんとものを作れる喜びを感じます。僕等の「好き」が、ハダシの時代劇や映画への「好き」に変換されているだけで、わりと自分達の話に近いのかなと、今話しながら気付きました。

ーーそれなのに、今作が「俺達の物語」というように閉鎖的になっていないところがすてきです。

松本:「俺達の物語」にしたくなかったというのはあります。

三浦:僕もです。男性の映画愛を描く感じにはしたくない、という意識はありました。

ーーだからハダシも、ライバルの映画監督・花鈴も女の子だったのでしょうか? 映画監督は今でも男性のほうが圧倒的に多いという現状を踏まえて。

松本:監督が女の子というのは自然な成り行きでした。「絶対そうしたい」ではなく。

三浦:昔自分達が好きだった青春ものが、ホモソーシャルなノリに対する距離感をどう描くかが重要だったことも関係していると思います。

松本:僕は高校が男子校だったんですけど、ホモソーシャルな世界がずっと合わなくて。映像の現場は今でもホモソーシャル的なもので成り立っているところが多くて、僕は本当にそれが苦手で。最近では、自分の現場では男女比が偏らないように心掛けています。そっちのほうが風通しが良くて、作品自体も抜けがよくなっています。そんな理由から、女性をリーダーに選んだのかもしれません。

「お互いにわかっている良さ、これまでに培ったものを今作に全部つぎ込んだ」(三浦)

ーー本作に注ぎ込んだお2人の「好き」なものとはなんでしょうか?

三浦:完成したものを観て、自分の好きなものや好きなやりとりを、そのまま使ってもらえていることに感動しました。脚本を書く時って、自分の頭の中で聞こえるやりとりをセリフに起こすんですけど、映像作品は他の人が監督するから、自分の頭の中でのリズム感と全然違うんです。そこに楽しさもあるんですけど、しっくりこないことも多くて。でも、松本さんが撮ると「そうそう! このリズムだよね!」という感動があったし、逆に「こっちのリズムのほうがすごくいいわ!」という喜びもありました。あと、松本さんの時間の移り変わりを表現するこだわりが、この映画にとって重要なものになっているなと思いました。松本さんが、「音楽が流れている中、同じ画角で時間がポンッ、ポンッ、ポンッと飛んでいくシーンが好きだ」とおっしゃっていて。

松本:そういうの、めちゃめちゃ好きです。

三浦:青春映画ってなんなんだろうと考えると、限られた時間を描くことなので、そういう表現ととても親和性が高いと思うんです。ポンッと時間が飛んだ時に、人間の関係性の変化を表現できる。そういう一瞬一瞬の積み重ねが、この映画を支えているなと思います。

松本:部室でハダシ達が映画の編集作業をするシーンは、三浦さんとやってきた「ルールの中で関係性が変わっていく」という表現の集大成になったと思います。

ーールールとは?

松本:今回でいうと、「カメラの位置を変えずに日々を描く」ということです。元々の脚本上では「編集をする」というト書きしかないんですけど、役者達もアイデアを出してくれて、ワイワイ楽しいシーンになりました。すごく好きです。

三浦:画面の中のこっちとそっちの細かいところで複数の物語が進んでいるのが松本さんぽいんです。

ーー「卒業」のミュージックビデオでも、固定した風景の中で、季節と人間関係が変わっていきました。

三浦:そうですね。いくつか一緒にやってきたから、お互いにわかっている良さ、これまでに培ったものを今作に全部つぎ込もうという感じはありました。

松本:20代の終わりに三浦さんと出会って、30代初めにこの映画を作り始めて。その期間のベスト盤という気がしています。

三浦:僕も一緒です。言い方が難しいんですけど、映像作品の脚本に参加させてもらえることはありがたいんですけど、思ったような映像にならないこともあって。もしかしたら自分には映像という表現手段が合ってないのかもと、自信を持てていなかったのですが、『サマーフィルムにのって』を観て、すてきな映画だと純粋に思えたことにすごく感謝しています。こういうものを一緒に作れたことは、自分にとって大きな財産だと思います。映像ももうちょっとやれるかもなとも思えました。

「最初に話し合いをした時の『最高だな!』という熱量で最後まで走れました」(松本)

ーーお2人の作品には女子高生や制服がよく出てきますが、そこについての距離感を聞かせてください。

松本:確かに、自分の作品を振り返ると女子高生が多いので、考えちゃいますね。

三浦:考えちゃいます(苦笑)。自分が30半ばにさしかかってきて、「10代の話ばっかり作ってる……」って悩んだりします。

松本:めっちゃわかります。「女子高生」「制服」「キラキラ」を、結果的に記号的に消費しているように見えるのは問題だなと思ったりします。だから10代の映画はこれが最後、くらいのつもりです。

三浦:僕もそうです。

松本:個人的な話をすると、僕は、特にアメリカの監督が初期に撮った青春映画がすっごい好きなんです。ウェス・アンダーソンの『天才マックスの世界』やグレタ・ガーウィグの『レディ・バード』、デヴィッド・ロバート・ミッチェルが『イット・フォローズ』の前に撮った『アメリカン・スリープオーバー』も。決して多くない予算で撮る90分台のティーンムービーは、映画を作るなら最初にやるべきなのかなとなんとなく思っていました。この監督達がその後撮っていないように、青春映画はずっと撮り続けるものではないと思っています。

三浦:僕の作る作品は「幼い」という感想をもらうことが多くて、自覚もあります。そこが僕の中の課題です。

松本:めちゃくちゃわかる……。

三浦:僕はロロのメンバーと一緒に歳を重ねていくので、10代の話を書き続けた場合、みんなが40、50代になった時にそれを演じられるのかが問題になってきます。僕はロロのみんなとやっていきたいし、この人達に役を書くことが創作の大きなモチベーションなので、そういう意味でも大人にならなきゃなと思っています。僕がロロでやってきた「いつ高シリーズ」も完結しましたし。

松本:僕は若い感覚で作られた作品に引かれることが多いんですけど、最近はずっとそれだけでいいのかな、これ以外の引き出しってあるのかな、という自分に対する疑いがあって。でも、その年齢だから撮れるものというのは絶対にある。それを『サマーフィルムにのって』で撮れたので、今後は大人にならないとな、とは思います。だからいつか、ホモソーシャルな関係性を描く作品も作らなきゃいけないとは思っています。一方で、若い感覚も失いたくないという気持ちもあるので、どう生きていけばいいのかという話になっていくんですけど。

ーー「いい年して……」と自分でブレーキを踏みそうになることってありますか?

三浦:しょっちゅうあります(笑)。

ーーそれでもやる時とやめる時の違いは?

松本:「最高だな!」と思ったらやるようにしています。『サマーフィルムにのって』も最初に話し合いをした時の「最高だな!」という熱量で最後まで走れました。この映画を撮っている時は、「いい年して」とは全く思わなかったですね。

ーーまさに青春ですね……!

青春とは何かーー2人の考えは?

ーーお2人は青春をどう捉えて作品作りをやってきましたか?

松本:その瞬間しかないものが青春だと思います。だから、『サマーフィルムにのって』では高校生活最後の夏を舞台にして、しかもタイムトラベルしてきた子が未来に帰らなきゃいけなくてと、時間をどんどん限定していきました。しかも主人公達が作った映画も、永遠には残らないかもしれない。そういうはかなさと煌きは、青春の中にしかないのかなと思います。その時のエネルギーや感情が、その人にとって初めての衝撃であることも、青春においては大きいですよね。そう考えると、おじさんと何かの出会いも青春なのかなと思います。ただ、今その時が限定されていることにこの子達が気付いていない、今が青春なんだと誰も気付いていないのが、若い子ならではなのかなと思います。

三浦:その人達のとある瞬間を描くことで、その前後の時間をひっくるめて見てもらうものを作っているんだと思います。僕は普段演劇を作っているから、青春映画が映像として残ることに感動します。

松本:なるほど。演劇は再演ができますけど、ちょっと違いますね。

三浦:18歳の子達と演劇を作って、その子達と数年後にまた演劇を作っても、もう18歳じゃないから同じものは作れない。だから『サマーフィルムにのって』のこの子たちが、何年後にもそのまま残ることにすごく感動します。

ーー青春と映画の相性が良い理由がわかった気がします。

松本:いいですよね。チラシの写真も、超青春ですよね。写真も瞬間を切り取れるから青春と相性がいいなと思います。

松本壮史
1988 年生まれ、埼玉県出身。CMや映画、ドラマなど映像の監督。主な作品に「北欧、暮らしの道具店」やオリジナルドラマ『青葉家のテーブル』、ドラマ『お耳に合いましたら。』(テレビ東京)等。監督作の江本祐介「ライトブルー」のMV が「第21回文化庁メディア芸術祭」のエンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出。長編デビュー作『サマーフィルムにのって』は「第33回東京国際映画祭」の特別招待作品に選出され、多くの映画ファンからの注目を浴びた。今年は長編2作目の映画『青葉家のテーブル』も公開。

三浦直之
1987年生まれ、宮城県出身。2009年、日本大学藝術学部演劇学科劇作コース在学中に、処女作 『家族のこと、その他たくさんのこと』が王子小劇場「筆に覚えあり戯曲募集」に史上初入選。 同年、主宰としてロロを立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当する。2015年より、高校生に捧げる『いつ高シリーズ』を始動し、戯曲の無料公開、高校生以下観劇・戯曲使用無料など、高校演劇の活性化を目指す。そのほか脚本提供、歌詞提供、ワークショップ講師など、演劇の枠にとらわれず幅広く活動中。2016年『ハンサムな大悟』第60回岸田國士戯曲賞最終候補作品ノミネート。

『サマーフィルムにのって』
勝新を敬愛する高校3年生のハダシ(伊藤万理華)。キラキラ恋愛映画ばかりの映画部では、撮りたい時代劇を作れずにくすぶっていた。そんなある日、彼女の前に現れたのは武士役にぴったりな凛太郎(金子大地)。すぐさま個性豊かな仲間を集め出したハダシは、文化祭でのゲリラ上映を目指すことに。青春すべてをかけた映画作りの中で、ハダシは凛太郎へほのかな恋心を抱き始めるが、彼には未来からやってきたという秘密があった――。

監督:松本壮史
脚本:三浦直之(ロロ)、松本壮史
出演/伊藤万理華、金子大地、河合優実、祷キララ
全国公開中
phantom-film.com/summerfilm

Photography Ryu Maeda

author:

須永貴子

ライター。映画、ドラマ、お笑いなどエンタメジャンルをメインに、インタビューや作品レビューを執筆。『キネマ旬報』の星取表レビューで修行中。仕事以外で好きなものは食、酒、旅、犬。Twitter: @sunagatakako

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