tokyovitaminのコンピレーションアルバム『Vitamin Yellow』に見たユース世代の東京のムード

2022年に入り、早くも序盤が終了しようとしている。依然として日本はコロナ禍であり、今もパーティやイベントは、パンデミック以前の状態には戻っていない。リアルな現場が少なく、必然的に出会いや体験も減っているわけだから、シーンの中心にいなければユースカルチャーがどのような変遷を遂げているのかを知ることは難しい。ましてや、日本、そして東京が現在、どんなムードをまとっているかを感じることなんてできないだろう。
そういった意味で、tokyovitaminが2021年末にリリースしたコンピレーションアルバム『Vitamin Yellow』は、東京の2022年がどのような方向に向かっているのかを知る道標のような内容になっている。そのポイントは、本作が“コンピレーション作品”であるというところにある。

日本から発信されている音楽表現の1つとして世界に伝わればいい

クラブカルチャーを起点にストリートや社会で活動し、人づてにコネクションを築き上げてきたレーベル、tokyovitaminが、周囲にいるアーティストやクリエイターとともに1つの作品を作り上げたのは、本作『Vitamin Yellow』に凝縮されている音楽やリリックに、今の東京がまとうムードが内包されていることによる。
tokyovitaminの音楽的表現と言えば、過去を振り返るとSoundCloud上で“Radio”形式のミックスを発表し続けてきた経緯があり、そこに自分達だけではなく、彼らを取り巻く多くの人が参加する形で発信されてきた。彼らはDJとしても活動しているので、それはその延長線上にある発信の1つなのだろう。そして、2020年には初となるコンピレーション作品『Vitamin Blue』を発表し、具体的にレーベルとしての活動が顕著になっていくことになった。では、そもそもなぜ、tokyovitaminはコンピレーションをリリースし続けるのか。

「今、日本から発信されている音楽の1つとして、どこかの誰かに届けばいいという気持ちで作っています。もちろん日本、海外関係なくですね。自分が海外で生活していたとしたら、きっとこういう作品(tokyovitaminのコンピ作)が引っ掛かると思うので。普段、それぞれの場所で活動しているアーティストと力を合わせて1つの作品を作ることで、参加してくれるアーティストにとっても、いつもとは違う魅力が発揮できる場所になれればいいと考えています。と同時に、リスナーにとっては、知らないアーティストと出会う機会も作れるはずですから」(Vick)。

「コンピレーションアルバムって、すごく平等性の高い作品だと思うんです。もちろん、何曲かをピックアップしてMVを制作したりもしているんですけど、それがアルバムのリード曲というわけではなく、全曲がシングルのような感覚というか。そういう性質を持っているから、コンピレーションが好きなのかもしれないですね」(Kenchan)。

tokyovitaminのコンピ作に参加するのは、現状、日本のアーティストがメインになっている。そこには、VickやKenchanが東京で生活する中で、得ている雰囲気やイメージ、時代観を作品に落とし込み、それを世界へ向けて発信したいという意図が込められているようだ。

「2021年に関しては、海外にも行けなかったので、ずっと東京にいた結果が本作に反映されているんですよ。自分達なりの東京の解釈といった側面もあります」(Vick)。

「国を限定して参加してもらうアーティストに声をかけているわけではないので、今後は変わってくる部分ではあるかもしれないんですけど、『Vitamin Yellow』に関しては、今の日本、東京というところをフォーカスしている形に結果的にはなりましたね。でも、今後は海外のトラックメイカーと東京のアーティストなど、逆もしかりですけど、いろいろと自分達なりにミックスさせる方法を考えているところなので、自分達としても今後の作品が楽しみなんですよ」(Kenchan)。

さて、『Vitamin Yellow』に参加しているラインアップを見てみると、tokyovitaminから普段からリリースしているDuke of Harajukuはもちろん、前作に引き続きYoung CocoLootaらが名を連ねる。そして初参加アーティストとして、GliiicoStones TaroKaorukoMIYACHIMANONなどが並び、なかむらみなみ、Rave RacersJUBEEの組み合わせにも目を惹かれる。このラインアップが、tokyovitaminが現時点で解釈した“東京”ということになるだろう。参加アーティストは、Vick、Kenchan、Duke of Harajukuの3人が、それぞれ楽曲のディレクショナーとなり、一緒に制作をしたいアーティストを考え、直接相手にアプローチしたり、DMを送ったりしながら、ラインアップの幅を広げていったそう。このうち、前作『Vitamin Blue』リリース以降に出会い、参加したのは、Bleecker ChromeOnly U、LA拠点のKazuoだ。Stones Taroは、Kenchanが本作への参加を希望しオファーした。そして、Kaorukoとのコンビネーションを考えながら制作していった楽曲になる。

「WHAT HAPPENED – MIYACHI」

「LOVE DON’T LOVE – Loota, Young Coco & Gliiico」

「一緒に制作をするためには、お互いを理解し合っていることが大事だと考えています。もちろん、作っている音楽や活動のかっこよさに惹かれて一緒に作りたいと声掛けする場合もあるんですけど、あらかじめ関わりがあったり、人となりを知っていたりするアーティストが自然と多くなった感じですね」(Vick)。

「お願いするアーティストに対して、何か一定の基準を設けているわけでもなくて、個人的な好みだったり、自分達自身がかっこいいと思ったりする感性によるものが大きいんですよね」(Kenchan)。

そう2人が答えるように、まさに自らの感性を軸に、本作に参加したラインアップが決まっていった。自分の意志とチャレンジ精神を持って創作に挑んでいる、というアーティストのマインドも、声を掛ける上での重要なファクターとなっている。
しかし楽曲ごとにディレクターを分けて、多くのアーティストが制作に参加しながら1つのコンピレーション作品を作るということを考えると、アルバム全体の世界観を、ある程度同じ方向性を向くように調整する作業も必要になるのではないだろうか。実際に『Vitamin Yellow』は、コンピ作でありながら通して聴くと、非常にまとまりがあって、tokyovitaminという器が発信する音楽として、1つの個体のように聴こえてくる。

「参加アーティストを呼んでくる人が、ディレクションをやるという流れで制作を進めたんですが、統一感を出すために何か特別な作業やすり合わせをしているわけではないんです。お互いに好きなものは理解し合っていますし、何も言わなくても自然に伝わり合うものなんですよね。たまに、どういう曲がいいかってことを聞かれたこともあって、そういう時は大まかな方向性に対して意見を伝えることはありましたが、何か具体的に指示するようなことはしませんでした。基本的にお任せで、そっちのほうがおもしろい作品になるし、自然とまとまってくるんですよね」(Vick)。

自分達だけではなく、みんなのムードが表現された作品

『Vitamin Yellow』は前作の『Vitamin Blue』と比較すると、よりメロディアスでロック調に聴こえる部分があり、ミクスチャー要素がより強くなっている。ここは意図した部分があるのだろうか。

「ミクスチャー要素が強く感じられるのは、自分達がというよりも、みんなのムードのせいでしょうね。参加したトラックメイカーやプロデューサーにしてもそうですけど、やっぱり前と同じものではなく、新しいものを作りたいって気持ちはベースにあったと思うので、差を感じられるんだと思います」(Kenchan)。

「確かに2020年は、本作のようなムードではなかったですね。ロックとは思っていないんですけど、メロディの主張が強いというのは、僕も感じています。それは世の中のテンションに影響された結果で、曲の体感的スピードに関しても、少しゆったりめというか。エネルギッシュであることは前提に、考える時間や余裕を持った音楽に歌を乗せていきたいって感覚が自然と出ている部分はあるかもしれないですね」(Vick)。

そして、コンピのリリース日近辺には、2日間限定で「TOWER RECORDS 渋谷」でポップアップストアが開催された。渋谷の中心で、このようなイベントが展開されたということも、本作が東京を象徴しているような心持ちにさせられる。

「ポップアップストアは、自分達にしても嬉しかったですね。数年前からタワレコとは何か一緒にやろうって話があったんですけど、それが今回のタイミングでうまく噛み合って実現できた流れです。アルバムのカラーであるイエローと偶然でしたが、ばっちりでした」(Vick)。

「小学生の頃からタワレコには通っていました。それこそ前は、6階によく行っていたんですよ。メタルとかハードコアのCDが並べられているフロアで、輸入盤をずっと掘っていたんですよね。1階のモニターにも、MV『Stones Taro & Kaoruko – YOU WORRY』を流してもらえたし、そんなふうに自分が作った映像が使われるのは、ちょっと感動するものがありました。それに、クラブや居酒屋では会えないような人が、ポップアップストアを見てくれたのも嬉しい点でした」(Kenchan)。

「Stones Taro & Kaoruko – YOU WORRY」

音楽だけではなく、ジャケットのアートワークにも惹かれる本作。映し出されているのは、ネオンアーティストのWAKUが、本作のために制作したアート作品。WAKUとKenchanの交流は6年以上にわたり、その関係性から実現したものだ。このアート作品もポップアップでは展示された。WAKUのネオンアートは、アクリルなどへの反射光も含めて、1つの作品として完結する性質を持っており、角度によって違う表情を堪能することができる。現場で、そのアートが持つ本来の魅力の一片を伝えたわけだ。

「YELLOW (Behind the Scenes of Vitamin Yellow) – Mat Jr」

このようにtokyovitaminが表現した東京の今をまとう『Vitamin Yellow』だが、実際のところ2人は、現代の東京サブカルチャーや、自身を取り巻くシーンのムードについて、どう捉えているのだろう。

「難しいですね。ムードをひとくくりに語れるほど、みんなに会えていないですし、なかなかひとまとめに言えることでもないですよね。ただおもしろいことが各地で起こっているのは確かです。かっこいいバンド、プロデューサーもいれば、いいレーベルが乱立している時代ですよね。ここから、また海外のアーティストやクリエイターとの交流がコロナ禍前のように増えていくと、どういったカルチャーの混ざり方になるのか、考えるだけでも楽しみで仕方ないですね。東京だけではなく、関西でも、プロデューサーのE.O.UKeijuktskmVisPAL.Sounds(京都拠点)というレーベルをやっていたり、おもしろいイベントも多いです。僕は基本的に、みんながやっていることがすごく楽しみなんでワクワクしていますよ」(Kenchan)。

「東京は世界をつなぐハブになる街だと思うんです。パンデミックで世界からの生の情報がシャットアウトされている中でも、日本中のアーティストやクリエイターは頑張って発信していることが伝わってきます。Kenchanが話したように、東京だけではなく、全国におもしろい人がいて、それぞれが現状を踏まえた上で、今でしかできないものを生み出しているのがおもしろいと思うんですよね。そうやって、おのおのがクリエイティブな活動を重ねていった先、次の段階として、世界のリアルな情報が一気に流れ込んできたら、すごくおもしろいカルチャーが作れると感じていますね。今だけの話で言えば、情報が出入りすることで成り立つのが東京ですし、そうなったら楽しいけれども、そうでない状況でも、想像していなかった形で全然楽しくやっているという感じがします」(Vick)。

tokyovitaminのコンピレーションアルバム『Vitamin Yellow』に見る現代東京のムード。そこには、東京から世界を見据えた上で、彼らならではのローカル感がワールドワイドに表現されている。そのアートワークからトラックの雰囲気、リリックの内容を聴き込めば、今後の東京ユースカルチャーの形を体感できるはず。今後、彼らの視点で、どのように時代を切り取って表現していくのか。それもまた楽しみでならない。

Vick / Kenchan
東京を拠点とするインディペンデントレーベル。音楽とブランドを中心に映像、写真、服、イベントなどさまざまなクリエーションをプロデュースするプラットフォームとして2016年に設立。VickはディレクターとDJとして、 Kenchanは映像、VJとしても活動し、おのおのアーティストのMVや企業とのコラボレーションも積極的に行 っている。同世代のアーティストやクリエイターとの制作活動を中心に、自らと近い発信を行う次世代の活 動もフックアップする。2021年末2ndコンピレーションアルバム『Vitamin Yellow』をリリース。
Instagram:@tokyovitamin / @vickokada / @kenchantokyo

Photography Takaki Iwata

author:

田島諒

フリーランスのディレクター、エディター。ストリートカルチャーを取り扱う雑誌での編集経験を経て、2016年に独立。以後、カルチャー誌やWEBファッションメディアでの編集、音楽メディアやアーティストの制作物のディレクションに携わっている。日夜、渋谷の街をチャリで爆走する漆黒のCITY BOYで、筋肉増加のためプロテインにまみれながらダンベルを振り回している。 Instagram:@ryotajima_dmrt

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